第八五話 暑い道のり

「それじゃブルーシールのアイスを一人二個で八個。これで最後にします」


 持っていく冷凍食品選びもやっと終わりそうだ。


「沖縄のアイスを東北で食べるというのもいいよな。それも温泉で」


「ええ。あと本当は野菜の惣菜があれば良かったのですけれど、冷凍で良さそうな物があまり無いです。常温のレトルトが少しありましたけれど」

 

「向かいのコンビニに行けばあるかな」


「そうですね」


 確かに野菜メインの惣菜はこの冷凍食品店にはほとんど無かった。

 メインの肉料理や魚料理、ピザ、パン、カレー、デザート等と結構揃っていたのだけれど。


 しかし狭い通りの向かい側がコンビニ。なので店を出て七歩程度で到着。そのまま冷凍食品のコーナーへ。


 冷蔵庫の扉を開ける前に、まずは全員で中にある商品を確認。


「こうやって見ると野菜系統の冷凍食品やレトルトって少ないんだな」


 確かにこちらも野菜は少ない。肉類とかパスタ等は多いのだけれど。


「サラダとかは生鮮の方がメインなんでしょうね。この海老とあさりのアヒージョでいいですか。ブロッコリーが結構入っているみたいですし。さっぱりしたのも欲しいですから、他に普通の冷凍ブロッコリーと、冷凍ほうれん草で。

 さっきの店でレトルトの野菜うま煮ときんぴらゴボウを持ってきたので、これで何とかなると思います」


 そう言えば……俺は思い出す。魔法収納を確認、あるな。


「俺の方の収納にポテトサラダの袋がまだあった。開けていないから大丈夫だろう」


「ならそれでいいですね。こんなところでしょうか」


「だな。なら歩きたくないけれど仕方ない。行くとするか」


 扉の外は猛暑だ。そこそこ長い間エアコンが効いている場所にいたから少しは耐えられそうだけれど。


「あとは車に戻って宿でいいか」


 上野台さんの言葉にスマホで時間を確認。

 まもなく午後三時半。いつもは午後四時には宿に向かうようにしていたから、こんなものだろう。


「そうですね。そろそろいい時間です」


「今日のノルマ分は充分倒しましたし」


 確かに西島さんの言うとおりだ。充分魔物を倒したし、レベルも俺と西島さんはもうすぐレベル二六。上野台さんはさっきレベル一八になったところ。


「それにしても街中は魔物が多かったなあ。明日は朝のうちに街の中央部を回って、午後から車で外側を回ろうか」


「そうですね。お昼過ぎの方が暑くて歩くのが辛いです」


 車はエアコンが効く。これは大きな利点だ。日中に街中をうろうろ歩いているとどうしても暑くて疲れる。


 幸いこの道は魔物が出てこない。昼過ぎに通ったばかりだからだろうけれど。


「この辺でも三時間くらいでは魔物は再発生しないみたいですね」


「ああ。もっと中心に近い辺りだとわからないけれどさ。あと魔物、自発的にはそれほど動かないのかもしれない。人や他の魔物が音を立てたりしない限りは」


「そうですね。移動しているならこの道ももう少し出てきてもいいと思います」


「その通りだよな。さっさと帰って座りたいから出なくてありがたいけれどさ」


 一〇分弱歩いて、やっと車に到着。しかしだ。


「もわっと来たな、熱気」


「そうですね」


 日の当たる通り上にとめておいたせいだろう。中がとんでもない気温になっている。


 扉を全部開けて後ろのハッチも開けて。更にエンジンをかけてエアコンを全開に。


 三〇秒位して、そして覚悟を決めて乗り込んだ。まだ暑い。特にダッシュボードの辺りが無茶苦茶暑くなっているようで、熱気が感じられる。


「走れば涼しくなるだろ。エアコンもかけているしさ」


「でもまた魔物が出たら外に出なきゃ行けないんですよね」


「極力出ない道を選んで行こう。まずは次の交差点を左だ」 


 上野台さんの言う通りに走り出す。走るとエアコンがより強く効き始めた気がした。


「次の大きい交差点を左に行って、左から二車線目、山形方向へ。そのまま走るとトンネル経由で高速に出る。このルートなら魔物が出にくいだろう」


「わかりました」


 言われた通り走ると車両専用道路からそのまま高速へ。


「次のインターで降りて山形方向へ。そうすれば秋兎温泉はすぐだ。このルートなら街中よりずっと人口は少ないし、魔物も出にくいだろう。

 一応カーナビもセットしておくよ。多分お勧めルートで出ると思うけれど、そうでなければ私が説明するから」


 なるほど。確かにそんなルートなら魔物も少ないだろう。でもそれはそれで微妙に疑問が出る。


「上野台さん、道に詳しいですよね。車もバイクも乗らないのに」


 自分で運転しないのに自動車専用道路まで知っているのは何故だろう。


「助手席は結構乗っているからさ。うちの大学は車で来ている奴がそこそこいるから」


 なるほど。


「上野台さんは彼氏さんとかいらっしゃったのですか?」


 西島さんが妙な事を聞いた。助手席からの連想だろうか。


「いない。いると自分の行動が拘束されそうでさ。無論そういう関係ばかりでは無いとはわかっちゃいるけれど。

 ボドゲサークルとか研究室とかで友達は普通にいるけれどさ」


「サークルに入っているんですか」


「週一回水曜日に集まってボードゲームをして飯を食うというだけのサークルだけれどさ。忙しかったら休んでもいいし、毎日やっている連中もいるし、自由でいい加減なところが私にあっててさ。

 たまに合宿もするんだ。普段はドミニオンとかカルカソンヌとか、午後の時間で三ゲームくらいは出来る程度のもので遊ぶけれどさ。合宿では目一杯時間を使えるからTRPGなんてのをやったり、初心に戻って人生ゲームなんてやったりとかさ」


「楽しそうですね」


 確かに楽しそうだなと俺も思う。言っている用語はよくわからないけれど。

 上野台さんは頷いた。


「ああ。でもサークルに限らず大学は楽しいぞ。私の場合、小学校より中学や高校、高校より大学が楽しいって感じだな。

 小学校は地元公立だったからいろんなのがいて大変だった。理屈どころか同じ日本語が通じない、その場の感情で生きている化物みたいなのがそこそこいたからな。

 なんで面倒過ぎたので中学校は公立の中高一貫に入った。そうしたら馬鹿が少なくなって大分楽になった。

 そして大学はもっと馬鹿が少ないし何より自由だ。家から通えない大学を選んで下宿したというのもあるけれどさ。授業だってある程度選べるし、誰かとつるまないといけないなんて変な慣習みたいなものもない。

 まあその分、堕落すれば留年とか卒業できなくなるなんてのもあるけれどさ。実際10人に一人は留年するし。

 でもまあ、墜ちる自由も自由のうちだから」


 墜ちる自由も自由のうちか。でも確かにそう言う考え方も有りなのだろう。

 そして小学校より中高の方が楽しかったか。


 ふと思う。そういえば今の高校も、中学時代に比べれば大分ましだったなと。

 何せ小学校、中学校ともに真面目に勉強していると異端者的に見られる世界だったから。


 俺も本当は公立でいいから中高一貫に入りたかった。けれど家の方針で受験できなかったのだ。

 結果、中学も低レベル過ぎて疲れる状態だった。

 

 それに比べれば滑り止めで入った今の高校でも大分まし。

 確かに陽キャとかスポーツ馬鹿とか不良もどきとかはいる。けれど小中学校の時のような動物園状態じゃない。


 なんて思っているうちに下りる予定のインターの案内標識が出てきた。


 停まっている車を避けつつ本線から左へ別れる道へ入り、カーブをゆっくり通過して料金所の有人ブースへ。


 幅が狭まっている場所も大分慣れたなと思いつつ料金所をゆっくり通過。言われたとおり山形方向へ向かって一般道に入る。


 一般道と言っても片側二車線ある立派な道だ。これだけ太いと停まっている車を避けるのも楽でいい。


「このまま一気に秋兎温泉に行けるでしょうか」


「どうだろう。一~二回は出るんじゃないか」


 上野台さんがそう言った所でスマホが振動した。

 どうやら言った通りになったようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る