第一四八話 目標の歪み消失率
森岡に行く途中、二箇所で高速を降りて、それぞれ一〇体規模の集団を倒した。
結果、森岡にたどり着く前に八時のレポートの時間になりそうだったので、森岡の手前二〇キロにある道の駅で休憩をとる。
「メインは産直の野菜だったみたいです。お土産も結構あるんですけれど、あちこちの道の駅とかサービスエリアに寄ったせいで、どれも同じ感じに見えてきてしまっています。でも山葡萄ジュースは美味しそうです。蜂蜜も確保しておきます」
「確かに岩出の土産はサービスエリアで見た気がするしさ。そしてこの近辺の特産物は生ものや賞味期限が長くないものが多そうな感じだ。ただ冷凍の肉類とバジルソーセージのパックはキープしておこう。冷凍のプレミアム鹿肉とかさ。あと日本酒と地ビールも」
俺は高原赤鶏のワイン煮とか、担々スープ等の缶詰をささっとキープした。
そしてレストランのテーブルで、取り敢えずレポートを待つ。
「まだ八時まで少し時間があるので、おやつを食べながら宿を探します。おやつはとりあえずこの瓶入りプリンとチーズケーキ。似たものは割と何処の土産でもあるんですけれど、大体どれも美味しいんですよね。あと山葡萄ジュースの味見もしましょう」
お土産コーナーから持ってきた物を並べて、しばし休憩。
さて、という事で、俺は自分のステータスを確認してみる。
現在のレベルは六一で、経験値は八九八二。昨日ガンガンと集団を倒したおかげで、一気にレベルが上がった。
一方で魔法はそれほど増えていない。
銃撃の威力を強化する必中、貫通、爆裂といった魔法が増えてはいる。
しかし今のところライフルの威力で充分なので、使用機会はない。
魔物のレベルが今程度なら、これらの魔法を使う機会はおそらく無いだろう。
そう思ったところで。
「岩出県の、人口が下から五番目の村で、ちょうど良さそうな宿がありました。場所も高速から降りて一〇分くらいです。ここではどうでしょうか」
SNSでスマホにアドレスが送られてきたので、早速確認。
場所は文句ない。高速から近いので、東北のどの方面へも行きやすい。
所在地の町は人口が五千人ちょっと。県の中では五番目に人口が少ない市町村だ。
しかも周囲には人が多そうな集落はない。
宿は予想通り、温泉で掛け流し。建物の感じもなかなか良さそうだ。
「いいと思うよ。これなら何処へでも行きやすそうだし」
「この人口なら魔物も出にくそうだな。全く魔物を倒してなくても、一日あたりレベル七から八の魔物が一体ペースだしさ。田谷君の言うとおり場所もいいし、もし宿がいい感じなら連泊してもいいかもな」
上野台さんもOKだ。
まあ西島さんの意見を否定した事はないのだけれど。
「良かったです。あと近くに共同浴場もあるみたいですから、そこにも行ってみたいと思います」
そんなおまけもあるのか。
でもまあ、いいか。どうせいつもの宿の風呂と同じようなものだろう。
そう思ったところで、スマホが通知を受信した。
時間を見ると八時ちょうどだ。
『一六日経過時点における日本国第1ブロックのレポート
多重化措置後一六/三五経過
ブロック内魔物出現数累計:一八万五八四三体
うち二十四時間以内の出現数:六四三二体
魔物消去数累計:四万九一七六体
うち二十四時間以内の消去数:九二六三体
開始時人口:一一九人
現在の人口:八九人
直近二十四時間以内の死者数:一人
うち魔物によるもの:一人
累計死者数:三〇人
うち魔物によるもの:二二人』
二四時間以内に限れば、魔物の出現数よりも消去数の方が増えている。
つまり魔物は減り始めたという事だ。
『現時点でのレベル状況
人間の平均レベル:四五・二
人間の最高レベル:レベル七〇
人間の最低レベル:六
魔物の平均レベル:九・九
魔物の最高レベル:五五
魔物の最低レベル:一
なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大一六となります。ご注意下さい。
本ブロックにおける魔物出現率:七〇・七パーセント
歪み消失率 五一・五パーセント』
歪み消失率が五割を超えたが、出現した魔物で倒した数は三割未満。
これは、レベルが高い魔物の方が多く倒されているという事だろうか。
人口が多い場所ほどレベルが高い魔物が高密度で出るという事を考えると、納得できないことはない。
そう思ったところで、上野台さんが俺に尋ねる。
「田谷君のレベルって、幾つだっけか。答えなくてもいいけれど」
上野台さんと西島さんになら、言っても問題は無い。
「六一です」
「大分上がったけれど、まだトップには届かないか」
「それでも昨日から一気に一五上がったんですから、文句ないですよ」
そしてちょっと気になるので、言っておく。
「それより上野台さんや西島さんのレベルも、少し上げておいた方がいいんじゃないですか。平均より下になってしまったと思いますし」
「対人戦はやる気がないから大丈夫さ。でも心配なら咲良ちゃんは上げておくか」
「私も別に大丈夫です。魔物とのレベル差があれば、それで充分ですから」
そう言われても俺だけレベルを上げるのは、何か申し訳ない気分になる。
目的の為には、ガンガンにレベルを上げておいた方がいいのだけれど。
「それにしても、歪み消失率がどのくらいでこの世界はクリアになるんだろうな。五〇パーセントでは無かったけれど」
そう言えば、歪み消失率が五〇パーセントを超えていた。
でも、この調子なら……
「六割とか、七割という感じでは無さそうな気がします。今の調子でしたら、この一週間でそれ位は簡単に行ってしまいそうですから」
西島さんの言うとおりだと、俺も思う。
上野台さんも頷いた。
「私もそう思う。これが九割以上となると、かなり厳しくなりそうだともさ。この第一ブロックの情報はまとめていないけれど、日本全体で見れば、面積五パーセントの大都市に人口の四四パーセント、面積五一パーセントの地方都市に人口の四七パーセントが住んでいるんだ。
残る面積四四パーセントは過疎地域、しかしそこにも人口の九パーセントはいる。元にしたのは平成二七年の、ちょっと古い資料※だけれどさ。つまり九割以上となると、その過疎地域に発生した魔物も倒さなければならなくなる訳だ」
そう言われると、思い当たる事がある。
「単独の魔物は、他に要因がない場合、五〇キロ以内で一番高いレベルの場所へ動くんですよね。それって、ひょっとしたら、そういった人口が少ない場所から多い場所へ魔物を動かす為かもしれないですね。魔物の取りこぼしを防ぐ為に」
「だとしたら、目標の歪み消失率は九割より上、って可能性もあるよな。確かめようはないけれどさ」
俺はスマホの画面を見る。
表示は全く変わらなかった。
※ 独立行政法人 福祉医療機構の資料より
https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/fukushiiryokeiei/houjin/houjin001.html
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