第八二話 作戦開始

 昼食はまとまりが全くないけれど豪華だった。

 ステーキ二皿、ハンバーグ三種類、鰻蒲焼き、刺身各種、タラバカニ、ホットサラダ。

 主食は御飯と、焼きたてっぽいパン。


「豪華だな。毎日こんなのを食べていたのか、こっちは」


「海鮮が入ったのは昨日の昼に市場に行ってからだね。私は足が無いから」


「俺達も昨日朝まではレトルトやシリアルでした。ファミレスメニューは昨日昼からです」


 確かにこの食事は衝撃的だと思う。

 今でも十分以上に美味しいと俺も思うし。


「そっちでも話していたけれどさ。この後は全員で集団の魔物狩りでいいかい?」


 上野台さんの言葉に俺とシンヤさんは頷く。


「そうした方がいいだろう。船台にとどまるとするなら。ただ昨日も駅前で五体の集団を倒したばかりだ。このペースだと毎日集団が現れ、討伐することになる」


 シンヤさんはそこで一度ため息をついて、そして続ける。


「それでも船台である程度粘るのが正解なんだろう。ここから脱出すれば北側には大きな市はない。飽田がぎりぎり三〇万人で森岡と青盛がそれぞれ三〇万以下。

 強いて言えば新居潟だろう。しかしあそこは都市圏としてみると船台と同等だ。ここから逃げる先としては向かない」


「ああ。船台ここで粘って、あとは逃げるしかないんだろうと思うよ、私も。ただ私自身は前にも言った通り足がない。今は誰かに車を運転して貰って移動しているけれどさ。別れるときついな、正直なところ」


「確かに車で移動はきつい。結構道がふさがっている。腕力か魔法で車を排除する事が出来れば別として。

 どうしようも無ければ僕と二人乗りだ。それで良ければだが」


 やはりバイクでないと船台を出た後は厳しいか。


 確かに俺もそう思う。船台に来るまでに自動車なら通れない場所が何箇所かあった。

 船台市街地でも時々交差点前等で動けなくなってバックしたし。

 

「ありがとう。ちょっと気が楽になった。何せそれで免許がない田谷君に車を運転して貰う状態だったからさ。このままじゃ船台脱出をどうしようと思っていたんだ。

 話は変わるけれど、告分町の魔物集団を倒した後はどうする? 四人で動くか、バイクに乗って単独行動に戻るか」


「集団戦でなければ単独の方が効率がいい。ただ連絡その他あるから夜は合流しよう。それでいいか」


 つまり集団戦の後は再び運転担当か。正直なところ車は慣れていないから結構疲れるのだけれど。


「わかった。それでも大分助かる。ところで今日の宿、秋兎温泉の何処だったっけか」


「秋兎温泉の新三戸屋ホテル、453号室か452号室か451号室です」


「秋兎温泉の新三戸屋ホテル、451~453のどれかか。了解だ」


 また大きいホテルで温泉が充実しているのだろう。今までのパターンからして間違いない。


 なお話しながらも食べている。鰻、久しぶりに食べたけれど美味しい。

 ステーキやマグロのトロとかと食べると背徳感を覚えるけれど。

 高価そうで無茶苦茶な組み合わせだから。


 ◇◇◇


 食べて、食後休憩しつつ作戦を練って。

 十二時三十分にファミレスを出て、四人で車に乗る。


「大橋を通って西公園の交差点に車を停めて歩いて行こう。橋から先で魔物が出た場合はそこで車を停めることにして」


 シンヤさんが魔物の集団を最後に確認したのは、車を停める予定の交差点より二〇〇メートル北。

 ちなみに魔物の集団を最初に認知した地点は東北東六〇〇メートル。バイクがある交差点は六〇〇メートル東。


 途中までは先程ここへ来た道と同じ。だからか魔物は出てこない。


「本当はこの辺から行けば青葉城の観光にはちょうどいいんだけれどな。魔物集団を倒してからだな」


「でも今日はもう午後四時まであと三時間ちょっとです。潮竃神社を観光しましたし、明日以降のお楽しみにとっておきます」


「そうだな。もう今日はそこまで時間はないか」


 そんな事を話しながら普通に走って、そしていよいよ川を渡る橋へ。

 橋を渡った直後にスマホから警報音が鳴り響いた。


 反応は一箇所、前方右側。敵集団とは別方向だしおそらくは今回のターゲットじゃない。


「単独、だけれど反応はそこそこ大きい」


 上野台さんは歪みの大きさで魔物の強さを判断出来る。今の意味はバガブ以上の敵ということだろう。


「了解した」


 シンヤさんが俺より遙かにスムーズに車を停めた。

 全員外へ出て、そして皆で歩き出す。


 敵の反応は右側に見えるマンション近くで高さはこの道路よりやや下側。

 つまり右側からこちらに坂を登ってきているのだろう。

 このままならマンションの向こう側にある交差点でこの道に出てくる。


「誰がやる?」


 シンヤさんの言葉。この距離で敵が単独なら。


「俺がやりますよ。弾も魔法も使いませんから」


「わかった」 


 それではという事で敵の方へダッシュする。

 敵の反応は一つのまま。別方向にいるという事も無さそうだ。

 敵集団はこの辺にいないのだろう。そう思いつつ、俺は長い方の槍を取り出す。


 遭遇予想地点はマンションの向こう側に郵便ポストがある細い道との交差点。

 右側マンションの壁沿いに移動。これは敵に先に見つからない為。

 今回はバガブ以上の敵らしいから、それなりに用心してと。


 足音。予想通りのタイミングで右から出てきた。身体は灰色でバガブよりずっと大きい。オークという奴だろう。

 視認とほぼ同時に槍を突き出す。確かな手応え。脇腹から体内深くまで突き刺さった。


 しかし敵はすぐに倒れない。無理矢理身体をねじってこちらを向く。槍が折れそうだ。慌てて俺は引っこ抜こうとするが抜けない。


 まずい。そう思った次の瞬間気づく。収納すればいいだけだと。

 槍を収納して代わりに拳銃を出す。久しぶりだがこの距離なら当たるだろう。

 引き金を強く絞る。派手な発射音。ぐらっと奴の身体が揺れた。そのまま前のめりに倒れる。


 他に反応はない。俺は銃を収納しようとして、そして気がついて今使った分の弾を込める。


 さて、今の銃声に他の魔物が気づいただろうか。気づいたら近寄ってくるだろうか。

 今現在はまだスマホや魔法で確認出来る範囲には、敵は入っていないけれど。

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