第一〇〇話 船台市街地近くでうろうろと
地下鉄駅のところから五十分程かけ、やっと目的地のファミレスが見えた。
「結構多かったね、魔物」
上野台さんが言う通りだ。
車を停めた場所からファミレスまで、出てきた魔物は十一体。
どれもレベル四前後で弱いのだけれど、少し走ると出るという状態だった。
「今まで通っていなかった所は、こんな感じなのかもしれないですね」
「そうだね。道に停まっている車が無くなったし、今日は今まで通らなかった道を優先で回ろうか」
「僕もそうしよう。回る場所は予定通り僕が南、そっちが北でいいか?」
「それでいいと思うよ」
車は駐車場へ入る。咄嗟に俺は奥を確認。スクーターはちゃんと止まっていた。
大丈夫だろうとは思っていた。路上では無く駐車場に止まっている車やバイクは消えていないから。
それでもちゃんと確認できてほっとする。
車はバックで駐車スペースへと入った。真っ直ぐ出せばそのまま駐車場から出られる位置だ。これは次に運転するのが慣れない俺だからだろう。
「さてどうする? ここまで結構忙しかったし、少し上で休んでいくかい?」
車を降りる前に、上野台さんが尋ねる。
「僕はいい。あと確認だが、今夜は名鳥のサイクルスポーツセンターの宿泊施設でいいか」
「そうするつもり。こっちはだいたい五時前に着くつもりで行くから。あと夕食の準備はこっちでやっておくよ」
「ありがとう。あと一応だが、三階の三〇七号室は僕が以前使っている。今回も問題がなければそのまま使うつもりだ」
「わかりました。それ以外の部屋を使います」
「ああ。それじゃ田谷君のあのスクーターを借りる。また夜」
シンヤさんは車を降りてスクーターの方に行ってしまった。
「ならこっちも行くとしようか。駐車場を出て右、昨日、シンヤさんを拾った後この店に来たのと逆順で行ってみよう」
「わかりました」
外に出て、運転席へと移動する。
◇◇◇
その後は普通に討伐を繰り返した。
「今回は中心街近くで、回っていないところを重点に回ろうと思うんだ。さっきファミレスに行く時みたいに魔物だらけになっていたら、後で面倒な事になりかねないからさ」
上野台さんのそんな方針で、船台駅の東側とか、西側の駅から2km程度離れたところを中心に回る。
基本的には、
① 車で走る
② 魔物の反応がある
③ 近づいて、順番の1人が出て行って倒す
④ その間残り2人は車の中で待機。エアコンはつけっぱなし
という感じで。
昼食は街から少し外れたイタリアンなファミレスで食べた。
「このチェーンは一度厨房を覗いてみたかったんだ。働いた事がないからさ、どんな物があるか、食べてみたくてさ」
食べたのはスパゲティ三種類+ドリア+ジェラートだったけれど、それ以外にも大量に食材を持ち出した。
「この生ハム、個別パックだから冷蔵でもまだ大丈夫だろう。あと冷凍ティラミスも確保でいいよな。
他の食材も徹底してパックになっている。生野菜すら1回分ずつのパックだ。これなら冷蔵でも大丈夫だろう。ああ、持ち帰りが捗る……」
そんな事を言いながら上野台さんが冷蔵庫や冷凍庫を漁っていたし、収納に協力した西島さんも言っていた。
「今日の夕食は期待していいと思います。イタリアンですけれど、かなり豪華に並べられそうですから」
その後も討伐を続けた結果、二時位に上野台さんがガッツポーズ。
「よし、私にも異次元収納のスキルが入った。これで何でも持ち歩けるし、無くなることもなくなる」
その言葉が少し気になったから聞いてみる。
「上野台さんの収納は魔法じゃなくてスキルなんですね」
「そうそう、田谷君や咲良ちゃんのは魔法だっけ」
どうやら言い間違いや聞き間違いでは無く、本当にスキルのようだ。
「そうです。魔力を一〇取られるんですよ、魔法だと」
西島さんの言葉に上野台さんは頷く。
「私の場合は魔力を取られると致命的だからなあ。だから魔法での収納じゃなくて、スキルとしての収納になったんじゃないか。そのかわり入手が遅いという感じで」
あと、無くなるというのはパソコンの事だろう。
昨日駅の西口側にある大型電器店で入手した上野台さん用ノートパソコンは、無くなったあの軽自動車に積んであった。
当然車とともに無くなってしまったという訳だ。
なおコーヒーメーカーや電子レンジ、ホットプレート等は、俺か西島さんの
「それじゃパソコンを確保しに行きましょうか」
「頼む。今度は船台駅東口の電器屋にしよう。そっちの店も大きいからさ。西口よりは魔物も弱いだろうし」
そんな訳で船台駅の東口にも行って、新たなパソコンを入手。
なお昨日のより大型で、より高価な機種だ。
「もうスキルで持ち運びできるからさ。重くても全く問題無い」
そんな感じであちこち回って、討伐をして、更に。
「昨日の冷凍食品店にも寄ろうよ。まだ試していないものが結構あったからさ」
という事で冷凍食品を調達したりで、気がつけば夕方四時半。
「今日の宿は近くまで高速で行けるからさ、問題は無い」
地図上でみると大回りだけれど、高速で魔物を無視して進むので結構速い。
冷凍食品店から三〇分ちょっと、午後五時過ぎに宿に到着。
「今回は寝る部屋が三〇三号室から三〇七号室までで、集合用に十二畳の和室です。お風呂は部屋にもついていますけれど、二階に男女別の大きいのがありますから、そこでいいと思います。両方に露天風呂もついています」
そこまで大きくなくて、温泉の大浴場、露天風呂があるのか。
集落とは入り江で隔てられていて周囲に人家がない。
今の状況ではちょうどいい宿だと感じる。
見た目は近代的でシンプル、悪く言えば無機質な作りだけれど。
「それじゃさっさと和室に行って、グッズを設置したらお風呂を試そう」
「そうですね」
何かこの辺、西島さんと上野台さんの意見は一致している気がする。
今日は完全に男女別の風呂だし、シンヤさんもじきやってくるだろうから、大丈夫だとは思うけれど。
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