第一四七話 ルート変更

 国道は中央分離帯がある片側二車線の道路。両側に路側帯と歩道両方があって結構広い。


 しかし左右方向ともに緩くカーブしている。おまけに中央分離帯部分に低い金網がある。

 だから長距離射撃はやりにくそうだ。狙えるのはせいぜい二〇〇メートル位だろう。

 

 ただしもっと先を狙えるかもしれない、ちょうどいいものがある。


「あの歩道橋に上ってみましょうか」


「だな。どれくらい遠くまで見えるか確認しておきたい」


 まだ夜で辺りは暗いが、レベルが上がったおかげで昼間とそう変わらない位に見る事が出来る。

 なので障害物がなければ、かなり遠くまで視認が可能だ。


「駅から続いているんですね、この歩道橋」


「ああ。そこの道の駅や海の方の公園と繋がっているみたいだな」


 歩道橋というよりペデストリアンデッキというべきだろうか。幅が広くしっかりした感じの歩行者道だ。

 早速魔物がいる南西方向を見てみる。


「四〇〇メートルないが、ここが一番先まで見えるな。防砂壁や松の木が若干邪魔だけれど」


 なら火球魔法が届く距離だ。

 しかしここなら広いから、逃げる事はそう難しくないだろう。

 西島さんも範囲防御魔法を使えるようになったし、大丈夫という気がする。


「おびき寄せますか」


「ああ。スピーカーの音量を最大にすれば聞こえるだろう」


 こちらに気づいた場合、単独の魔物は逃げ出す事がある。しかし集団の場合、今のところ逃げようとした例はない。


 俺はポーダブルスピーカーを出して、南西側に向けて置いた。

 スマホと接続された事を確認して、最大音量で動画の音声を流し始める。


 察知で感じている反応が動き出した。道なりにこっちに向かっている。


 しかも案外速い。昼に相手した集団の倍くらいの移動速度だ。

 だから最初にこう行っておこう。


「今回は全員で倒しましょう。夜だし、敵が速いですから」


「だな。咲良ちゃんもいいかい」


「わかりました」


 銃を出して構える。

 あとは見える敵を撃つだけだ。


 視界の中、松の木をかすめて向こう側で動いているのが見えた。

 しかし俺の照準魔法ではポイントしない。

 もう少し待って、今度は防砂壁の上側にチラリとみえたところで。

 

 西島さんの銃が射撃を開始。

 俺も射撃を開始する。敵が前後にばらけ始めているから、取り敢えず奥側から。


 向こうからも火球魔法が放たれたようだ。しかし察知+は危険と反応しない。

 

「あれは当たらないようです」


 そう知らせつつも、取り敢えず五射撃ちきる。

 自動装填魔法で弾を込めたが、敵の反応は残り二体。


 なら俺が撃つ必要はないだろう。むしろ俺以外の二人が経験値を稼いだ方がいい。

 そう判断した直後、西島さんの銃が二体とも倒した。

 終わってみればいつもの集団と同じ位、あっさり倒してしまった形だ。


 スピーカーをオフにして、そしてスマホを確認。


『メイジバガブ一体、アークゴブリン二体を倒しました。経験値一二六を獲得』


「さて、それじゃひと眠りするか。眠い」


 上野台さんの言葉で時間を確認。午前二時一五分。

 五時半に起きるとすればあと三時間ちょっとは眠れる。

 ただし……


「また魔物が出るという可能性はありますよね」


「それはまあ、仕方ないだろ」


「此処も青盛市内だから、魔物が出る可能性は高めなんですね。場所選びが失敗でした。また出る可能性があるならいっそ、もう朝食を食べて早く出て、今日の終わり時間を早めにしましょうか」


 西島さんはそういうけれど、俺はどちらかというと寝たい。

 ただ、また魔物が発生する可能性があるというのは本当だ。

 ここの住所は青盛市内だし、歪みの計算は市町村単位だとスマホには出ていたし。


「そうするか。青盛はまだ魔物が出きっていないだろうけれど、それより向こう側、弘先ならそれなりに出ている可能性があるから。本当は八辺も行きたいけれどちょっと遠い。だから当初の予定通り、弘先経由で飽田方面へ向かおう」


 宿へ向かって戻りながら、スマホで地図を確認する。

 確かに八辺はそこそこ遠い。その上ここから八辺までは高速も一部しか通っていない。野辺知までは一般道だ。

 なら青盛へ来たルートを逆に戻るのが、一番効率はいいだろう。


「ならお風呂に入って、一度すっきりしませんか。浴衣を着ていますし、部屋まで行くなら一階を通りますから」


「だな。でもそれならまっすぐ部屋に戻って、軽く掃除や整頓してから風呂に入らないか。何なら風呂で朝飯を食べてもいいしさ」


 ……まさかそんな方向に話が進むとは思わなかった。

 もう慣れたからいいけれど。


 ◇◇◇


 朝風呂にしっかり入ったから、宿を出たのは午前四時過ぎだった。


「お湯は大浴場が一番いい感じでした。かけ流しで、湯量も多くて」


 確かに透明だけれどただのお湯とは違う感じだった。加水だけれど理由は温度調整だとか、理屈は西島さんと上野台さんの話で聞いたけれど。


 なおこの宿、大浴場にも寝湯があった。どれだけ寝湯が好きなんだよと思うが、きっとそれなりに快適なのだろう。

 上野台さんも西島さんも満喫していたし。

 しっかり目で確認出来るような状態ではないのだけれど。


「青盛は今日はパスで。魔物はいるけれど、ある程度集まってから倒さないと前の飽田と同じで面倒だからさ」


 なので弘先を含む都軽平野で魔物の集団二つを倒し、更に大楯で魔物六体の小集団を倒して。


「この程度の市だとやっぱり魔物の発生は少ない感じです」


「ああ。何なら飽田方向でなく、森岡へ行ってみるか。能白もそれほど魔物は発生していないだろうし。ここからなら飽田も森岡も、そう距離は変わらないだろう」


 確かに地図で見ると、そう変わらない感じに見える。

 それに途中の人口が少ない場所は高速道路で時短出来そうだ。

 時間もまだ朝七時前。だからどうにでもなりそうな気がする。


「俺はいいと思うけれど、西島さんはどう思う?」


「私もそれでいいと思います。ただそれだと今日の宿は、どの辺を調べておけばいいでしょうか?」


「北神経由で高速使って飽田に向かってもいいし、四号線沿いを南下してもいい。ただ今日は早めに宿に行ってしっかり眠りたいかな。となると森岡から船台までの間の、適当な場所が無難だと思う。あと人口が少ない市町村だと、夜は安心かな」


「わかりました。ちょっと調べておきます」


 上野台さんが言った条件、なかなかに多い。

 調べるのが大変かもしれないと思ったので、一言付け加えておく。


「多少遠くてもいいからさ。百キロ位あっても、高速とか使えれば一時間ちょっとで着けるし」

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