一七日目 八月一三日
第三二章 深夜からはじまる一日
第一四六話 夜中
突如、目が覚めた。
周囲は暗いが、何故目が覚めたのかはわかっている。
察知+に反応がある。つまり魔物が一キロ圏内にいるという事だ。
一番近い反応は北側、八〇メートル程度。更には南西側一キロちょうど近辺から、こっちに向かっている集団がいる。
集団は七体。俺一人で片付けられない数ではない。しかし俺がここを出た後、近くに別の魔物が出たらまずい。
あまり音を出さずに起こした方がいいだろう。だから俺はまず、俺から近い方にいる西島さんの肩を軽く叩いて耳元で囁く。
「魔物だ。起きてくれ」
浴衣がはだけて胸や下着が見えているけれど、気にしている余裕はない。
「うう……」
起きそうで起きない。なので更に肩を叩く。
「うにゃ……ん!」
目が覚めたようだ。でも完全に覚めきってはいない気がするから、囁きくらいの声で事情説明。
「近くに魔物が出現した。あと魔物七体の集団が接近中」
「魔物……本当ですか」
完全に目が覚めたようだ。
「ああ。取り敢えず近場の一体を先に倒してくる。上野台さんを起こして、待っていてくれ」
「いや、目が覚めた」
えっ。上野台さんの方を見たら、右手をあげている。
確かに起きてはいるようだ。
「今度の集団は数は少ないが強そうだ。一緒に行こう」
上野台さんはゆっくり身を起こした。浴衣が寝乱れてとんでもない格好になっているけれど、気にしてはいけない。
「着替えますか」
「いや、急いだ方がいい。下手すれば挟み撃ちになる」
浴衣に靴という格好で、そのまま部屋を出て階段を降りる。
「北側、多分駅前広場にいる魔物は任せた。レベル一二くらいだから動きが速そうだ。接近戦で戦える方がいい。出来れば魔法でサポートはするけれど」
「わかりました」
最低限の動きなら浴衣でも何とかなる。そして敵は近い。
玄関の引き戸をゆっくりと開く。
音はしないように注意したつもりだが、敵に動きがあった。
敵の方向は左側。道路に走って出て槍を取り出す。
敵が駅前広場からの段差を飛び越え、道路に着地しようとするのが見えた。
大きさ的にはバガブだろうか。暗くてよく見えないが。
俺は加速魔法を起動してダッシュ、間合いを詰める。敵がこっちを見た。察知+が危険を告げる。
咄嗟に左足で地を蹴って右へ。俺の左側を何かがかすめた。
何だ今のは。わからないが察知+は危険を告げ続けている。だから全力で右へ回り込む。
背後で何か音が連続するが確認する余裕はない。だが加速魔法のおかげで敵の不明な攻撃より速く動ける。
察知+の危険告知が途絶えた。次の右足で左へと踏み込み、一気に敵に接近する。槍を繰り出した。確かな手応え。
敵の動きが止まったところでスマホを確認する。
『メイジバガブを倒しました。経験値四二を獲得』
という事はレベルは一四だ。
あと、あの攻撃は何だったのだろう。
『連射風撃魔法:魔力を三に抑えつつ効果範囲を最小限に絞って威力と連射性能を確保した風撃魔法。魔法を使用可能な魔物による接近戦で用いられる』
なら西島さん達に跳弾というか、攻撃が行かなかっただろうか。
慌てて二人の方へダッシュ。
「大丈夫だったか、二人とも」
「問題なし。何か飛んで来たみたいだけれどさ。咲良ちゃんが魔法で防いでくれた」
「一昨日のレベルアップで範囲防御魔法が使えるようになったんです。いまので消費した魔力は一だから、大した威力じゃなかったみたいですけれど」
取り敢えず一安心だが、気になる。
「魔物が火球魔法以外の攻撃魔法を使ってきたのは初めてだ」
「魔法を使える魔物相手に接近戦をした事がないからだろう。それに魔物がどんな魔法を使えるか、攻撃された後でないと教えてくれない仕様らしいからさ」
確かにそれなら、他にも魔法を持っていて使える可能性はある。ただ敵がそういった魔法を使う機会が無かった、という事だろう。
「あとは集団か。今の魔物を倒したせいか、残り七〇〇メートル程度のところで動きが止まったけれど、放っておくのも嫌な感じだよな。あと緩いカーブの途中だから、火球魔法の射程外から狙う事も出来なそうだ。距離をとれてせいぜい二〇〇メートルって所だろう」
俺はスマホで地図を出してみる。
敵の居場所は街外れより少し先で、ここからちょうど七〇〇メートル位のところだ。
「そこの高いホテルの上から狙い撃てませんか」
「出来ない事はないと思うけれどさ。今回は魔物のレベルが高い分、動きが速い。六〇〇メートル位の距離だと撃ち漏らした相手に接近されてしまうおそれがある。接近されて外から建物に火球攻撃されたら逃げ場がない」
撃ち漏らした場合、上野台さんの魔法で倒すというのはどうだろう。
そう思ったが、視界に入らない場所へ移動された場合を考えると確実ではないと気づいた。
なら確実なのは……
「取り敢えず国道側に出てみましょうか。何か良さそうな場所が見えるかもしれないです」
「そうだな。そこの駐車場から行けそうだ」
西島さんの提案にのって、駅側、駅と反対側にある広い駐車場へ向かって歩き始める。
なお集団の動きは上野台さんがいった通り止まっている。どうやら目標を見失った状態のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます