第三章 一日目午前中

第一三話 朝食バイキング?

 この辺の道は大体しかわからない。取り敢えず先程走ってきた国道へ、水都の市街地に近い方向で合流するようにスクーターを走らせる。


 五分程走ったところでコンビニを発見した。道の角にあってそこそこ駐車場が広い。店そのものは普通の大きさだけれど、出入りが多そうな立地だから期待していいかもしれない。


 エンジンを切り、センタースタンドの金具を体重を乗せて踏みつけてバイクを自立させる。ハンドルを持って支えつつ降りて、それから西島さんも降車。


「大丈夫? 疲れなかったですか? あと狭くなかったですか」


 このバイク、後席部分の3割を『茨樹県警察』と書かれた荷物ボックスが占拠している。普通ならかなり狭く感じても無理はない。

 西島さんは小柄で細いから大丈夫だろうとは思う。でも狭いようならボックスを変えるか、この先何処かのバイク屋で適当なスクーターを見つけて乗り換えることにしよう。


「ええ、バイクの後ろって風があって気持ちいいです。後ろにボックスがあるから下がって落ちない安心感もありますし」


「狭くなかったですか?」


「大丈夫です。あまり広いと逆に不安だし、これくらいでちょうどいいです。

 それより早くコンビニ弁当を見ましょう」


 ポケットに入っているスマホには反応はない。なら少なくとも魔物はいないだろう。そう判断して一緒にコンビニへ。


 入口の扉は自動で開いた。まだ電気は大丈夫なようだ。中はエアコンが入っていて涼しい。まっすぐ弁当コーナーへ向かう西島さんの後を追って俺も弁当コーナーへ。

 

 ちょうど生鮮や弁当等が届いたところのようだ。弁当等のショーケースの横に弁当やサラダ等が入ったばんじゅうが積み重なって置かれている。


「折角だからこのケースを横に並べて、全部から選んでいいですか?」


「勿論です」


 まだ西島さんに動いて貰うのは不安だ。なので慌てて俺も手伝う。

 五段あったばんじゅうを横に並べる。弁当、サンドイッチ、カップサラダ等が各種取りそろえてという感じになった。


 西島さんはそれらをじっくり見回す。


「今のコンビニ弁当って結構高いんですね。驚きました。

 あと本当は出来るだけ持っていきたいです。このままだと腐るだけですから。でも食べられる量には限界がありますし、何個持って行けるか……」


 結構本気で悩んでいるようだ。たださっきまでと比べると楽しそうな感じ。


「俺の分も含めて、バイクの後ろ荷物入れに入る程度までなら選んでも大丈夫です」


「でもお昼や夜も他のコンビニに行けますよね。だからあまりここで多すぎても。あと何処で食べましょうか。外だと暑そうですし、ここの中にビニールシートを敷いて食べるか、病院に戻るか……」


 食べる場所は考え済みだ。このコンビニのすぐ先にファミレスが見えていた。


「食べる場所は大丈夫だと思います。この先すぐ先のファミレス、あのチェーンは朝食営業をしているから入れる筈です。テーブルがあるし空調も効いていると思うので、そこへ持って行って朝食にしましょう。

 量はまあ、食べられると思える範囲で」


「わかりました」


 弁当の方は西島さんに任せよう。だから俺は弁当コーナーを後にして本のある辺りへ。思った通り地図があった。関東近郊のものと全国のもの2冊を手に取る。

 スマホ画面より本の地図の方が広い分見やすい。今後の作戦を練るのにあると便利だろう。


 地図2冊を持って西島さんがいる弁当コーナーへ戻る。

 選別作業は進んでいるようだ。店内用の買物籠の中に小さ目の弁当2つ、スパゲティー、サンドイッチ、サラダ、おにぎり3つ、紙パックのドリンク2つが入っている。


 既に朝食で食べられる量ではないような気がする。それに西島さん、考えが甘い。食べられるものはご飯とおかずだけではないのだ。

 これ以上アイテムが増えそうだけれど忠告しておこう。


「おやつも忘れ無い方がいいと思います」


「あっ! 確かにそうです。とするとお弁当も……うーん……」


 再び選び直そうか悩んでいる様子。今の西島さん、病室で出会った時と同一人物とは思えない。雰囲気がかなり変わったように感じる。服装のせいだけではない。


 しかしこれではいつまでたっても終わらない気がする。ここはちょっと急かさせて貰おう。

 俺はレジの店員側へ。レジ袋を数枚貰おうと思ったのだけれど、ちょうどレジ袋大が束で入った袋があった。あると何かと使えるだろう。だから束を1ついただく。


 他にバラでレジ袋大を2枚取り出す。一枚はレジ袋大の束とさっき持ってきた地図を入れる為。そしてもう一枚は弁当のところでまだ選択中の西島さんへ。


「この袋に入る分は何とか持って行きましょう。すぐそこのレストランまでです。ハンドルに吊り下げてでも運べます」


 他に移動中に飲むお茶なんてのも必要だろう。そう思いついてペットボトルドリンクのコーナーへ。

 あと必要なものはないだろうか。バイク用のスマホホルダーなんてのは無いだろうから、それ以外でほしい物。考えながら店内を回る。


 取り敢えずこれはあった方がいいかな。レジの店員側へ行って箸とスプーン、あとお手拭きを幾つかいただいて袋へ。お手拭きで思いついて衛生用品の棚へ行ってウエットティッシュを三袋入れる。


 とりあえずこれでいいだろう。そう思ったところで西島さんがやってきた。持っているレジ袋が結構重そうだ。


「持ちましょうか?」


「あとアイスを入れます。高いアイス、食べてみたかったんです」


 一個三百円位する高級アイスを二個入れて西島さんは頷いた。

 

「取り敢えず朝食はこれでいいです。昼も夜もありますから。でも楽しいですね、こういうのって。

 あ、でも私ばかり選んでごめんなさい。田谷さんは何か食べたいもの無かったですか」


 自分一人で全部選んでしまった事に気づいたようだ。


「大丈夫です。俺は時々コンビニを使っていましたから。それじゃそこのファミレスまで移動して朝食にしましょう。この先どうするか、何処へ行くかを考えたいですから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る