第八三話 統率種が倒れた結果
「すみません。銃を使って」
「問題無いだろ。反応も無いしさ」
上野台さんが言う通り魔物の反応はない。銃声を聞きつけて集団がやってくるという事はなくて済んだ様だ。
再び大通りを東に向かって歩いて行って、大きい交差点の先で斜め左に伸びている道に入る。
幅六メートルの車道、左右両方に幅三メートル位の歩道がついているというそこそこ立派な道だ。
真っ直ぐなのでかなり向こうまで見える。
左右は二階建てから一〇階以上と高さがバラバラなビル、所々に駐車場。
「いかにも魔物が飛び出てきそうな道ですけれど、出てきませんね」
西島さんの言う通り、こういう場所で横から出てくるというパターンが多かった気がする。
しかしまだ魔物の反応はない。つまり一〇〇メートル以内に魔物はいない筈だ。
「シンヤさんの時は一気に一〇体位、走って出て来たんですよね」
俺の質問にシンヤさんは頷く。
「ああ。距離を取りながら倒していけば大丈夫だろうと思って近づくまで待っていた。二匹倒したところで矢が飛んできてまずいと思って逃げたんだけどさ」
つまり居場所の隠蔽とかは無いと思っていい訳か。そう思ってスマホの画面を見てみる。
『魔法等からの隠蔽能力を得るのは人、魔物ともにレベル四一以上となります』
つまり今はまだ大丈夫という事だ。
普通に、魔物に出遭わないまま五分くらい歩いて、そして大通りを渡る。
「まだいない感じだね。もう少し北かな、いるのは」
「ばらける事無く集団で移動していた。まだ三時間前の話だ。動きは変わっていないだろう」
そして信号がある交差点へ。ここを左に曲がり、二車線の道へ入る。
この道も両側に歩道付き。船台のこの辺は道が贅沢だなと思いつつ、北へ向かって歩き出す。
小さい交差点二つを通過した直後、前方に反応があった。音を消しておいたスマホが振動で警告を伝えてくる。
「全部で一六体、大通り上か」
俺の魔法もシンヤさんの言う通り、一六個の反応を確認出来る。
「接近して複数いると数がわからないんだよね、私の能力だと。
でもこれだと射線が通らないなあ。車が邪魔だし道が狭いし。向こうに動きはないようだし、大回りして近づくかい?」
「そうですね。その方が楽です」
遠距離担当が二人ともそう言うのなら、迂回した方がいいのだろう。
「ならここは左で、いっそ大通りまで戻ろう。右は他に魔物が出てくる可能性が高い」
シンヤさんの意見に同意という事で俺は頷く。
上野台さんも頷いて口を開いた。
「そうだね。その方が狙いやすいと思うし」
西島さんも頷いているので、全員一致だ。
という事で左に折れて細い道を西方向、つまり戻る形で進む。
なおこの道も車道は狭いのに両側に歩道がある。幅は広くはないけれど。
少し歩いて大きい交差点へ。並木が両側では無く中央分離帯に生えている大通りに出て北へ。
大通り同士の交差点で、最中屋さんの影から魔物が陣取っている方向を観察する。
「いるね。一〇〇メートル以上あるから能力ではわからないけれどさ」
上野台さんの言う通り距離はまだ遠い。
俺の魔法でもまだ確認出来ないし、スマホも反応していない。
それでも目で見ればは動いているのがわかる。
西島さんが頷いた。
「これくらいなら狙い撃てます。一番大きいのから、狙えるだけ狙って撃っていいですよね」
「統率種が死ぬと部下がどうなるか、確認するのも悪くないな。逃げたら逃げたで追いかけて倒せばいいし。シンヤさんや田谷君もそれでいいかい?」
「了解だ」
「俺もそれでいいと思います」
「わかりました」
西島さんがライフルを取り出す。いつもの自動のタイプだ。
「大きいのと、あと狙えたら強そうなのを狙えるだけ狙います」
曲がり角ギリギリに立って、すっと銃を上げて頬につけて構えて、そして。
バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ、バシュ。
五発装填の銃で七発の音がした。自動装填の魔法を使ったのだろう。
「難しいですね。全部倒そうと思ったのですけれど逃げられちゃいました。倒せたのは大きいのを含めて五体だけです」
「この距離でそれだけ倒せれば充分以上だと思うよ」
「僕も無理だ」
シンヤさんは同じ銃使いでも西島さんとは違う方向性のようだ。
「それじゃ残りを片付けに行こうか」
「そうですね」
遠距離攻撃を避けるため前方に注意し、なおかつ街路樹や車で射線が通らないように歩いて行く。
まだ魔法では魔物を捉えられない。
それでもある程度魔物の様子は見える。
「どうやら魔物同士の殺し合いをしているようだね」
「そう見えるな。なら全部倒れる前に急いで経験値稼ぎに行くか」
「私は遠慮する。走るは苦手だからさ」
「私も充分経験値は稼いだのでいいです」
女性二人はパス。なら俺とシンヤさんか。
「行くか」
「はい」
二人で走り出した。一気に現場の交差点が近づく。
魔法で認識出来る範囲に魔物が入った。今生きているのは四体、いずれもバガブだ。
「二体ずつといこう」
「わかりました」
シンヤさんは走りながら拳銃を取り出す。俺や西島さんが使っているのと同じ警察の拳銃だ。
魔物が四体、それぞれ争っているのが見える。遠距離攻撃をしそうな感じではない。今まで倒したのと同じ普通のバガブに見える。
三〇メートル位でシンヤさんは拳銃を発射した。走りながら二発。
あっさりバガブ二体が倒れる。
「後は任せた」
「了解です」
まずは長い方の槍で。出してまず片方の胸にぶっ刺す。
刺してもすぐには死なない事はわかっている。だから刺した方は向こう側へ突き倒して槍から手を離す。
そしてもう一本、短い槍を取り出して残ったバガブに突き刺して。
二体とも倒れて動かなくなったところで槍を手に取り回収。
シンヤさんが倒れている魔物をスマホで撮っている。そう言えば……
「Webの記事用ですか」
シンヤさんは頷いた。
「出来るだけ記録しておきたい。こんな世界でやる必要は無いだろうけれど」
まだ残っている大きいゴブリンやバガブ、弓を持っているホブゴブリンや杖を持っているゴブリン等を撮影。
なんて事をやっている間に西島さん達が追いついてきた。なので聞いてみる。
「今回の魔物のボス、種類は何だった?」
「ゴブリンリーダーのレベル一五でした。あとはホブゴブリンメイジのレベル一二、バガブのレベル九、ホブゴブリンアーチャーのレベル八、バガブのレベル七です」
今の五体だけで相当経験値を稼いだなと思う。しかしこの後も結構レベルは上がるだろう。
何故なら……
「それじゃぐるっと船台の中心部を歩いて回ろうか。店は閉まっているけれど二番町のアーケードを通って、シンヤさんのバイクを確認して」
上野台さんが言った通りの予定になっているから。
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