第九九話 中心街から移動

 ここからは車で移動だ。


「北上して次の大通りを右折、二つ先の大きい交差点を右折、あとはまっすぐでいいか?」


「それでお願い。そこそこ魔物が出るとは思うけれど」


「了解だ」


 実際やっぱり魔物は多い。

 次の交差点で一体、また少し走った区役所と市役所の間で一体と続く。

 しかし歩くより数段いい点がある。


「やっぱり冷房が効いているというのはいいよな」


「そうですね。交代制で自分の番までは涼めますから」


 後ろの二人が言っている通りだ。


「あと、今の道の状態なら今まで乗っていた軽よりもこっちの車の方が運転しやすいと思う。エンジンが大きい方がトルクがあって低速でも動かしやすい。荷物が載らないなら何処かのレンタカー店でもう少し大きい車を探してもいい」


「大きい方が楽なんですか」


 俺としては意外だ。


「ああ。あ、ちょっと待ってくれ」


 これは魔物の反応があったからだ。今回はシンヤさんの番だったので、車を停めてエンジンをかけたまま外へ出て行く。

 反応は一体だけなので、特に心配せず車で待つ。

 すぐに拳銃の発射音がして、そしてシンヤさんが戻ってきた。


「何ならここから運転してみるか。そうすればこっちの方が運転しやすい事がわかる」


「わかりました。やってみます」


 外に出てぐるっと回って運転席に。ハンドルやその他スイッチの位置が少し違う。


 シンヤさんが助手席に座って扉を閉めた。


「最初は少しだけ注意してアクセルを踏んでみてくれ。慣れるとこっちの方が運転しやすいと感じると思う」


 どれどれ。意識してアクセルをゆっくり踏んでみる。ゆっくり車は走り出した。

 駐車車両がない上道幅が広いので、横幅は気にならない。あとはハンドルの位置が若干違う感じだ。しかし運転には支障ない。


「あまり変わらない感じですね」


「坂道になると結構変わる。あと次の交差点を右だ」


「わかりました」


 意識してブレーキを丁寧に踏む。ごく普通に減速し、そして右折。

 ハンドルの戻りがややこっちの車の方が強めか。ただ悪い感じでは無い。


 なるほど、こちらの方が慣れれば速くスムーズに走れそうな気はする。そこまでの速度は多分、出さないけれど。


「次の交差点を右でいいですか」


「ああ。曲がったらすぐ左側につけてくれ。そこに車もバイクも停まっている」


 言われた通りに曲がって、車を停めようとして気づく。

 車とバイクが無い。

 どうしよう。そう思いつつ車を停める。


「場所、間違っていますか」


「いや、ここに停まっていた筈だ。場所は間違いない」


 車のエンジンを止めて、サイドブレーキを引き、外に出て見る。

 周囲を見回すが、何処にもあの軽やシンヤさんのバイクはない。


「一緒に消されたかな。これは。今朝のレポートの時の、通行に邪魔な駐停車車両を消した際にさ」


「そんな気がします。確かにあの車もバイクも道路上に停めていましたから」


 なるほど。そう思ったところで。


「しまった。足が無くなった」


 バイクが無いので、シンヤさんは歩くしかない。


「何ならあのファミレスまで乗っていくかい? どうせ乗換を試すつもりだったんだろ」


「ああ。申し訳ないが頼んでいいか。あのファミレスまでは自分で運転するから」


「勿論。田谷君も咲良ちゃんもいいだろ」


「ええ」


 俺も頷く。スクーターは元々貸す予定だったし、その程度の大回りは問題無い。


「それじゃ僕が運転する。最短経路でいいか?」


「そうだね。いつも走っていない所の方が、魔物を討伐出来ていいかな。なら私が助手席で案内するよ」


「頼む」


 またシンヤさんが運転席に、そして今度は上野台さんが助手席、俺と西島さんが後席でスタートする。


「まずはUターンして朝来た道を戻る。橋を渡るところまでは来た時と同じ。その先、次の信号がある交差点を右だ」


「了解」


 車が走り出す。来た道で魔物が出ないだろうという意味でか、普通の速度、つまり今までに比べるとかなり速い。


 あとこの車の後席に初めて乗ったので、乗り心地を確認。

 足下の広さはあまり余裕が無い。しかしシートはなかなか座り心地がいい。

 あと車の室内が小さいからか、前からのエアコンの風が割と届く。


 曲がってすぐの場所で魔物の反応があった。


「そのまま進んで。ちょうど私の番だからさ、魔法でさっさと片付けるから」


「了解。一応速度は落としておく」


 すっと速度が時速二〇キロくらいまで落ちる。

 左側の駐車場のようなスペースに黄色い姿。


「ほい、片付けた……ホブゴブリンのレベル四」


 あっさり。


「便利でいいな。見れば魔法で倒せるというのは」


「使用回数の制限があるけれどね。あとレベルが高い魔物相手にどこまで通じるかがわからない」


「それは銃でもかわらないな」


 再び車が速度を上げたところで、また魔物の反応。


「道の右側なら、乗ったままで何とかなるか」


 シンヤさんが右手でスイッチを押して窓を開ける。

 速度を落として、そして窓から右手を出して。


 通りの隙間にホブゴブリンが見えた。次の瞬間、銃声が響く。


「悪い。出来るだけ腕を出したんだけれど、結構音が響いた」


「後ろは窓が閉まっているからか、そうでも無かったです」


 実際それほど煩いと感じなかった。だからそう言っておく。


「本人が一番煩かったんじゃないかな。車を運転しながら撃つなんて出来るとは思わなかったけれど」


「バイクで普通にやっていた。止まって足をついた状態なら、普通に外にいるのとかわらない」


 シンヤさんの身長なら、大型バイクでも余裕で足がつくのだろう。

 俺だとちょっと大きいスクーターだと片足がやっとだ。

 だから三輪バイクを使っていた、なんて理由もあったりする。


 まだ高校一年だし、あと一〇センチくらいは身長は伸びると思う。

 それでもシンヤさんには届きそうにないけれど……


 とりあえず俺はこれ以上考えないことにした。

 なんてところでまた魔物の反応が。


「シンヤさんと同じ方法を試してみます」


「わかった。速度は落とす」


 ただし魔物の反応は道の右側で、現在西島さんがいるのは後席の左側。

 乗ったままという事は……


「田谷さん、座ったままゆっくり左移動して下さい。私が上を通りますから」


 この車の後席は座り心地はいいけれど広くはない。

 なので乗ったまま左右交代なんてやると、思い切り密着する羽目になる訳で……


 西島さん、細いし肉はついてないように見えるけれど、結構しっかり柔らかいんだなと確認してしまった。

 いや、確認しようと思って確認してしまった訳じゃない。

 不可抗力だ、これは。


 西島さんは全く気にしていないようなので、俺も何もなかったと装っているけれど……

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る