第四章 一日目午後
第一八話 昼食は牛丼屋
昼食はファミレスではなく牛丼屋のテーブル席になった。ちょうどコンビニの近くにあったからだ。
程よく狭くて食事中に中に魔物がわく心配がない。ガラス面積が広くて、周囲に魔物が出てもわかりやすい。そんな理由もある。
牛丼屋のテーブルはファミレスよりやや狭め。だから2人掛けのテーブル3つを寄せて広くした。
これで大丈夫だろう。そう思いつつコンビニの袋から総菜類のパック等を並べる。
あっという間にテーブル上は目いっぱい状態になった。これは此処のテーブルが狭いせいだけじゃない。つまり……
「やっぱり取り過ぎたかもしれません」
「店に置いておいてもいたむだけだしさ。欲しい分取ってくるのは正解だろ」
そしてふと思いついた。牛丼屋なら、ひょっとして……
いや、ご飯もおかずも充分にある。今更とってくる必要はない。それはわかっているのだけれど、それでも……
温かい料理が食べられるかもしれない。弁当や惣菜を電子レンジで温めるのとは違って。
その誘惑に俺は負けてしまった。
「ちょっと先に食べていて。思いついた事があるから確認してくる」
「どうしたんですか?」
「牛丼屋なら厨房にカレーや牛丼が調理した状態であるかなと思ってさ」
「あ、私も見たいです」
結局二人で厨房へ。
「何というか、効率的に器具を押し込んだ感じです」
西島さんの言うとおりだ。せいぜい六畳くらいのスペースにこれでもかと調理器具や容器類が並んでいる。
蓋がついた四角い容器の中を確認する。湯気とともにお馴染みの匂いが広がった。
「牛丼の上部分はあった」
「こうやって調理したて状態、美味しそうです。牛丼も実は食べた事が無いので」
「煮過ぎて少し硬くなっているかもしれないけれどな。持って行こうか」
適当な丼にご飯を入れずに牛丼の具部分だけを入れる。他にもおかず類があるのでそこそこ程度の量で。
「お肉は生で冷蔵なんですね。てっきりどの料理も冷凍を温めるだけだと思っていたんですけれど」
「多分生から作った方が美味しいとかあるんだろうな」
「あとこっちのカレーも少し持って行きます。生卵とご飯も少し」
お盆で持たないと辛い量になった。ついでに取り皿とか箸とかスプーンとかも持って席へと戻る。
元々テーブルの上は目一杯に近い状態だった。だからこのお盆もそのままでは置けない。
まずは近くのテーブルの上に置いて、そしてもう1個2人掛けのテーブルを横にくっつけ、それから置く形だ。
「何というか……壮観だな」
「料理の品数と量は満漢全席並ですね。本物の満漢全席なんて見たこ事も食べた事もないですけれど」
言いたい事はわかる。
「さて、頑張って食べて、それから今日のこの後を考えようか」
「ですね。ただこれを全部食べると太りそうです。朝も相当食べましたし」
確かにそのとおりで朝もかなり食べた。このままだと間違いなく太る。
しかし言い訳は考慮済みだ。
「どうせ一ヶ月だけだろ、この状態は。その後に元に戻るならあんまり心配しなくてもいいんじゃないか?」
西島さんは置いていた荷物からタブレットを取り出した。
「確認してみます……大丈夫でした」
どれどれ、俺もスマホを確認。
『歪みが減少し再統合される際には、原則として元の世界と同一の状態に戻ります。体型、記憶等全てを含めてです。
ただし、
① 分裂した世界ごと消滅した場合
② 分裂した世界内で死亡した場合
は統合後の世界では存在そのものが消滅し記録・記憶も抹消されます。
なお、
③ その他特殊な事情・状況がある場合
は例外的取り扱いとなる事もあります』
つまり太りすぎても元の状態に戻るから心配はいらないという事だ。死ななければ、だけれども。
あとこれによるとレベルアップで進化した体力等も元の世界に反映されないようだ。というかこの世界の記憶すら残らないらしい。
つまりこの世界でレベルアップした結果元気になったとしても、元の世界に戻れば症状も戻る訳か。
絶望的なお知らせだ。西島さんに対しては。
ただ俺はその事を口に出したりはしない。西島さんならとっくに気づいただろうと思うから。
でも一つ確認したい。③のその他特殊な事情・状況がある場合とは何かを。
『現時点では回答出来ません』
無回答か。なら仕方ない。とりあえずは今を楽しみつつレベルアップを重ねて生き抜くしかないようだ。
なおこの場合の今を楽しむは西島さんが基準。理由はその方が俺にとって行動指針にしやすいから。決して西島さんの為じゃない。
さて、それでは当面の課題に取りかかろう。それはもちろん目の前の料理を片付ける事だ。
「それじゃ食べようか」
「そうですね。いただきます」
◇◇◇
このままでは間違いなく胃拡張になる。そう思いつつも何とかテーブル上の色々を一通り片付けた。
まあコンビニ等の惣菜が食べられるのは明後日くらいまで。それ以降はこんなに食べる事は無いだろう。だからまあ、いいとしよう。
「さて午後はどうしようか。水都の繁華街は一通り回ったから、今度は加津田駅からぐるっと回ろうか」
「うーん。それですけれど、レベル五になるにはあわせてあと十匹、レベル七になるには更に十六匹倒さないとなりません。
だから魔物相手中心ではなく、先に武器や道具を揃える方を考えた方がいい気がします」
そうかもしれない。そう思いつつスマホを見る。
『レベル五になるには経験値が三十九必要。レベル六は六十一、レベル七は八十八必要』
レベルと経験値の関係は方程式に落とし込めそうな気がする。けれど急ぎではないので夜か時間がある時にしよう。
「例えば私の拳銃、もう弾の四割は使っちゃいました。だから警察署に行って弾を補充するか、弾の数があるもう少し大きな銃に慣れるかした方がいい気がします。あと魔物が複数出てきた場合、特に近距離では銃より長い棒とかの方が戦いやすいかもしれません。今の私では腕力的に無理ですけれど」
それは俺も感じた。拳銃の射線は線だけれど振り回した棒が当たる範囲は面。それだけ当てやすい訳だ。威力もレベルアップした今なら拳銃に近いだろう。
「だから午後はまず警察署で弾を選んで、それからホームセンターで武器になりそうなものを探したいと思うんです。
魔物の方はホテル移動までにレベル五になればいいかな位で」
「ならこの後は駅近くにある水都警察署にまず行って、その後ホームセンターにしよう」
弁当や惣菜のパックを袋に片付け、空いた場所に地図を出した。この後の道順を検討するために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます