第二〇三話 進撃
アラヤさんが天守台に到着するまで、もう少しかかりそうだ。
余裕が出来ると、気になる事も他に出てくる。
「上野台さんやシンヤさんは、大丈夫だろうか」
俺の察知では、上野台さんもシンヤさんも感知出来ない。
そして今のところ、東御苑の外で俺の察知の範囲内にいる敵も見当たらない。
「上野台さんやシンヤさんなら、多分大丈夫だと思います。一〇〇体程度の魔物なら、以前奈良の山中で相手しましたし、上野台さんなら相手が防御系の魔法を展開していても、全く問題無い方法を持っていそうです」
確かに上野台さんなら、何が相手であろうと、どうにでも出来そうな気がする。
「そうだな。今の俺達は、アラヤさんを何とかする事だけ、考えればいいか」
「ええ。今の私は防御魔法も使えますし、一〇〇メートルを世界新記録の半分以下で走る事だって出来ます。だから田谷さんは、私の方を気にせず、思い切りやってください」
「わかった。ただ天守台付近の魔物を倒した後の最後の詰め、アラヤさん相手は頼む。多分、俺より西島さんの方が適役だから」
「わかりました」
察知+では、まだ魔物は敵と反応しない。
アラヤさんの攻撃命令が下るまでは、きっと敵として反応しないのだろう。
だから目で見える範囲しか、わからない。
そして今のところ、大奥跡の芝生広場、桜の島、竹林、右側の小道と、全部にまんべんなく魔物を散開させているようだ。
そうなると、中央突破では周囲からの遠距離攻撃が殺到する可能性がある。
「俺は右側の道を抜けて、天守台入口前の広場へ近づく。そこから広場側の魔物を片付けるつもりだ。西島さんは隙を見てアラヤさんを目指してくれ。細かい判断は、全部任せる」
「わかりました」
天守台跡の登り口側に、魔物が五列で整列した。多分四〇体位いる。これがアラヤさんの最終防衛線なのだろう。
そろそろ開始か。そう思ったところでスマホが振動した。
『配置は終わりましたが、その前に他の敵が動き出しました。ですので少し待ちましょう。敵は西側から、まもなく一キロ圏内に入ります。また掲示板で上野台さんが警告をしているようです』
「アラヤさんが言う通り、待機でいいよな」
「ええ。連絡しておきます」
「頼む」
そして俺は、スマホ表示に目を落とす。
掲示板画面が自動的に表示された。
『新宿方向から来る二名に警告する。皇居及び皇居東御苑、北の丸公園等、千鳥ヶ淵以東の代官町通りなど、壕に囲まれたエリアに突入した時点で攻撃する。内堀通りから戻る事を推奨する #警告』
『経験値を独占しようなんて悪は見逃せない。俺達の行動は世界を元に戻す為の正義だ。邪魔する悪は許さない #警告』
『古来、正義を名乗る者の方が悪より人を殺している。実際、君達も何度か人を襲っているだろう。福縞では車を壊して足止めさせて貰った。今度は範囲内に入った時点で、直接攻撃させて貰う。防御系の魔法や、攻撃魔法無効の魔法や能力は効かないから、そのつもりで #警告』
『弱い奴程よく吠える。俺達の正義の力を思い知れ! #警告』
正義か。
あんなのが正義を名乗るというのが、何というか……
警告以外のタグがついていないという事は、本気なのだろう。
敵も、上野台さんも。
どうやって上野台さんは攻撃する気なのだろう。そう思ったところで、察知+が西北西側一キロぎりぎりに敵が来た事を知らせる。
しかし二秒程度で、反応が消えた。
ドン! 衝撃音が響く。
倒したのだろうか。でもどうやって?
そう思ったら、SNSの通知が入った。上野台さんからだ。
『状況終了。敵さんは魔法で窒素一〇〇パーセントにした空気の塊に突っ込んだ。窒素は普通は毒ではないから、防御系魔法は通じないだろう。そう思ったけれど、正解だったようだ。
こっちに被害はない。それでは南東から近づいてくる、魔物軍団の方へ行ってくる』
毒ではないから、防御も働かないか。
上野台さん、レベルはあまり高くないけれど、実際は最強なのではないだろうか。
Webカメラだの衛星写真だのまで使いこなすし。
運動能力と移動能力は最低レベルだけれど。
一息おいた後、またSNSの通知が入る。今度はアラヤさんだ。
「あちらの状況は終わったようです。それでは、こちらも開始しましょう」
察知+が、一気に多数の敵反応を感知する。此処から天守台までの間の魔物、合計三〇〇体程度だ。
他は変化が無い。この魔物三〇〇体だけで勝負に出る形の模様。
西島さんが俺の方を見る。俺は頷いてみせた。
「わかりました」
西島さんがそうSNSを入れ、そして俺達は立ち上がる。
今回は武器はいらない。睡眠魔法で、視認出来る魔物を片っ端から眠らせればいいだけ。
「じゃ、行くか」
「ええ」
俺は加速魔法を起動し、北へ向け走り出した。
まずは大奥跡の右側、木々に隠れた道をダッシュし、天守台へと向かう道へ。
一気に十数体の魔物を眠らせる。倒して経験値にしたいが、時間が惜しい。まずは無力化する方を優先だ。
魔物が邪魔で一気に駆け抜けられない道を、それでも左右に避けつつ片っ端から睡眠魔法を仕掛けていく。
察知+が反応した。左側と前方から、攻撃魔法や矢が飛んでいるようだ。
察知+では攻撃の軌道までは読めない。極力同じところに留まらず、左右へ進路を動かしつつできる限り早く前方へ向かう。出来る事はそれだけだ。
それでも何発かは、攻撃を避けられず当たっているだろう。スマホを見て残り魔力を確認したいが、そんな余裕はない。
この細い道が切れ天守台前の広場に出るまでの二〇〇メートルが、随分遠く感じられる。
左側の木々が無くなり、周囲が開けた。全力で睡眠魔法を起動。倒れる魔物の更に奥の魔物も、睡眠魔法で眠らせる。
天守台までの魔物は、ひととおり眠らせた筈だ。後は天守台から南側に散らばっている魔物が主。
攻撃魔法や矢で、相変わらず察知+は危険を訴えっぱなし。
でもまだ睡眠魔法で魔物が倒れているから、魔力は残っている筈。そう信じて、魔物がより多く見えそうな位置へと動きつつ、倒していく。
攻撃魔法を起動して、それが俺に届くより、見ただけで起動する睡眠魔法の方が早いし速い。
休憩所から天守台前まで、そして天守台前に防衛線としていた魔物は全部眠らせた。
これで西島さんの進路はクリアになった筈だ。
あとはその、西島さんを攻撃出来る魔物の排除。西側、竹林方向へ走りつつ、睡眠魔法を連発する。
五〇メートル位先までの魔物は、倒れた。なら、そろそろいいだろう。俺は収納から、抜いた状態の日本刀を取りだす。そして左から右へ、全力で横に振りつつ遠当魔法を起動。
一瞬、スマホの表示が見えた。
『残り魔力は一八二です』
まだまだ余裕がある。なら大丈夫だ。
あと後ろ、左側から真後ろ、天守台方向へ向かう足音が聞こえる。西島さんだろう。
俺は振り向かない。
西島さんを信じて、今は前にいる魔物に集中する。
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