第一七話 昼食の確保
欲しいものは一通り手に入った。具体的にはスマホホルダー、ヘルメット、雨具。それにヘルメットに着けて会話が出来るインカムなんてのもあったのでありがたく頂く。
工具を借りてスマホホルダーをつけ、雨具をボックスの中に入れる。スマホをホルダーに入れ、シルバーのジェットヘルをかぶって準備OKだ。
「聞こえる?」
「思ったよりはっきり聞こえます」
「確かにそうだな」
インカム、なかなか良く出来ている。このジェットヘルをかぶっている状態なら雑音もあまり入らない。
「何か要望があったら言ってくれ。何も無ければこのまま駅へ向かう」
「わかりました。今は大丈夫です」
さて、魔物はどれくらいで出るだろう。道の所々に停まっている車を避けながらなのであまり速度は出せない。大体時速三十キロくらいだろうか。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
五百メートルも走らないうちにスマホが鳴った。チラリと目を走らせると画面が真っ赤。間違いない、魔物だ。
「停めるからまた頼む」
「わかりました」
交差点の中央でスクーターを停める。ここなら近くに建物が無いし車も停まっていない。だから魔物を見つけやすい筈だ。
ハンドルを支えつつ急いでスクーターを降りる。
「ヘルメットはこっちへ置くから、魔物を頼む」
「わかりました」
西島さんのヘルメットを受け取ってミラーにかける。それから俺もヘルメットを外して、そして反対側のミラーへ。
ヘルメットがあると視界が狭くなるし面倒だ。なんて事を考えつつ目と耳で魔物を探す。スマホは赤背景のまま。つまり周囲百メートルの範囲の何処かにいる。
周囲を見回しながらホルスターから拳銃を出したところで。
「いました」
今回も西島さんが俺より先に魔物を見つけた。右側、そこそこ大きな塾の建物の横で、今度もゴブリン。
ゴブリン以外の魔物は出ないのだろうか。後でスマホで確認しておこう。
西島さんは拳銃を構えゴブリンの方へゆっくり近づいていく。やっぱり落ち着いているなと感じる。だからきっと今回も大丈夫だろう。そうは思うけれど念の為俺は斜め後ろ位をついていく。
西島さんはゴブリンの十メートルくらいで立ち止まった。ゆっくり拳銃を持つ腕を上げ、近づいてきたゴブリンを撃つ。
ドン! あっさり命中。ゴブリンは今までと同様、前のめりに倒れて動かなくなった。
「何かすぐ出てきました。この先もそうでしょうか」
「もっと出てくるかもしれない。この先の方が人口密度が多いから」
「なら本当は危ないのでしょうけれど、ヘルメットは無しにしましょうか。街中で魔物を探している時はゆっくり走るからヘルメット無しで、移動の時はヘルメットをかぶって」
確かにその方がいい気がする。
「だな。魔物をさがしている時はヘル無しで。ゆっくり走るから大丈夫だろ」
「いっそ半丸の工事現場みたいなヘルメットの方が良かったかもしれないですね。今回のような場合は」
「確かにな。また店があったら探してみようか」
バイクに戻って、シート下とボックスにヘルメットを仕舞う。
何となくスマホを見たところ、表示が変わっていた。
『魔物の種類はレベルと場所によって変化します。
市街地付近の場合はレベル三くらいまでは主にゴブリンで、レベル三から六はホブゴブリンが多いです。
人が少ない森林地帯等ではレベル三まではコボルトが多くなります。
またレベル十程度以上になるとオークが、レベル十五以上でトロルが、レベル二十以上でオーガといった魔物も出現するようになります』
そう言えばさっき思ったのだった。
『ゴブリン以外の魔物は出ないのだろうか。後でスマホで確認しておこう』
きっとこれはその回答だ。
「何か新しい情報が入っていますか?」
西島さんがのぞき込もうとしていた。
「ゴブリン以外の魔物が出るかについて見てみたんだ」
ホルダーからスマホを外して西島さんに渡す。
「……なるほど、つまり明後日くらいまではゴブリンばかりなんですね。人口がそこそこ多そうな市街地を中心にすれば」
「あとでホテルか何処かへ落ち着いた時、出現する魔物については調べておくことにしよう」
「ですね」
西島さんが返してくれたスマホをホルダーに取り付け、そしてまたスクーターに乗って移動開始だ。
◇◇◇
そして水都の街中へ。何というか今までと段違いに魔物が多い。酷い時など百メートルも移動しないうちに警告が鳴る状態だ。
水都駅前なんて一気に三体出てきた。それぞれ違う方向から。
スマホからの警報。交差点のど真ん中にスクーターを停める。西島さんが降りた後俺もすぐ拳銃を手に周囲を確認。
五叉路っぽい交差点だが他に細い路地も幾つか。更に駅側にはペデストリアンデッキがある。どこから魔物が出るかわからない。
『魔物確認! 百メートル以内に三体!』
何処から来るかわからない状況で、だだっ広い交差点で止まったのは失敗だっただろうか。そう思いつつ目と耳とで周囲を必死に探す。
何か動くものが見えた気がした。視線をそっちに戻す。いた。駅側、デッキにのぼるエレベーターが二基あるところに一体。
「いた。駅側、エレベーターの脇」
「こっちもいました。左並木の横の路地です」
どうするか。あと一匹見つからない。そう思った時だ。
「もう一匹いました。並木の左先の歩道橋脇です」
このまま待っていては一気に三体を相手する事になる。それは危険だ。ならば。
「一番近いの、路地から来るのを先に倒そう。西島さん頼む。俺は周囲を警戒しながら一緒に行く……」
まずは一番近いゴブリンに二人で走って近づく。十メートル位で西島さんが立ち止まり、拳銃を構えて発射。
ゴブリンが倒れたのを確認してすぐ俺は残り二体を確認。並木の先にいる方が若干近い。
「並木の先のは俺が倒す。西島さんは駅側のをここで待ち構えてくれ」
「わかりました」
走って近づき、目測十メートルのところで銃を構える。すぐ撃ちたいのを我慢し、近づいたところで射撃。倒れたのを確認してすぐ西島さんの方へ。
三体目は西島さんからまだ三十メートルくらい離れていた。そして西島さん、既に銃を構えている。
「そっちは頼む」
「わかりました」
俺より西島さんの方が射撃は上手いし度胸もある気がする。しっかり落ち着いて狙って、そして発射。一撃で倒した。
もう一度三体の様子を確認。動いていない。無事倒せたようだ。しかし心臓がドキドキしている。正直怖かった。
こうなった理由ははっきりしている。
「ごめん、作戦ミスだった。今度は交差点がない狭い道とかで停めて、魔物が来る方向を限定した方がいいかもしれない」
「確かにそうかもしれません。ただゴブリンは足が遅いから、いる場所から離れると待たなければならなくて怖いです。
やっぱり魔物を見つけるとその分安心出来ます。ですから数が少ない時は今のように回りが開けた場所で止まってもいいのではないでしょうか」
「確かにそうだな。その辺は場所場所で臨機応変にするのがベターか」
◇◇◇
こんな感じで魔物を倒し、進んではまたスマホの警告で止まって。そうやって水都の繁華街部分は一通り回った。結果、僕も西島さんもレベル四に。
『レベル四になりました。よほど強度が強い運動を分単位で行う等しない限り、発作を起こす可能性は低いでしょう。スクーターに乗る、ジョギング程度の速度で一キロメートル走るといった程度なら問題ありません』
勿論これはスマホ情報だ。これでとりあえずは一安心。
ただそんな事をやっていると疲れるし腹も減る。時計を見たらもうすぐ十二時だった。そろそろお昼休憩だろう。
ただこの辺では正直落ち着けない。勿論ひととおり倒したし、近くに出ればスマホで警告も出る。
それでも今までの事を思うと何時出るかなんて思ってしまう。この辺でのんびりする気にはならない。
「そろそろお昼にしたいけれど、少し街中から離れた所へ移動して食べないか?」
「そうですね。人口が多い場所ですと再発生する可能性を否定できませんから」
なので街の中心から脱出、国道沿いに南に少し離れた場所にあるコンビニに寄って、それからその少し先にあるファミレスへ。
この事態になった時刻にはまだスーパーマーケットに弁当は無いし弁当屋も開いていない。
弁当が並んでいるのはコンビニくらいだし、椅子とテーブルがあってゆっくり食事を取れそうな場所で開いているのはホテルかファミレス位。だからまあ、仕方ない。
それでも今回、立ち寄るコンビニにはこだわってみた。具体的には北開道の地域コンビニで他は茨樹県と埼多摩県にしか無いというちょっと珍しいコンビニにしたのだ。
確かに朝行った全国メジャー系のコンビニとは品ぞろえが違う気がする。あまりコンビニを使わないからよくわからないけれど。
「賞味期限を多少過ぎても大丈夫だとは思います。でもそれでも明後日にはお弁当が食べられなくなるのは残念ですしもったいないです」
「仕方ないよな。そうなったらレトルトかパック、あとは冷凍食品を電子レンジで温める形にするしか無いか」
「後で他に方法がないか調べてみます」
そんな事を話しながらこんがり焼きチキン、刺身のパック、煮卵、ポテトサラダ、焼きサバ等の総菜を10個。さらに弁当のご飯のかわりに大きなおにぎりと称するもののすじことたらこ。
あと甘味系としてメロン大福にハスカップ大福、草大福。アイスコーナーから北海道メロンソフト、あとティラミスとシュークリーム。
「これでも取り過ぎだとはわかっているんです。でもどれもおいしそうですし、このまま放置していくのも忍びないのでついとってしまいます」
未練たらたらという感じの西島さん。病院で出会った時とだいぶキャラが違うよなと思いつつスクーターへ。レジ袋大一つにめいっぱい入った昼食&おやつをハンドルに引っ掛け、良さそうなファミレスを探す。
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