第一四話 朝ごはんを食べながら

 ファミレスに到着。使用中だった感じのテーブルから離れた場所に陣取り、買ってきたお弁当やおかず、デザート類を並べて朝食開始。


 なお自分のお弁当を選んで食べる形式ではない。好きなものを好きなように食べるバイキング方式だ。

 そうなったのは西島さんから要望があったから。


「どれも食べたいです。でも全部食べるのは絶対むりです。だから中華料理のように並べて、食べたいものを取って食べる形でいいでしょうか?」


 確かに彼女1人でこれ全部を食べるのは無理だろう。物理的な容量が足りない気がする。

 ただしこれだと間接キスなんて事態が起こりそうだ。ただそれを気にしているというのを言葉に出すのは何か恥ずかしい。


 だからあえてその点には触れない。実際俺はそこそこドキドキしているのだけれど西島さんは全く気にしていない様子だし。

 俺が考えすぎているのだろうか。そうであろうとなかろうと、このことに気づかないように振る舞うしかないのだけれど。


「ところでお願いばかりで申し訳ないのですけれど、お願いがあります」


「何でしょうか」


 別にお願いばかりというのは気にしていない。なにせ今は何をしなければならないなんて煩い事も、それを指摘する奴もいないから。


 勿論魔物を倒してもとの世界に戻るという前提はある。しかしそれすら強制されている訳では無い。そういう意味で自由だ。


 そして俺自身、やりたいようにやっているという自信も自覚もある。だから西島さんがそこを気にする必要はない。いちいちこの辺説明するのも何か変だから言わないけれど。


「まずは私に対して丁寧語を使わないで欲しいんです。普通に、友人に話すように話してくれればいいです。現在どう考えても私のほうが一方的にお世話になっている状態です。それで丁寧語で話されると何か落ち着かない気持ちになります」


 そう言われても難しい。そもそもフランクに話す間柄のやつなんて数人しかいないし、その中に女子はいない。

 だから西島さんに対しては丁寧語で話す方が俺としては自然だ。ただそれが西島さんの希望と言うなら……


「わかった。こんな感じでいいか?」


「ええ、それでお願いします」


 難しい。でも西島さんの要望ならこれからは何とか丁寧語を廃して話してみよう。

 さて、それでは本題だ。手に取った弁当のすき焼きっぽい牛肉部分とご飯を西島さんが食べる分がなくならないよう注意して食べて、そして尋ねる。


「それでこの後の予定だけれど、どうしようか。とりあえずレベルアップのために魔物を倒すのだけれど、何処へ向かおうとかはまだ決めていない。

 何か西島さんの方で行った方がいい場所、行きたい場所とかある?」


「人が多いところほど魔物も多いんですよね、一般的には」


 西島さんもその辺については調べ済みのようだ。


「そうらしい」


「ならとりあえずは駅前方向でしょうか。このへんでは一番人口密度が高いはずですから。寝る場所はどうするつもりですか?」


「何処かホテルの高めの階の部屋にしようと思う。程よく部屋が狭ければ寝ている間に部屋内に魔物が出現しないだろう」


 現に人がいる場所から十メートル以内は魔物が発生しない筈だから。

 それにしても丁寧語無しというのは微妙に難しい。どうしても考えながらになってしまう。


「欲しい装備とかはあるか? 俺の方はあのバイクにスマホを固定する台くらいだけれど」


「バイクのガソリンは大丈夫ですか。電気があるうちはガソリンスタンドで給油出来ると思いますけれど」


「確かに電気がどれくらい使えるかだよな」


 その辺は俺も全くわからない。まさかそこまでわからないよなと思いつつ、ついついスマホ画面を見てしまう。

 おっと、予想外の文章が表示された。


「ある程度は大丈夫みたいだ。そちらのスマホにも表示されているか?」


「ええ」


 俺のスマホ画面にはこう出ている。


『無人管理で維持可能なものについては基本的に維持されます。

 火力発電所等は数日経過後から燃料切れで停止するものが出ます。結果、最終日まで維持可能な発電能力は五割程度となる見込みです。それでも人口減による諸活動の停止等により電力供給はほぼ維持される見込みとなっています。

 水道、ガス等についても同様です』  

 

 きっと西島さんのタブレットにもそう表示されたのだろう。


「あと、今日に限らずこれから何処へ行くという目的や目標はあるでしょうか? 魔物をより多く倒すために東京に出るとか、他の人との争いを避けるために地方都市を転々と回るとか」


 その辺はトイレ待ちの時に考えたな。そう思いつつスマホを見る。予想通りあの時見たのと同じ内容が表示された。なかなか便利でいい。


「元々の人口百人につき、レベル一の魔物一体という割合で出現するらしい。これは三十五日間の合計値。だから毎日レベル一の魔物が出現するには三千五百人の人口が必要だ」


 スマホ画面をちらりと見て確認し、そして続ける。


「この水都市の人口は二十六万人。だからレベル一の魔物なら二千六百体。一日あたりレベル一が七十五体程度だ。

 端から端まで全部の魔物を見つけて倒してもこの程度だ。実際に全部探して倒すのは無理だろう。なら最初の家はいいとしても、レベル十を超えた辺りからレベルアップには足らなくなる」


 ここからはスマホの情報を確認しつつ、考えていたことをまとめながら話す。


「ただ東京等の大都市圏に行くつもりはない。人口密度が高い分、魔物が多く発生するだろうから。不慮の発生で油断しているところを襲われるなんて事態は出来るだけ避けたい。

 それに多く発生すればその分魔物同士での食い合いも起こるだろう。その結果、とんでもない高レベルの魔物が発生する可能性がある。そういうのと出会う可能性も減らしたい」


 あと残っている人と戦いになるのを避けたいというのもある。この状況で他人が信頼できるか。出会う他人を信じられるか。


 残念ながら俺は信じられない。性格その他に問題がある人間がいないと否定できない。だからあえて人が多そうな都会には近づかない。

 まあこの辺の理由は西島さんには言わないけれど。


「水都市より人口が多い市区町村は全国でも百ちょいしかない。大都市圏内の市区町村を除けばずっと少なくなるだろう。となると地方の大きめの街の人口密集地帯を転々と旅しながら魔物を倒していくというスタイルがいいんじゃないかと俺は思う」

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