第九七話 武器譲渡
それほど大きい音はたてなかった筈だ。なら何故。
わからない時は、という事でスマホを見る。
『統率種は同族の声をかなり遠くから聞き分ける事が出来ます。レベル一五のゴブリンリーダーで、およそ三〇〇メートル程度の範囲の同族の声を聴く事が可能です』
情報を後出しにしないでくれ。そう思っても遅い。
「どうしますか」
走りながら尋ねる。
「こっちの交差点に隠れて様子見のつもり。建物に入ると逃げられなくなる可能性があるから」
確かにそれが正解だろう。
合流して、一つ南側の十字路の西北側にある駐車場の影に隠れる。
「すみません。魔物に気づかれてしまって」
「仕方ない。僕もこんな事があるとはじめて知った」
「そうそう。危険な目に遭う前にわかって助かった、位に思った方がいいと思うよ」
シンヤさんや上野台さんも、統率種の能力について知らなかったようだ。
「それでどうしようか。統率種が来れば勿論倒すけれど、なかなか統率種がやってこない場合は」
「足音がしないなら、こちらから近づくしかないだろう。一〇〇メートル以内に近づけばわかるから、遠くからの遠距離攻撃を受けないように注意して」
「そうですね。今のところ足音は六体か七体です。種類まではわかりません」
さて、本来なら魔物討伐の順番はシンヤさんだ。
しかし俺が倒した魔物のところまで七〇メートルちょっと、魔物がいる通りとの交差点まで二〇〇メートルちょっとある。
この距離は西島さんのライフルか、上野台さんの魔法しか届かない。
そう思って、ふと思いついた。だからシンヤさんに聞いてみる。
「シンヤさんはライフルに持ち替えたら、長距離狙撃は出来ますか?」
「ちょっと待ってくれ」
シンヤさんはスマホを操作する。
「出来ない事はないと思う。必中のスキルは遠距離武器の適性距離までという説明になっている」
「ならこれを使ってみて下さい」
収納からライフルを出す。
「いいのか、これは田谷君用だろう」
「俺は刀や槍専門の方が良さそうですから。ある程度の遠距離に使える魔法も手に入りましたし」
「了解だ。それじゃこの後、銃砲店へ行くまで借りる」
「使い方はわかりますか」
「セフティは……大丈夫だ。これは五発撃てるという事でいいか?」
手に持ってあちこちを確認している。サイトの電源も入れているし、どうやら問題無さそうだ。
「ええ。ご存じでしたか」
「実は卯都宮で銃の店に行ってみたんだが、戸締まりが厳重で入れなかった。そこここに魔物が出て家捜しする余裕も無かった。結果そのままになっていた」
なるほど。俺達は卯都宮よりは人口が少ない岩鬼市の店だったし、家捜しも二人で出来たから何とかなった訳か。
あとは俺が近距離攻撃用の魔法を持っていて、いざとなれば鍵を壊せるなんて理由もあるだろう。
もっとも氷山の奴みたいに全力でぶち壊すつもりでやれば、店に入ることも不可能ではない筈だ。
つまりシンヤさんはそういう方法は好まなかった。その辺なかなか好感が持てる。
「まもなく交差点に来ます」
「監視は咲良ちゃんに任せよう。多いと向こうに気づかれそうだ」
「了解だ」
俺も頷いて駐車場に引っ込む。
「敵は七体です。統率種らしいの以外はバガブだと思います」
「なら攻撃だね。シンヤさん、お願いしていい?」
「わかった。ただ弾が五発だから全部は倒せない。申し訳無いが西島さん、撃ち残しを頼む」
「わかりました。ただ射撃には中央分離帯の並木が邪魔になると思います。撃つなら一気に中央分離帯の先まで出た方がいいです」
「了解。そうする」
シンヤさんはそう言って、そしてささっと銃を点検する。
「それじゃ行こう。西島さん、いいか?」
「私はいつでも」
「わかった。では行く」
シンヤさんが小走りで駐車場から出て行った。中央分離帯の段差を超え、並木の向こうで銃を構える。
次いで西島さんも出て行った。こちらは銃なしで出て行って、シンヤさんの更に先で収納から銃を取り出すという形だ。
バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ。
七発分の音がした。そこで音が止まったという事は、倒したという事だろう。
「……後続の足音はしません。倒したようです」
「レベル一五のゴブリンリーダーだった。あとはバガブだ」
「こちらは一体がバガブで、もう一体がアークゴブリンというはじめて見る種類でした」
わからない事があるとスマホで確認だ。
『アークゴブリンはゴブリンの上位種で、バガブ等から進化する事が多いです。レベルは概ね九~十二。統率能力はありませんがゴブリンリーダーとほぼ同等の身体能力を持ちます』
なるほど、今までみなかったバガブとゴブリンリーダーの間のゴブリン種という事か。
「この銃ありがとう。弾は全部使ってしまったけれど」
「何ならこの後も使って下さい。これが弾です」
俺が持っているライフルの弾を出す。
「ありがとう。それじゃ弾を入れるから少し待ってくれ」
シンヤさんがライフル銃から弾倉を外して弾込めをする。
「シンヤさんは弾の自動装填の魔法は持っていないんですか?」
「持っていない。弾が切れる毎に拳銃を持ち替えていた。だから必要を感じなかったのだろうと思う。
この銃だと必要だろうな。大きいからそう何丁も持ち歩く訳にはいかないから」
そう言えば警察拳銃を十丁収納していると聞いた気がする。
「まあ、何はともあれ、あっさり終わってめでたしめでたしかな。予想外の事はあったけれど。
それじゃついでだから、魔物が出たあの交差点まで行ってから右に戻ろうか」
「そうですね。その方が広い範囲をカバーできそうです」
シンヤさんが弾を込め終わってライフル銃を収納した後、俺達は歩き出す。
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