第一〇二話 夜の来訪者

 疲れているし眠いけれど、何故か眠れない。

 なのでスマホで船台の地図を見てみる。

 先程加工して、今日まで回った道が入っている奴を。


 明日はどの辺を回るのかなと思いつつ、何となくぼーっと地図をスライドさせつつ確認していたところで。


 スマホの通知音が鳴った。SNSのメッセージが表示される。


『すみません。ちょっと話をしたいのです。部屋に行っていいですか』


 発信者は西島さんだ。


『どうぞ』


 そう返信して、そしてベッドから出る。

 ささっとズボンを穿いて、そして扉の方へ。


 それにしても何の話だろう。

 そう思いつつ、扉を開ける。

 西島さんが目の前にいた。


「ごめんなさい、夜なのに」


「大丈夫、ちょうど眠れなかったから」


 この部屋は本来2人部屋。だから、それなりの広さがある。

 窓際にソファーとテーブルがあるので、そこへ移動。


「まずはこれ、今の私のステータスです」


 何だろう。そう思って西島さんに渡されたスマホを見る。


『西島咲良の現在のステータス。レベル:二九。総経験値:二〇一〇。次のレベルまでの必要経験値:七九。HP一一六/一一六。MP七六/七九。

 使用可能魔法(使用魔力):風撃(六~七九)。必中(六~七九)。貫通(三~七九)。炎纏(一三~七九)。冷却(一三~七九)。爆裂(一三~七九)。 自動装填(三)。自動照準(六)。温度調整(三)。簡易回復(一)。簡易治療(三)。洗浄(六)。灯火(一)。収納(常時・冷凍可能)(十二)。探知(常時)(六)。同族統率(一~七九)。異族支配(一~七九)』


「使用魔力で表示されるようになっているんだな、魔法」


「その方が便利かなと思ったら、そう表示されるようになりました。ただ問題はそこじゃなくて、この魔法の方です」


 わかっている。危険な魔法が二つ追加されているのは。

 そう思ったところで表示が変わった。


『同族統率とは、人間を自分の命令通りに動かす魔法です。動かせるのは自分よりレベルが低い対象に限られます。魔力は動かす対象一人につき、一日あたり12/(自分のレベル-相手のレベル)必要です。命令の数が幾つであろうと、使用魔力は同じとなります。相手のレベルが上がっても一日以内なら追加の魔法や魔力は必要ありません』


『異族支配とは、魔物を自分の命令通りに動かす魔法です。動かせるのは自分よりレベルが低い対象に限られます。魔力は動かす対象一人につき、一日あたり12/(自分のレベル-相手のレベル)必要です。命令の数が幾つであろうと、使用魔力は同じとなります。相手のレベルが上がっても一日以内なら追加の魔法や魔力は必要ありません』


 対象と使用魔力が違うだけで、ほぼ同じ効果のようだ。


「こういう魔法が存在するのは予想済みだろ。前にも話した気がするし」


 つとめてそう、軽く当たり前という感じで言う。


「私の方が遠方の敵に対処しやすい分、田谷さんより先にレベルが上がりやすいです。だから私がその気になれば田谷さんに魔法をかける事だって充分出来ます。田谷さんは私の事が怖くないですか?」


 これなら簡単に返答できる。


「別に。そういう魔法をかけるつもりなら、わざわざこうやって言いに来ないと思うし。それでも魔法をかけたとしたら、それは本当にそうする必要がある場合だろう、きっと」


 別に飾ったり偽ったりなんて無しの本音だ。

 西島さんの性格を考えれば、そういった心配をする必要はない。

 

「ならこういった魔法を、普通の戦闘の時なんかに使ってもいいと思いますか。魔物をみかけた時倒しやすいように、攻撃しないという命令と、ゆっくり近づけという命令をかけた方がいいとか」


 これも以前に話したと思う。


「やめた方がいいと思う」


 以前西島さんは言ったのだ。


『自分の配下なら殺すなんで出来なくなります』 


 そう考える人間は、この魔法を使うべきではないだろう。


「無理をする必要は無い。今の状態で充分対応出来ているんだからさ」


「でも便利な魔法が使えるなら、それを使わない事は裏切りにはなりませんか」


 確かにそう考える人間もいるだろう。そういう奴に限って自分はいい方に除外するのだけれど。

 だからここは一般論ではなく、今の状況に限定して答えるのが正しいだろう。


「シンヤさんや上野台さんはそう考えないと思う。勿論俺も。そもそもシンヤさんも上野台さんも持ち魔法を全部公開している訳じゃない。だから西島さんも別に全ての持ち魔法を公開する必要はないし、それを使わなきゃならないなんて事もない」


「そうでしょうか」


 ここは言い切る必要がある。


「そうそう。だから心配はいらないし、あの魔法は使わない方がいい」


「わかりました」


 この話がこの部屋へ来た理由だったのだろう。ならきっとこれで解決だ。

 そう思ったところだった。


「ところでここで泊まる間、この部屋で一緒に寝ていいですか」


 えっ!


「何でまた」


「だって寂しいじゃないですか」


 うーむ。そう言われても……


「部屋は隣だし、別に大丈夫だろ」


「だって二人で話をする時間がほとんど無いじゃないですか、今は」


 これは二人だけで、という意味だろう。大体は上野台さんと三人で行動しているから。

 しかしそんな事を言って勘違いされないか、心配になる。今の状況なら特に問題はないだろうけれど。


「確かにそうだけれどさ」


「お風呂だって最近一緒じゃ無いですし」


 それは一緒じゃない方が普通だ。常識と良識から考えて間違いない。

 ただ何故か俺はその辺を強く言えない。


 西島さんを病室からここまで引っ張ってきてしまったのは俺だ。多分そんな責任感からだろう。

 他の理由はない。きっと、多分。


「わかった」


 結局俺が折れるしかない訳だ。

 貞操の危険なんて理由は、覚悟済みの相手の説得には役に立たないし。


「それじゃ明日4時に起きて、一緒にお風呂はどうですか?」


「それは駄目。ここの大浴場は一応男女で分けているから」


 男女じゃなく個室の風呂という事はないだろう。

 あっちはもっと洒落にならないし。


「わかりました。それじゃ今日はそれで妥協します」


 今日は、というところに一抹の不安を覚えた。

 でもとりあえず、その不安を解消するのは明日にしよう。

 解消できるかは別として。


「それじゃそっちのベッドを使って。俺は今日はもう眠いから」


「わかりました。それではおやすみなさい」


「おやすみなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る