第一〇一話 テーマは『ファミレス食べ放題』

 今日は無事に風呂でゆっくりできた。

 乱入が無いのを物足りなく感じるのは気のせいだ、多分。


 風呂から上がったら、武器の手入れ&夕食調理タイム。

 俺が西島さんのライフルと拳銃、俺の槍と刀の手入れをしている間に、西島さんと上野台さんは夕食を作っている。


「魔法が進化して、一回起動すれば料理の温度調整を三十分間自由に出来るようになったからさ。温度変化させる部位も思いのままだし、電子レンジ以上に使い勝手がいい」


「便利ですね。私もレベル三十一で手に入れられるでしょうか、この魔法」


「その辺はどうだろう。魔法や能力は本人の希望と割と一致するけれどさ。それが原因か結果かはわからないからなあ」


 今の上野台さんの言葉、どういう意味だろう。

 ブラシで銃口内部に油を塗りつつ耳をそばだてる。


「原因か結果かって、どういう意味でしょうか?」


 西島さんもわからなかったようだ。俺が頭の中で思い浮かべたのと同じ質問をしてくれた。


「私が望んだから、その能力を得たのか。私が望んで使うようにするために、その能力を与えられたのか。その違いさ。鶏と卵の関係と一緒だな。便利に使える分には、気にする必要はないかもしれないけれどさ」


 うーむ、流石旧帝大の理系大学生、ややこしい事を考える。

 そう思ったらまだ続きがあるようだ。


「正直この事態を操っている何者かが何を企図しているのか、私にはわからない。仮にも世界を分割とか複製とかしたり出来る存在だ。歪みを減らすなら直接的に人間を減らすなんて事をするのも難しくはないだろう。むしろその方が簡単確実だ」


 確かに言われてみればその通りだ。


「なら何を企図しているのか。何かをやらせようとしているのか。まあその答を知るなんて事は出来ないのだろうけれどさ。ちょっと期待してスマホを見てみたけれど、やっぱり答は出てこないし。まあどうであろうと、私達はこの世界でやっていくんだけれどさ。という事で、取り敢えずはガンガン夕食を作ろう」


「わかりました」


 なら俺も手入れの方をしっかりやっておこう。

 ブラシで油を塗った後、ウエスで余分な油を取って……


 ◇◇◇


「ここは座卓が広くていいよな。これだけ無茶苦茶に並べても  まだテーブル上の面積に余裕がある」


 アイテム数がとんでもない事になっている。


「美味しそうですけれど、よくこれだけ作れましたね」


「昼食で寄ったあのファミレスで食べ放題をしたらどうなるか、を想定して作ってみた。ドリンクバーとデザートまで考慮してさ」


「それにしてもよく三十分程度でこれだけ作れますね」


 注文数でカウントすると二十個以上は行っていると思う。

 その上どの皿も二人前以上の分量だし。


「材料がどれもきっちりカットした上でパックしてあってさ。私の魔法で熱を加えればほとんど完成だ。他にする調理は別添のソースをかけるかどうか程度で、切る必要すらない。上手くシステム化されていると思うよ」


「皿もあのファミレスのなんですね」


 そう、今日は紙皿ではなくあのファミレスの皿だ。


「咲良ちゃんの魔法で洗えるなら、こっちの方がいいと思ってさ」


 メインは焼いたラム肉のブロックだ。

 同じく焼いたズッキーニやパプリカ、ジャガイモと一緒に皿の上に載ってソースがかかっている。

 他に焼き鳥っぽい串にささったものが八本。

 生ハムをカットしたものもある。


 野菜系統が蒸し鶏と青菜、アスパラガス、ほうれん草とベーコンを炒めたもの。


 小さめで尾羽が取ってあるエビフライとか、ゆでエビにドレッシングがかかったものなんてのもある。


 主食がピザ3種類とドリア3種類、小さいふんわりとしたパン、やはりフランスパンっぽい形だけれど長さは二〇センチ程度のパン。


 そしてワイン3本、ウーロン茶とコーラのペットボトル、紙パックのオレンジジュースとグレープジュース、そしていつものコーヒーメーカーで淹れたコーヒー。


 デザートにティラミスとプリンもついている。


「シンヤさん、到着したみたいです」


 西島さんにはバイクの音が聞こえたのだろう、きっと。

 冷房をかけて窓を閉めているので、俺には聞こえないけれど。


 ◇◇◇


「こんな食生活をした記憶が残ると、元の現実に帰れなそうだ」


 シンヤさんが真顔でそんな事を言う。

 言いたい事はわかる。上野台さんが担当する食事は毎回強烈なのだ。


「このファミレスなら、食べ放題してもそう難しくはないと思うよ。実際にやってみたけれど四千円がやっとだったって誰かがブログに書いていたし。社会人なら余裕じゃないかな」


「行く時間の方がむしろネックかもしれない」


「なるほど、社会人ならそれもあるか」


 残った料理を明日の朝食用に皿にまとめ、空いた皿は西島さんの魔法で綺麗にした後、収納して。


 食べ過ぎて眠いがもう少し作戦会議は続く。

 今日動いた軌跡をシンヤさん分と俺達分、取り込んで合成して。


「今日はお互い市街地近くを回った感じだね」


「ああ。明日は今朝と同じように中心街を回った後、北と南の離れた部分を中心に回るか」


「そうだね。今日の魔物の感じを見ていると、周辺部からすぐに統率種が出そうな感じはなさそうだ」


「了解だ。それじゃ明日も五時半に朝食、その後、地図のここの駐車場で待ち合わせだ」


 これで明日の予定もひととおり決まった。


「それじゃ、今日はこれで解散で」


「僕も少し眠くなってきた。さっさと風呂に入って寝るとしよう」

 

 シンヤさんが部屋を出るようだ。

 なら一緒に出て、そのまま自室で寝るとしよう。


「それじゃ俺も部屋に帰って寝ます。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 一瞬西島さんと目があった。

 何か言いたげな感じに見えたけれど、何もいわなかった。

 だから気のせいかなと思って、あえて何もしないでそのまま部屋を出たのだった。 


※ どんな料理か確認したい場合は、サイ〇リヤのWebページを出してメニューを確認してみて下さい。

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