第一〇四話 一応ここは観光名所

「今すぐ船台に向かって魔物が行進してくる訳じゃない。それに計算ではあと数日で船台の魔物は出尽くす筈なんだ。船台都市圏の人口の一〇〇分の一しか魔物が出ないと計算するとさ。一〇〇分の一はレベル一換算だから、レベル七なら七体分歪みを使うと仮定して計算すれば」


 そうか。

 俺も水都を出る頃は人口から魔物の出現数を計算していた。

 しかし船台は充分大きい都市である事、そして上野台さんやシンヤさんがいる事から、その辺の細かいところは気にしなくなっていたのだ。

 

「あと何日くらいで船台に魔物が出なくなるでしょうか」


 上野台さんに聞いてみる。


「わからない。魔物同士の食い合いがどれくらいあるかが計算できないからさ。ただ早ければあと4日くらい、遅くても10日以内には出なくなる筈だ。他の街の人口分発生するとか、他から移動してくるとかを考えなければ」


 西島さんに上野台さんはそう答えて、そして更に付け加える。


「今日の魔物の集団がそれほど強くなかったのも、魔物が少なく感じたのも、ひょっとしたらそのせいかもしれない。まだわからないけれどさ、この調子が明日も続くようなら、船台で出る魔物の数も終わりに近いんだろう。今日帰ったら計算を見せるよ。どんな感じなのかってさ」


 シンヤさんが頷いて、そして口を開く。


「了解だ。さて、とりあえずこの後は、昨日と同様、あのレンタカー屋まで行って、それから戻って別行動。夜は同じ宿でいいか」


「それでいいと思うよ。あの宿はちょうどメインの道から外れているし、近くに集落もないから魔物が来る可能性は低いだろうからさ。船台に近いそこそこ大きな街というと、山形か大崎か石巻あたり。だから、あの宿の方へは行かないだろうしね。

 それじゃ行こうか」


 俺達は席を立って、階段経由で外へと向かう。


 ◇◇◇


 昨日と同じレンタカー屋から、今回はシルバーの日産に乗って車の所へ戻る途中。


「申し訳無いけれど、途中寄り道をして欲しいんだけれどいいかい。高いところから船台市街地をひととおり確認したいと思ってさ。私の能力が少し上がってある程度の遠距離でも歪みを捉えられるようになった。だから高いところから見て状況を確認しておきたい」


 運転しながらシンヤさんが返答する。


「了解だ。田谷君も西島さんもそれでいいか?」


「ええ」


「はい」


「ありがとう。それじゃもう少し行って左に曲がって」


「了解」


 大きい郵便局がある交差点を左に曲がって、そしてすぐ左に入る。そのまま出入口の前に車を寄せて駐車。


「このビルですか」


「そう。ここなら朝7時からやっているはずだから、エレベーターも動いている。ここからなら市街地のかなりの部分は見える筈さ」


 勝手知ったると言う感じの上野台さんについていって中へと入り、そしてエレベーターへ。


「このエレベーターは外が見えるんですね」


「そう。こっちは西側で青葉城とかある方向。とりあえず前に斜めに立っているのはマンションで、その右の大きいのがウェスティンホテル」


 高くなって行くにつれ、遠くが見えるようになった。

 そして前のマンションより高くなって向こうに山が見えたところで減速、30階で止まる。


「さて、まずは展望室の方から見てみよう。南側中心によく見える筈だからさ」


 ガラス張りの、巨大な出窓っぽいスペースだ。

 少し前に出っ張っているので、ほぼ180度見回す事が出来る。


「正面が永町方向で、右側の緑が青葉山や山羊山。夜だと割に夜景が綺麗らしいんだけれど、カップルが多いらしいから確かめた事はない」


 そんなことを言いながら上野台さんはスマホを取り出し、何か猛烈な勢いで操作を始めた。

 これは、多分……

 確認してみる。


「見えますか、魔物の居場所が」


「ああ。多いけれど大して怖いのはいないな。最大でレベル九程度までだ。それにこうやって見るから多いだけで、実際はたいした事はない。せいぜい五〇〇メートルメッシュってところだろう」


 そう言いながら景色を見てはスマホを操作している。

 おそらくは魔物の位置や強さを入力しているのだろう。


「海まで見えますね。あと手前側はマンションっぽいビルビルが多いです」


「こっち側はそうだな。比較的新しいマンションが多いと思う。あとほぼ正面の海が泊まっている宿方向なんだけれど、流石にそこまで見分けるのは難しいか」


 そう言いつつスマホを操作して、そして。


「よし、永町あたりまでだいたい把握。南南東方向に大体四キロ程度、そして左右も四キロ程度の範囲で、大体五〇匹程度ってところ。レベルは平均六行くか行かない程度ってとこかな」


「今まで倒したものより弱いな」


「だね」


 上野台さんはシンヤさんに頷いて、そして続ける。


「それぞれの間隔は五〇〇メートル位離れている。だから今までの船台としては結構スカスカだ」


「ここ三日間で魔物を倒した影響だろうか」


「それはあると思うよ。結果、歪みが足りなくなって、レベル九まで発生可能なのにレベルが低いのしか発生できないって感じで。とりあえず確認出来た魔物はいつもの地図に落としておいたから。ここから見て判断しただけだから場所の狂いはあるだろうけれど」


「助かる。ありがとう」


 確かに何処に魔物がいるか、事前にわかればかなり有利だ。効率良く回る事が出来る。


「それじゃ次は北側を確認するよ。結婚式場のチャペル部分あたりが見やすそうだけれど、多分鍵が閉まっている。田谷君の魔法の出番かな」

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