第二〇章 今日も大きいホテル

第八四話 ちょうどいい店

 そこそこ長いアーケード街を通って、途中バガブ二体とオーク一体を倒して。


 アーケード街を出たところでシンヤさんと別れた。

 シンヤさんはここからバイク移動、俺達は歩いて船台駅方向へ。

 二~三分歩くと出てくる魔物を倒しながら駅まで歩く。


「やっぱり魔物が多いな、この辺は」


 思わずそう言ってしまうくらいの


 船台駅では駅ナカをあさって良さそうな物を仕入れた。

 真空パックの牛タンとか笹かまぼこ各種とか上野台さん用銘酒とか。


 駅ではオーク二体が出たけれど、これは俺と上野台さんで倒した。

 複数一気に出なければそう怖いことはない。

 まだ今の段階ではだけれども。


 そして牛タンを手に入れた事で西島さんがこんな事を考えた。


「どうせならホットプレートが欲しいです。そうすれば牛タンを自分で焼きながら食べられますよね」


「確かにその方が美味しそうだな。駅前に大型店があるから寄っておこう」


 駅前にあった大型電器店でホットプレートを入手。

 ついでにネット用の小型ノートパソコンも入手した。これは上野台さん用だ。


「この方が操作しやすいからさ、私は」


 そして行きと違う通りを歩いて車に向かう。

 やっぱり二~三分毎に出る魔物を倒しながら。


「いい加減疲れたな、歩くの」


「確かにそうです。合計で四キロを超えそうですから。すぐに魔物が出てきますし」


 とにかく魔物が多い。300m程度歩けば必ず出てくる。それもバガブかオークといった、そこそこレベルが高い奴。


「昨日シンヤさんがこの辺の魔物を倒した筈ですよね」


「また発生したんだろう。この辺のレベルなら二~三体倒したらレベルアップするからさ」


「毎日倒さないと危険ですね、この辺は」


「ああ。ただ集団はもういない様だな。さっき倒した奴だけか」


「明日になればまた出てくるかもしれないですけれどね」


 ただでさえ夏の午後で暑いのにこんな状況だ。だから疲れるのは当然。

 それでもまっすぐ車に戻る訳ではなかった。

 もう一箇所寄る予定が出来てしまったのだ。


「ついでだからもう少し先にある冷凍食品専門店に寄っていいか? そんなに遠回りにはならないみたいだし、普通のスーパーとは少し違う品揃えらしいからさ。行くのは初めてなんだけれど」


 上野台さんからそんな提案。

 冷凍食品専門店か。そういうものがあるとは知らなかった。そう思いつつ俺は尋ねた


「どのあたりですか?」


「実は行く途中通った場所だ。細い道を歩いて大きい交差点を渡っただろう。あの辺り。魔物さえ出なければあと5分かからない」


 まあ実際はそれだけ歩けば二回は魔物が出るだろうけれど。


「どんな感じでしょうか」


 今ひとつ記憶に残っていないから聞いてみる。


「ネットで知っただけだからよくわからない。通った時も魔物の方を気にしていたしさ。

 ネットには餃子とかカレーとかの冷凍食品が美味しいとあった。あと冷凍フルーツやスイーツ等も結構揃っているらしい」


「行きましょう」


 西島さんがそう言った直後、スマホが振動。


「今度は俺の番ですね」


 レベル八のバガブが出現して俺の槍で倒す。


 その後一分程度歩いて、大通り同士の交差点に出たところでレベル九のオークが出現。

 これは上野台さんが倒して、そして交差点を右に曲がってすぐ。


「あの青い看板の店だろ」


 見ると確かに冷凍食品専門店と出ている。他にも無人販売とか、二四時間営業とか。


 二四時間営業というのはありがたい。


「これなら鍵を開ける魔法を使わないで済みます」


 鍵を開けるのにも魔力を使うから。


「ただ思ったより店が小さそうだな」


 ぱっと見には向かいにあるコンビニの半分以下に見える。もちろん見えていない部分はあるのだろうけれど。


 ただ近づいてみても大きさは予想の範囲内だった。カウンターだけのパン屋よりは広いが、大きくてお盆をもって回るようなパン屋よりは小さい感じ。


「まあ折角来たし、入ってみるか」


「そうですね」


 それほど期待はしないで入る。

 店内は上面のガラスをスライドして開くタイプの冷凍庫が十数個並んでいた。

 他には壁沿いに棚があって、常温品も少量おいてある感じだ。


 さて、冷凍の方を見ると……

 いや、これは、なかなかだ。


「このピザ、美味しそうです。ただ他にも良さそうなものが多くて、厳選しないと辛そうな気がします」


「ああ。皆で囲んでもつ鍋とかやってもいいよな。あとこの辺の焼き肉用の冷凍肉、今日タンと一緒に焼き比べしないか」


「いいですね。あとこの辺の冷凍パンも欲しいです。最近こういったパンを食べていないので」


 西島さんと上野台さんが言う通りだ。

 スーパー等にはない感じの冷凍惣菜がこれでもかと攻撃してくる。


「これは駄目だ。欲しいのを取ったらキリが無い。どうせ船台でレベル上げするなら明日も来る事が出来るんだ。今日から明日朝まで食べる分だけにしよう」


「確かにそうです。私の冷凍食品用魔法収納アイテムボックス、あと五キログラムしかないですから」


「なら牛タンと一緒に焼く肉は持っていこう。あとは野菜類と明日の朝食か。朝食はシリアルだけだったけか」


「いえ、これならがっつり食べた方がいいです。朝食、ピザもいいですけれどハンバーガーも良さそうですね」


 一応西島さんにもいつも取り過ぎているという自覚はあるようだ。

 ならお任せしてしまおう。そう思って、俺はエアコンの風が来るところで立った状態で二人が選ぶのを見る。


 それにしてもこんな今回の食糧事情にあった店、存在していたんだ。

 冷凍で、美味しそうな惣菜が各種揃っていて、24時間営業だから鍵が開いているという店が。


 狭い店だけれどとりあえずしばらくはかかりそうだ。

 しばらく此処で涼んでいよう。

 本当は椅子があると楽なのだけれど。

 そう思いつつ俺は二人が食材を選ぶのを待つ。

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