第一五話 今日の予定

「何処へ行くかについては、少し考えて調べてから答を出していいですか?」


 問題はない。


「もちろん。レベルが低いうちは此処で充分だろうから」


 水都市内にはレベル一の魔物が一日に七五体出現する計算となる。少なくともスマホの回答通りなら。だからレベルが低いうちなら此処で十分レベルアップ出来るだろう。


「なら今日はここでご飯を食べて、物を揃えながらこの市とその周辺で魔物を退治する感じでいいでしょうか。それ以上は夜に情報を検索しながらじっくり考えたいです。

 今すぐ人口が多い都市部へ行って、魔物を狩りまくってレベル上げをするなら別ですけれど」


 確かにそうだなと考えてみて思う。


「そのとおりだな」


「なら今は魔物を狩るのに何処へ行くのか、また何か手に入れた方がいいものがあるのか。それくらいでいいと思います」


 今すぐやるべき事を決めて、あとはもっと情報を手に入れてから考えるか。確かにそれが正しい気がする。

 何というか西島さん、俺よりしっかりしているというか、この事態でも落ち着いていると感じる。外見から中学一年位と判断したけれど実際には何歳なのだろう。もっと上かもしれない。

 聞いていいかわからないから聞けないけれど。


「ならまずは何が必要かかな。とりあえずすぐ欲しいのはスクーター用のスマホホルダー。あれがあるとカーナビになるし、走行中にスマホから警告があった時、さっと見えるし」


「それならまずはバイク屋さんでいいでしょうか。あとヘルメットとかもバイク屋さんで見た方がいいと思います。雨具なんかもいざという時のために用意したほうがいいかもしれません」


 今まではノーヘルだった。しかしヘルメットがあったほうがいいのは間違いない。雨具も雨の日に移動しなければならない可能性を考えると用意した方がいいのは確かだ。


「そうだな」


「あと、今日泊まるつもりのホテルもここで検索して決めていいですか? どうせなら通りすがりで見るより、いいところに泊まりたいと思いますから」


 ホテルはまあ、そこまでこだわらなくても大丈夫だとは思う。

 なんて思って、そして気づいた。

 今日俺は西島さんとホテルに泊まるという事に。


 勿論変な意味じゃない。

 しかし文章にするとなかなかにいかがわしいというか、妄想力全開になりそうだ。

 

 まあ宿については調べておいたほうがあとが楽なのは間違いない。

 椅子とテーブルがある場所にいるのは食事でレストランに入っている時か、宿泊するホテルにいる時くらいだろうと思うから。

 そう結論づけて、妄想その他は出来るかぎり思考から追い出す。


「とりあえず最寄りのバイク屋と、あとホテルを調べてよう。魔物は走りながら反応があった場所で停まって倒せばいいし、食料はコンビニくらい走ればそこここにあるから」


「そうですね。なら食べたら検索して調べましょう」


 ただ目の前の弁当やおかず、なかなか減らない。やはり少し多すぎたようだ。

 そろそろ片付けに入るとしよう。今開いているだけならギリギリ俺が頑張れば食べ切れる量だ。開いていないおにぎり2個とサンドイッチは後回し。ただしアイスは溶けるから、時間をかけてでもここで食べる方針で。


「この辺は今は開けないで、途中お腹が空いたら食べる用でいいか? あとこの鮭と明太子の弁当、俺が食べきっても」


「すみません。つい嬉しくて取りすぎました」

 

「あの店においておいても腐らせるだけだし問題ないだろ。だから無理して食べきろうとしなくて大丈夫」


 テーブル上の戦線を徐々に縮小。


「それじゃ俺は良さそうなバイク用品店を探すから、ホテルを探してもらっていいか? あと他に何か行く場所があればそれも」


「わかりました。ホテルの場所はどのくらいの範囲にしますか?」


 付近の地図を思い浮かべる。この辺でホテルがそこそこありそうな場所というと……


「スクーターだしそこまで遠くなければ問題ないだろ。どこへ行かなきゃならないということもないからさ。その辺適当でいいと思う。大新井とか中港、何なら日太刀とか石丘とかあたりも大丈夫」


「わかりました。それで調べます」


 さて、俺はバイク用品店だ。ブラウザの検索窓に『水都 バイク用品店』と入力して検索。スマホ本来の使い方をしているななんてふと思う。勝手にこっちの思考を先回りして情報を表示するなんて謎な方法ではなく。


 全国チェーンのバイク用品店がそこそこ近くにあった。ここでいいだろう。水都の中心部を挟んで反対側の中港にある巨大ホームセンターにもそこそこバイク用品がありそうだけれど、まずは専門店で。


 ただホームセンターは一度行っておいた方がいいかもしれない。予想外の便利装備がある可能性があるから。

 それに今の近接武器の警棒、微妙に短くて不安がある。もっと長くて頑丈な武器があった方がいい。スクーターでどう持ち運ぶかは後で考えるとして。


 あ、でもそこまで行かなくてもバイク用品店のすぐ近くにホームセンターがあった。規模もそこそこ大きめ。中港の超大型店と比べれば流石に小さいけれど、普通に考えればここでも十分だろう。


「バイク屋は少し走ればありそうだ。あとその近くのホームセンターも行ってみていいか? 拳銃以外の、接近戦で使える武器になるものがほしい。場所はこの辺」


 コンビニから持ってきた地図で場所を説明する。


「確かにそうですね。あとこのホームセンターがある場所、洋服店やスーパーもあって良さそうです」


 そこで俺はある事に気づいた。


「ただ店は閉まっている状態だろうと思う。だから簡単に入れるかどうかはわからない」


「あ、そういえばそうですね。入れなければどうしましょうか」


 少し考えた結果少しばかり乱暴な案を思いついた。


「ホームセンターより先に街中で魔物を倒してレベルアップしておこう。レベルアップすれば体力が数段上がるみたいだから、多少の無理は出来るようになると思う」


「確かにそれしかないです。お仕事等で出入りしている扉が開いていればいいですけれど。

 今、田谷さんのレベルはいくつですか」


 スマホを見る。レベルの他に獲得経験値や倒したゴブリンの数まで表示された。


「今はレベル三。病院で出たのと同じゴブリンを五体倒して経験値が十五」


 レベル四になるには経験値が二十二必要だ。つまりゴブリンをあと三体倒す必要がある。レベル五だと経験値が三十九必要だから、あと八体倒さなければならない。


 しかし当座のレベルアップは俺より西島さんを優先したほうがいい。レベル三まで上げれば身体的に大分安心できる状態になるはずだから。

 西島さんは一体倒しているからレベル二で経験値三。レベル三まではあと三体倒せばいい。


 この方針は今は西島さんには言わない。ただ説明なり言い訳なりは今から考えておこう。西島さんはきっと遠慮するだろうから。

 ただ今と病院にいた時とは大分雰囲気が違う気がする。だから遠慮しないかもしれないけれど。

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