第九八話 車と銃の調達

 その後は集団に遭うことはなかった。

 そして上野台さんがオーク一体、西島さんがバガブ一体を倒した後。


「銃の店の前にレンタカー屋の前を通るからさ。先に車の確保をしておいていいかい」


「了解、その方が安心だ」


 上野台さんが言ってシンヤさんがOKすれば、基本的に反対の意見は出ない。


「それじゃそこの店に寄っていくよ。鍵が開いてなかったら田谷君、お願い」


「わかりました」


 上野台さんが自動ドアに触れる。扉が開いた。


「営業中だったようだね」


 いつも通り事務所内に入って、事務机等をごそごそと明後日、上野台さんが鍵を発見。


「日産1台、マツダ2台、トヨタ1台の4台が使えるようだけれど、どれがいいと思う」


「実際に見てみた方がいい。前に停まっているのと横の駐車場にあるのだろう」


「確かにそうだね」


 上野台さんが持ってきた鍵を使って、それぞれ中を確認する。


 車そのものはどれもほとんど同じ大きさだ。いわゆるコンパクトカー、五ドアハッチバックという奴。

 今まで乗っていた軽と比べると幅が少し大きいが、基本的にシンヤさんが運転するのだから問題無い。


 鍵を開けて一通り見た後、西島さんが事務所前に停まっていた白色マツダの横から、シルバーの日産を指して口を開く。


「広いのはあれですけれど、これが中が一番綺麗です」


「ああ。私と咲良ちゃんなら広さはこれだけあれば充分だしさ。シンヤさんや田谷君は何か意見はない?」


「僕はどれでもいい。使い勝手はどれも似たようなものだから」


「俺もどれでもいいです」


 実際そう変わらないと思うのだ。確かにこの中ではマツダが一番新しそうだし、外中ともに綺麗だけれど。

 結果、白いマツダに決定。


「どうする。乗っていくか?」


 シンヤさんの言葉に上野台さんが頷いた。


「だね。暑い中、ここまで引き返してくるのも嫌だからさ、とりあえず乗って行こうよ」


「了解した」


 鍵を受け取ったシンヤさんが前席扉を開ける。


「思った程、暑くないな。まだ朝だからか」


「だね。それじゃ乗って」


 シンヤさんが運転席で俺が助手席、西島さんと上野台さんが後席だ。

 車はゆっくりと動き出す。

 この辺は道が二車線だ。そして駐車車両が無いから走りやすそうな気がする。


「さて、ちょうど魔物が一体くらい出そうな距離だけれど、どうだろう」


 上野台さんが縁起でもない事を言うと同時に、スマホが振動した。

 左側、一〇〇メートルぎりぎり程度の場所だ。


「どうする? 強さはそれほどでも無さそうな感じだけれど。多分バガブだと思う」


「倒しておいた方がいいでしょう。行ってきますよ」


 今回の順番は西島さんだ。しかし見通しのよく無さそうな場所は俺の方がいいだろう。


「いえ、今回は私が行ってきます。田谷さんは先に行ってお店の鍵を開けて置いてください」


 確かに鍵開けは俺の担当だ。銃砲店ならそれなりに厳重だろう。

 そしてバガブ一体程度なら西島さん一人で全く問題無い。


「わかった」


 車が滑らかに停まる。この辺はまだ俺ができない技だ。どうしてもガックン、という感じで停まってしまう。


「私も咲良ちゃんと一緒に歩いて行くよ」


 上野台さんがそう言って、自分の側の扉を開いた。


「了解だ。店で待っている」


 2人が降りて扉が閉まった後、車はゆっくり動き出す。

 元々レンタカー屋から銃砲店まで二〇〇メートル程度。

 あっという間に到着だ。


 車を停めて降りたところで銃声が一発聞こえた。

 西島さんだろうと思うけれど、ここからだとぎりぎり魔法で探知出来る範囲の外。

 だから魔物を倒した確認が出来ない。

 上野台さんもいるから問題無いとは思うけれど。


 鉄砲の店へ。店の扉は閉まっていた。

 しかしこの扉は、内側に鍵を開けるノブがあるタイプ。

 だから作動魔法で簡単に開く。


 中は手前側が花火等で、真ん中辺から奥が鉄砲というレイアウト。

 店内はかなり広く、銃の在庫も岩鬼で見た店より更に多い。


「これだけあると壮観だ。八割は散弾銃のようだが。今回の用途だと自動オートのライフルがベストだろう」


 そういう言葉が出ると言う事は、予習済みという事だ。

 ならシンヤさんは以前自分で話した通り、ライフル銃を手に入れようとしたのだろう。


 中の机等を調べて鍵が無いか探す。机の鍵のかかる引出しの中に手提げ金庫があった。


 作動魔法で内部の鍵部分を無理矢理回し、手提げ金庫を開ける。中に鍵束があって一安心。


「やっぱり鍵があった方が楽なんだな」


「本当は鍵を開ける魔法では無くて、二メートル以内の任意の場所をそこそこの力で動かす魔法ですから。ドアの鍵みたいなものはともかく、ロッカー等の鍵は結構難しいです」


 ずらりと並んだ銃のショーケースのうち、自動のライフル銃がある場所を片っ端から空けていく。

 

 一通り開け終わったら、今度は弾がありそうな場所を確認。よしよし、メジャーな・三〇八ウィンチェスター弾だけでなく、・三〇〇WinMagもしっかり大量にある。


 この先補充出来ない可能性がある。だから持てるだけ持っていこう。

 幸いアイテムボックス容量は大分増えている。その気になればかなりの量は持ち運べる筈だ。


「お、これは間違いなく武器屋って感じだね」


「花火もあります」


 西島さんと上野台さんが入ってきた。


「どうだった、魔物は」


「レベル八のバガブでした」


 なら全然問題はない。


「これだけあれば今の銃のスペアもありそうですね」


「ああ。弾も豊富だ」


「あと花火も良さそうだよね。あれを使えばかなり遠くの魔物も寄せられるかもしれない」


 なるほど、そういう使い方もあるか。


「折角の夏だから夜に試してみたい気がします」


 西島さんの意見もきっとありだ。


「とりあえず・三〇八ウィンチェスター弾と・三〇〇WinMagの弾は持てるだけ持っていこう。この先ライフル弾が手に入るかわからないから。

 あとライフルも同じ型を予備に持って行っておくか」


 ライフルの半分以上は、西島さんがメインで使っているのと同じ機種だと思う。

 西島さん用に同じスコープをつけて、同じように使えるようにしておいて……

 いや、スコープ無しでもいいのか、西島さんは。


 ならその辺の調整作業もやっておこう。

 ここなら一通りの専門工具があるから。


 ◇◇◇


 結局、ここで大量に銃と銃弾を持っていくことになった。

 圧倒的に多いのがシンヤさんで、ライフル銃七丁。

 俺が使っていたライフルもサイトを外して渡したので合計八丁持ちになる。


 俺が新たに二丁で、西島さんが一丁追加。

 種類は俺が三〇-〇六スプリングフィールド弾仕様のブローニングBAR Mk.3ライフルを二丁。


 銃を換えたのは、店に三〇-〇六スプリングフィールド弾が大量にあったから。俺がこの弾を使えば西島さんやシンヤさんに・三〇八ウィンチェスター弾を全部渡せる。


 更に・三〇八ウィンチェスター弾が無くなった場合、俺の弾を銃ごと渡せるなんてのもある。

 まあ・三〇八ウィンチェスター弾は大量に仕入れたので、多分この世界が終わるまで持つとは思うけれど。


 そしてシンヤさん用のうち一丁が・三〇〇WinMag仕様のブローニングBAR Mk.3ライフル。西島さんが岩鬼の店で手に入れたうち強力な方と同じ銃だ。


 残り、つまりシンヤさん用六丁と西島さん用の新規一丁が、今まで俺や西島さんが持っていたのと同じ、・三〇八ウィンチェスター弾仕様のブローニングBAR Mk.3ライフル。

 自動ライフルの中で在庫が一番多い機種だ。


「同じ方が使う時に迷わなくて済みます」


「同じく。ただ保険として強力なのを一丁だけ追加した」


 仕様は俺用だけドットサイトをつけた。あとの2人は魔法やスキルで把握出来るから、いらないそうだ。

 西島さん用のライフルも、サイトを全部外した。少しでも軽くなる方がいいだろうから。


 なお上野台さんにも持っていくか聞いたけれど、いらないそうだ。


「私はパソコン以外の機械類に嫌われているからさ。普通に使っても絶対事故が起こると思う。だから持たない」


 という事で。

 まあ上野台さんは魔法メインだし、最近レベルアップで魔力が増えているから、必要ないかもしれないけれど。

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