二八日目 八月二四日

第一八七話 襲撃

 翌朝はちょっと遅めで、七時半に集合して朝食。

 冷凍パンとコーヒー、冷凍野菜を使ったホットサラダという朝食を食べつつ、八時のレポートを確認。


『二七日経過時点における日本国第1ブロックのレポート

 多重化措置後二七/三五経過


 ブロック内魔物出現数累計:一九万六五五七体 

 うち二四時間以内の出現数:〇体  

 魔物消去数累計:一八万六七四六体

 うち二四時間以内の消去数:一〇六体

 開始時人口:一一九人

 現在の人口:八五人

 直近二四時間以内の死者数:〇人

  うち魔物によるもの:〇人

 累計死者数:三四人

  うち魔物によるもの:二六人


 現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:五六・九

 人間の最高レベル:レベル一〇五

 人間の最低レベル:六

 魔物の平均レベル:九・〇

 魔物の最高レベル:二六

 魔物の最低レベル:一


 本ブロックにおける魔物出現率:一〇〇パーセント

 歪み消失率 九一・三パーセント 

 なお一八日八時以降、魔物の発生はありません』


 最高レベルは昨日と変わらず。

 歪み消失率も、〇・一パーセントしか変わっていない。


「さて、レポートはレポートとしてさ。折角だから豊洲市場をのぞいて来よう。アラヤさんも、帰る前に一緒に見ないか。クーラーボックスがあれば、冷凍物ならある程度は持つだろうからさ」


「でも、このレポートのまま続くと、私は倒さなければならない敵ですよね。なれ合っていいんですか」


「その時はその時さ。もう魔物は増えないだろうから、戻って支配下にいれたりって作業はないんだろ。なら半日くらいの寄り道は問題無いと思うよ」


「そうですよ。戦わなければならないとしても、今はそうじゃないです。折角だから美味しい刺身とか、食べたくないですか。生魚が嫌いなら仕方ないですけれど」


「嫌いじゃないです。でも……」


 そんな感じで、上野台さんと西島さんが半ば強引に誘って、四人で市場へ。

 駅へと続くペデストリアンデッキを経由して、市場の中へと入る。


「目的は、水産仲卸売場棟の一階だ。生や冷蔵は駄目だけれど、冷凍ものの魚なら、まだまだ大丈夫だろう」


 そう言って入ったのは、日常と少し異なった空間だった。


「一階ですけれど地下駐車場っぽいというか、店が並んでいるけれど愛想がないというか、ちょっと今まで見たことがない場所です」


「確かに愛想が無い地下街って感じだよな。通路はターレーが通れるように広くなっているしさ」


 確かに西島さんや上野台さんが言った通りの場所だ。

 看板がなく広さにある程度の規格があって、外見に統一感があり道路が広い地下街。

 ただこれだと、見通しが効かないし広いしで……


「欲しい物を見つけるのは、大変そうですね」


「問題無い。昨夜しっかり調べておいたからさ。冷凍物を扱う店をピックアップしておいた。こっちだ」


 最初に行った店で、勝手知ったると言う感じの上野台さんが冷凍ケースを開けて取り出したのは、赤い冷凍エビとか、ホタテとかの箱。そしてタラバガニや花咲ガニの冷凍物。


「冷凍で市場というと、マグロのイメージが強かったのですけれど、こんなものもあるんですね」


 アラヤさんも楽しそうな表情を見せる。


「ああ。後で昼食で食べまくろう。この調子なら結構いい感じで食材確保出来そうだ」

 

 俺と西島さんの冷凍保存可能な収納に入れて、次の店へ。

 勝手知ったると言う感じで角を左、次を右に曲がって手前から四件目の店へ。

 今度は冷凍マグロ主体の店だ。


「やっぱりこれがないとさ。ミナミマグロの良さそうな部位を、思い切りよくいただこう」


 次、二ブロック先の店は、エビとマグロがメインという感じだ。


「今までとかぶってしまいましたね」


「業種が同じだから仕方ないさ」


 そんな感じで七店舗回り、更に途中の他の店ものぞいた結果、冷凍サーモンやカツオ、カンパチ、イカ、タコ。更には明太子や西京漬けの切り身、鰻の蒲焼きや白焼きなんてものまで確保した。


「結構歩いたし、この上の食堂か何処かを借りて昼食にしよう」


 時計を見ると十一時過ぎ。三時間くらいうろうろしていた計算になる。 

 上野台さんの先導で三階の食堂街へ。


 市場だからか、ほとんどの店は開店しているようだ。

 カウンターメインの店が多いので、様子を見ながら歩いて、テーブルが大きめだった和食店へ。


「それじゃ適当に魚を出してくれ。解凍しながら切るから」


「わかりました」


 マグロのトロ、中トロ、赤身、鰹、カンパチ、カレイ、サーモン、赤エビ、シマエビ、花咲ガニ、タラバガニと出す。


 上野台さんが魔法で解凍し、西島さんが切って皿に並べていく。

 更に西島さんが出したパック御飯を解凍し、カップ味噌汁の封を開けてお湯を入れて。


「あと個人的には明太子が欲しいかな」


「わかりました」


 そんな感じで明太子を追加。

 あとは包丁をもう二本出して、西島さんがやっている切る作業を、俺とアラヤさんで手伝って。

 一〇分程度で、大量の刺身その他と御飯、味噌汁の準備が完了した。


「うむ、それじゃ食べるとしよう。いただきます」


「いただきます」


 冷凍物だけれど解凍が完璧なので、生とそう変わらない気がする。

 少なくとも俺の舌では、違いはわからない。

 箸がすすむ。


 これは御飯の追加が必要になりそうだ。

 そう感じたので、先に御飯のパックを八つ、出しておく。

 

 出してすぐ、上野台さんが一パックを解凍し、自分の皿へと入れた。

 この人、食べるのがかなり早い。


 ◇◇◇


 全員、御飯を三パック分ずつ消費。

 切って解凍した刺身が無くなり、追加で出したマグロと明太子とイカとサーモンがなくなったところで。


「うむ、今日はこのくらいにしておいてやろう」


 そんな言葉が上野台さんの口から出たところで、アラヤさんの動きが急に止まった。

 目を瞑って、そしてふっと溜め息をつく。


「どうかしたのかい?」


「ええ」


 上野台さんの言葉に頷いて、そしてアラヤさんは続ける。


「東御苑の魔物が三体、やられました。どうやら襲撃を受けているようです。それ以上の様子は、此処ではわからないですけれど」

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