九日目 八月五日 

第二三章 支配と統率と

第一〇三話 規則の開示

 今日は朝風呂に入らず五時過ぎに起床。

 どうやら今日は西島さん、俺を起こさないでおいてくれたようだ。

 着替えて歯を磨いているところで、朝風呂から西島さんが帰ってきて、合流して和室に行って朝食。


 昨日と同じように朝六時に宿を出て、地下鉄の駅近くの駐車場に車を停めて。

 やはり同じように船台駅経由で歩き、紅葉通り駅付近でゴブリンリーダーを含む六体の魔物を、西島さんとシンヤさんの遠距離射撃で倒したところで。


「何か今日の集団、あまり強くなっていない気がするけれど、気のせいかな」


「僕もそう感じる。統率種のレベルも上がっていない」


 確かにさっき出た集団は強くなかった。

 一日経っていたらレベルが一上がってもおかしくないのに、今までの集団と同じ程度だったのだ。


「朝のレポートにヒントがあるかもしれないね。ただ今日はちょい早いから、途中のコンビニでドリンクとデザートを仕入れてから行こう」


 この通りには、そこここにコンビニがある。

 昨日よりやや早く着きそうだったので、途中のコンビニでドリンクを調達。

 

「乳製品はロングライフ牛乳をのぞき、ほぼ駄目ですね」


「細菌類がいないから大丈夫だと思うけれどさ。保証はしないけれど」


「やめておきます。街中でお腹を壊すと大変ですから」


 ペットボトルの飲料とお高いアイスを確保して、今日はアーケード街と大通りの交差点にあるハンバーガー店へ。

 

「まだ時間があるからキッチンをのぞいてくる」


「私も行きます」


 上野台さん、食についてはマメだよな。


「二階の席を確保しておきます」


「わかった」


 シンヤさんと二階へ。

 テーブルを寄せて広めの四人席を作っていると、上野台さんと西島さんがやってきた。


「収穫はどうだった?」


「ハンバーグとかフィレオフィッシュのフライとか、チキンタツタのチキンとかを仕入れてきた」


「ただ自分達で調理するなら冷凍食品のお店の方がいい気がします。それに材料だけならファミレスの方がいい感じです」

 

「確かに昨日の夕食は良かった。あれはファミレスのだろう」


「あのファミレスは良かったね。次はどの系列のファミレスを狙おうか」


 そんな事を話しながら4人で席について、そしてアイスやペットボトルを出して休憩。


「日にちが経って、冷凍以外の食べ物が減っていくのは少し悲しいです」


「でも無料でレストランのメニューを試せるのはいい。僕一人では無理だけれど」


「その辺は上野台さんのおかげですね」


「私の場合、あれが常食だったからなあ。世界がこの状態になってからはだけれど。近くには他にコンビニしか無くて」


 なんて話しているとスマホが振動した。

 レポートの時間だ。


『八日経過時点における日本国第1ブロックのレポート

 多重化措置後八/三五経過

 ブロック内魔物出現数累計:一一万三四一三体 

 うち二十四時間以内の出現数:一六〇四体  

 魔物消去数累計:二万一七五五体

 うち二十四時間以内の消去数:一六〇四体


 開始時人口:一一九人

 現在の人口:一〇〇人

 直近二十四時間以内の死者数:五人

  うち魔物によるもの:五人

 累計死者数:一九人

  うち魔物によるもの:一三人


 現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:二四・四 

 人間の最高レベル:レベル三五 

 人間の最低レベル:四 

 魔物の平均レベル:六・四 

 魔物の最高レベル:二八 

 魔物の最低レベル:一 

 なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大九となります。ご注意下さい


 本ブロックにおける魔物出現率:二二・九パーセント

 歪み消失率 八・七八パーセント』


 ここまでは今までの世界全体のレポートと同様じ項目だ。

 歪み消失率がかなり下がっているのが気になるけれど。

 そして今日は更に続きがある。


『なお日本国第1ブロックについては、統率種が一定数以上発生した事に伴い、新たな規則ルールが開示されます。

 魔物の統率種及び支配種は、魔力に二割以上の余裕がある場合、距離的に最も近い位置にいる統率もしくは支配可能な対象の方へと移動しようとします。この場合の移動は最短距離では無く、最適ルートを魔法で把握した上で行います。

 今回開示される規則ルールは以上です』


 なるほど。


「統率種や支配種が部下を集めるべく積極的に動くぞ、という事でいいのかな、これは」


「ああ。ただ他の統率種に率いられている魔物が一番近い場合、そして他の統率種そのものが一番近い場合について、確認しておきたい」


 シンヤさんの言葉で更に新たな情報がスマホに表示される。


『統率種あるいは支配種に率いられた集団が互いの支配圏内に入った場合、次のようになります。

 ① 集団の頭が統率種と統率種の場合、

  ⅰ 同じ種族の場合は経験値が下の統率種が率いる集団が分裂します

  ⅱ 異なる種族の場合は、そのまま戦闘となります

 ② 支配種と統率種の場合、統率種に率いられた集団が分裂します

 ③ 支配種と支配種の場合、

  ⅰ 支配種のレベル差が五以上ある場合は、レベルが下の方の集団が分裂します

  ⅱ 支配種の種族が同じ場合、平和裏に別れる、あるいは合流する等の例外的な扱いが生じる事があります

  ⅲ それ以外の場合は、基本的には戦闘となります。片方の支配種が倒れるまで戦闘は続きます。支配種が倒れた後は、集団が分裂した場合に準じます

 なお集団が分裂した場合、その集団に属していた魔物を統率下あるいは支配下にいれるか、倒すかについては、残った集団の長である統率種や支配種の判断によります』

 

 つまり戦闘にならない場合も多いという事か。特にレベル差がある場合は。 

 レベル差というか、経験値についてはどうなるのだろう。

 統率下あるいは支配下に入れた場合、経験値は稼げるのだろうか。


『戦闘が発生しない場合、経験値は発生しません。故に人数が増えてもその事により統率種、あるいは支配種の経験値が加算される事はありません』


 あと支配圏というのが出たけれど、どういう意味で、どれくらいの広さなのだろう。


『支配圏とは周囲の魔物、もしくは敵を把握可能な範囲の事です。この広さはレベルによって異なります。統率または支配可能な種族についてはおおよそ五〇〇メートル、それ以外の敵については半径一〇〇メートル程度の範囲となります。ただし周囲五〇〇メートルに統率または支配可能な種族がいない場合に限り、最も近い距離にいる統率または支配可能な種族について、最適ルートの方向を把握可能です』


 新しい事が多くて、把握しきるのにすこしばかり時間がかかる。

 なんて思ったら更に解説が追加された。


『また統率種や支配種に類する魔法として、同族統率魔法、異族支配魔法を使用可能になる場合があります。ただしこれらの魔法が絶対的ではない事には留意して下さい。日本以外のブロックで異族支配魔法によりレベル57まで進化した者がいましたが、魔物の支配種との戦いで魔力不足を起こし、支配下の魔物が離反した結果、昨日死亡しました。』


 西島さんが入手してしまった魔法についても、これで存在が明示されてしまった訳だ。ついでに失敗例も。

 上野台さんがふうっとため息ににた息をついた後、口を開く。


「結構面倒だね、これ。どういう影響があるか、魔物についてだけでもモデルを作ってシミュレートしたいところだよ、本当は。残念ながら数値科学系は得意じゃないけれど」


「周辺部から中心部に向かうか、中央部から周辺部に向かうか。また魔物同士の戦いで数が減る事が、期待しきれなくなったかもしれない」


 なるほど。


「魔物の集団が合流していくというイメージですか」


「断言は出来ない。ただその可能性が低くない気がする。そして当然、ここ船台もそういった魔物の目的地になり得る」

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