第一六話 家屋侵入?
西島さんは間接キスは特に気にしないようだ。食べかけのサンドイッチとか、アイスとか経由の間接キス。アイスの場合は厳密には間接キスの間接キスという感じだけれど。
なら俺だけ意識するのも恥ずかしい。だから意識していることを表に出さないよう徹底する。
「あ、あと今日のホテル、いい場所が見つかりました。大新井ですけれどいいですか?」
大新井は水都から二十キロない。あちこちに車が停まっている状態でも三十~四十分くらいあれば余裕で行ける距離だ。
「それくらいの距離なら全然問題ないけれど」
しかしどういう意味でいい場所なのだろう。何を基準に選んだのだろう。聞いていいのか、聞いて西島さんが気分を悪くしないか。
わからないので特にコメントしないでいると、西島さんの方から言ってくれた。
「大新井なら水都よりは人口も人口密度も少ないです。だから魔物が発生しにくいと思います。寝ている間に魔物が大量発生という可能性も低いでしょう。四階以上の部屋なら外から魔物がやってくる事もないと思います。
あと実は海に行ってみたいです」
確かに街中より安全かもしれない。なるほどと思う。
それと海に行ってみたいか。確かに夏と言えば海だよなと思う。陽キャ的な事をした事はないけれど。
女の子とバイク二人のりで海へ行くなんて何処の青春漫画だよと思う。現在風では無い、うん十年前風の青春。バイク二人乗りなんて今時流行らないだろうし。
今は状況に対応した結果、そうなってしまっただけだ。うん十年前の青春も陽キャも関係ない。だから浮かれる事もないのだけれど。
「わかった。それじゃ午後四時くらいには水都を出て向かおうか。明るいうちに周囲に魔物がいないか確認しておきたいから」
「わかりました」
特に反対する事もないので、宿はこれで決定。その後アイスを平らげてほぼ今日この後の方針が決まった。
「この後は街の人が多そうな所を周回して、魔物を探して倒す。ただし気になるところがあったら適宜寄ってOK。お昼になったら今と同じように何処かのお店に入って昼食。それでいいか?」
「ええ、それでお願いします」
「わかった」
ゴミはまとめてコンビニ袋に入れ、店内裏側にあったゴミ箱へ。別に放置しても問題はないけれど、単に気分だ。
スクーターに乗って、そしてまた思ってしまう。この二人乗り、どう考えても後ろで密着状態だ。しかも西島さん、上はTシャツ一枚だし。ブラはしているけれど。
背中が熱い気がするが意識したら負けだ。それに西島さんはきっと二歳以上年下、胸だってほとんど無いし気にするほどじゃない。そう意識を強く持ってスクーターをスタートさせる。
気温は七月終わりにしてはやや涼しい。それでも三十度は超えているだろう。
念の為に西島さんには魔法をかけている。だからすぐには調子を悪くするなんて事はない筈だ。
それでも二時間くらい経ったら一度休憩した方がいいだろう。それともレベル三にする方が先だろうか。そうすれば炎症が治まって運動不足の一般人と同程度には動けるようになる筈だから。
どちらにせよ目指す方向は街の中心。とりあえず人が多くて魔物が出そうなところ。さしあたってはバイパスでない方の国道をまっすぐ進み駅を目指す。
バイパス方向への分岐で側道側に入り旧道へ。左側に池がある公園を過ぎたところでスマホが鳴った。お馴染みの魔物警告だ。
スクーターを停めて、ハンドルを支える。
「降りて銃の準備して」
「わかりました」
ハンドルを支えながら周囲を確認。斜め前にバイク屋があった。中古車販売店だけれど簡単な用品くらいはありそうだ。
ここで魔物を倒したら寄ってみよう。そう思いつつ視覚だけで無く聴覚にも神経を集中させて周囲を警戒。
「いました」
西島さんの見ている方を見る。右側の家の生け垣向こう側に緑色の頭が見えた。こっちへ来ようとしているが生け垣が邪魔でジタバタしている。
「任せた。銃で倒して。走らなくていいから」
「わかりました」
西島さんは銃を両手で構えゆっくりゴブリンに近づく。五メートルくらいまで近づいたところで止まって、狙いを定めて引き金を引いた。
生け垣のところでジタバタしていたゴブリンが動かなくなる。なかなか落ち着いた動きだなと思う。
スマホを確認。警告は消えていた。ただし倒したというメッセージはない。でもそれはきっと西島さんのタブレットの方に出ているのだろう。
「倒せたようです。でもすみません、私が倒して」
「レベル三になるまでは西島さんに優先的に倒して貰うつもりだから。あとはお互い経験値が均等になるように。その方が互いの生存確率が上がる」
嘘は言っていない。でもこの言い訳で納得してくれるだろうか。
「ありがとうございます」
「礼はいい。俺の安全の為でもあるから」
思ったより素直に受け入れてくれた。ちょっとほっとする。
それでは出る前に、ここで出来る事をやっておこう。
「あと予定していたのとは違うけれどバイク屋があるからさ。ちょっと見てみよう」
「そうですね。でも入れるでしょうか」
「わからない」
スクーターを押してバイク屋前へ移動。店正面の入口から順番に調べてみる。
横に大きめのガラス窓があった。その気になれば割って入る事が出来そうだ。
ただガラスを割るのは正直抵抗がある。別に今の状態なら問題はないだろうとは思うのだけれど、気分的に。
ぐるっと一周して周囲を調べる。扉も窓も、間口部分の開き戸も鍵がかかっている。
一周したが開いている場所はない。これは窓ガラスを割るか、それとも諦めるか。
「流石に開いていない感じだな。どうしようか」
「あんな風に空いている窓が一階にあれば良かったんですけれど」
ん!?
「何処か窓、開いているのか?」
「あそこです」
西島さんが指さしたのは正面の開き戸の上部分にある窓だ。確かに他と比べると少しずれていて、開いているように見える。
「オーニングで見えなかったな。確かにあれは開いていそうだ」
「でも二階では無理ですよね」
多分無理じゃない。もちろん普通なら無理だ。しかしレベル三になった今の俺なら出来る可能性がある。
オーニングが邪魔にならない範囲で一番該当の窓に近い場所に移動。上を見上げる。この高さなら何とかなりそうだ。
俺は軽く屈伸し、思い切りよくジャンプ。あっさりととは言わないが、ぎりぎりで2階の窓外の金具とオーニングの棒に届いた。足でオーニングの金具を踏んで体重を支え、サッシの金具を掴んでバランスを取る。
「えっ!」
驚いている西島さんの声。レベルアップでここまで体力が上がることは調べていなかったようだ。
俺は窓のサッシ外側に足をかけて横移動し目的の窓の前へと到達。
下から見たとおり窓は開いていた。立て付けが悪いのか老朽化のせいか、閉まらなくなっているという感じだけれど。
右手を入れて思い切り横へ引く。動きは悪かったが何とか開いた。なので無事中へと進入。あとは普通に店内の階段を使って下へ降りて入口の鍵を開ける。
「あんな高くジャンプできるんですね」
「レベルアップのおかげだ。元々は運動は得意じゃない」
それでは店内を漁るとしよう。ヘルメットや雨具、バイク用品があるのは既に見えている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます