第一八八話 敵

 皆、ひととおり食べ終えている。

 だから西島さんが魔法をかけて皿を綺麗にして、俺が収納すれば何時でも出られる状態だ。


「行こう。状況を確認したい」


「いいのでしょうか。一緒に行って」


 そう言うアラヤさんに、上野台さんは頷く。


「勿論だ。連れ出した責任は私達にあるしさ」


 此処から駐車場までは、そこそこあるような気がする。


「走りますか」


「やめておこう。向こうで動かなければならない可能性がある。体力を温存しておきたい」


 単に上野台さんが走るのが嫌い、という気がするけれど、言わないでおく。

 真っ直ぐ進むと、割と素直にペデストリアンデッキに出た。

 千客万来に行って、駐車場までエレベーターで下りて、そして車へ。


「魔物三体を倒された後、それ以上の被害がありません。侵入した人を倒したのか、それとも侵入した人が逃げたのか。今はわかりませんけれど、戦いは終わっているようです」


 後ろから聞こえるアラヤさんの説明に不明な点があったので、運転しながら尋ねる。


「魔物が何か報告してくるんですか?」


「遠くにいても、支配下にあった魔物が指揮下から外れたり、死んだりしたことはわかるんです。倒されたのは三体だけで、これがほぼ同時。その後は被害は出ていません。ですがそれ以上の情報は入らないので、詳細は不明です」


「周囲のWebカメラを確認するから、ちょっと待ってくれ」


 助手席の上野台さんが、ノートパソコンを取り出した。

 更に西島さんの声が、後ろから聞こえる。


「掲示板にはそれらしい書き込みはなさそうです」


「東御苑に、車で入れるルートはあるかい?」


 パソコンを操作しながら、上野台さんが尋ねた。


「坂下門から右にぐるりと回れば、入れるようになっています。でもそれじゃ、申し訳ありません。侵入者が近くにいたら、巻き込んでしまいます」


「念の為聞いただけさ。どの門に行くかは、状況を見て決める。田谷君は取り敢えず私が指示するまで、この道をまっすぐ走ってくれ」


「わかりました」


 今のペースで走った場合、皇居のお堀端までは五分程度だ。


「あと車線は中央。もう少し行くと直進で地下道に入る道があるけれど、それは入らないで。ガード下をくぐったら、敵の反応が近くにない限り速度を落としてくれ」


「わかりました」


 なお今のところ、俺の察知+には敵の反応はない。

 後ろで西島さんとアラヤさんが話している声が聞こえる。


「このクーラーボックスに、お土産と今日のお魚類を詰めておきました。向こうで何かあるとまずいので、今のうちに収納しておいて下さい」


「いいのでしょうか、クーラーボックスごとで」


「田谷さんの収納がかなり入るので、こっちは大丈夫です」


 他の車が来ないだろうとは思いつつ、大きな交差点では一応注意しながら走る。

 幾つか交差点を過ぎたら、上野台さんが言っていただろう地下道への車線が現れた。

 入らない中央車線を選択して直進する。


「直進して右側が皇居のお堀になったら、次の交差点を右折。右折禁止だけれど、もう気にすることはないだろう。曲がったら速度を落として、左車線をゆっくり走ってくれ」


「わかりました」


 この辺はよく知らないから、今一つ何処を走っているのかわからない。

 ただJRのものらしい線路のガード下を通って、山手線で囲われた範囲内にはいった事がわかる程度だ。


 大きい交差点を超えると、皇居のお堀が右側に現れた。


「次の交差点を右ですか」


「そうそう。敵は逃げたようだ。だから今は心配はない。ただ、曲がったらゆっくり目に走ってくれ。交差点は私が言うまで直進。あと敵の反応が出たら教えて欲しい」


「わかりました」


 右折して、言われたとおりゆっくりと車を走らせる。

 次の信号の直前で、察知+が反応した。


「敵の反応、二つです。場所は前方から右側、斜め四五度くらい、一キロぎりぎり先」


「ありがとう。反応は敵でいいんだね」


「はい」


「わかった。それじゃ一度停止」


 何だろう。そう思いつつ、俺は言われた通り車を停める。


「さて、ここからは相談だ。具体的には、先程皇居東御苑を襲撃した二人を、ここで追撃するかどうか。今なら弱気になっているだろうし、現場から走って逃げているからそれなりに疲れてもいるだろう。

 東御苑の魔物を襲ったということは、アラヤさんの敵であるのは確かだ。そして田谷君の魔法でも、敵と出た。咲良ちゃんの魔法もきっと反応しているんだろう、敵として」


「はい」


 西島さんが頷く。


「多分あの敵は、福縞で私達を追いかけてきた二人組だ。放っておくと、こっちにとっても危険だろう。そして東御苑の魔物についても知ってしまった。掲示板で暴露されたら、この先面倒な事になりかねない。

 という訳で、後顧の憂いを断つなら、追いかけて行って倒してしまった方がいい。これが私の意見なんだけれど、皆はどう思うかい?」

 

 確かに、今のうちに倒しておいた方が安全なのは、間違いない。

 だから俺は、こう言っておく。


「俺も倒しておくことに賛成だ。奴ららしい車が他の人の乗っている車に対して銃撃してきたという書き込みも、掲示板にあった。だから倒せるときに倒しておいた方がいいと思う」


 俺がそう言い終わった、その時だった。


「しまった! 先を越された!」


 上野台さんがそう言って、いきなりパソコンを操作し始めた。

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