第一三六話 敵多数出現
『全期間の五分の二が経過しました。現時点における日本第一ブロックでは、歪み消失率に地理的な偏りが大きい状態です。より効率的に歪みを解消するため、次のように規則を変更するとともに、新たな情報開示を行います』
やはり今日、規則の変更があった。
予想通り七日ごとに見直しを行っているようだ。
『まずは魔物の移動規則を変更します。今まで単体の魔物については、敵の発見及び排除に必要な時、及び統率種や支配種によって誘引された時を除き、基本的には移動しない事になっていました。
ですが、このままでは、期限までに歪みを充分に消去することが出来ない可能性が高いと判断されます。ですので統率種や支配種ではない魔物について、移動規則を次のように変更します。
① 統率種あるいは支配種から命令を受けている場合は、それに従う
② 統率種あるいは支配種から誘引されている場合、そちら方向へ合理的な方法で向かう
③ 敵を発見した場合、勝ち目がありそうだと判断した場合は攻撃に最適な位置へ移動する。勝ち目がないと判断した場合、敵の位置と反対方向へと逃走する。
④ ①~③のいずれでもない場合、五〇キロメートル以内で最も高いレベルを持つ人または魔物へと向かう。この場合、目的地点から一キロメートルまで近づいた時点で停止する。以降は最も強い歪みが一キロメートル以上離れる、あるいは五〇キロメートル以内により強いレベルの人または魔物が出現するまでは、①~③による場合をのぞき、移動しない。
統率種あるいは支配種ではない魔物の移動規則については、以上です』
なかなか面倒くさい説明だなと感じる。
だが要するに、他に魔物、あるいは人がいる方向へと近づいていくと考えればいいだろう。
なお、レポートは更に続いている。
『また魔物の出現率が五〇パーセントを過ぎた事により、以降の魔物出現設定について、開示します。
本日この発表終了後から七日間、魔物は以下の条件で発生します。
1 残った歪みをこの七日間で使い切るペースで、魔物を発生させます。なお歪みの計算は市町村、政令指定都市及び東京特別区においては区の単位で行うとします。
2 出現させる魔物については、次のような基準で選定します。
① 残った歪みレベルで発生可能な最大レベルの魔物を優先します。ただし、その日出現する魔物の最大レベルを超える場合は、その日の最大レベルとします。
② 該当市区町村に統率種や支配種がいる場合は、それらが支配可能な種族を、そうでない場合は①の条件で出現可能な最大レベルの統率種あるいは支配種を出現させます。
③ 出現頻度は、基本的に七日間、平均的に出現させるようにします。ただし該当市区町村に存在する魔物のレベルの合計が三〇以下になった場合、一時間以内で次の魔物を発生させます。
変更及び開示は以上です』
魔物の一斉放出大セールというところだろうか。
ただしこれだと、来週以降は魔物が発生しない事になる。
それでいいのだろうか。
スマホを見て確認する。
『第四週以降は、残った魔物を討伐する等、残った歪みを消去するための期間となります』
いやな予感がする。
その期間で、魔物討伐だけではなく、人間同士が経験値をかけて戦う事になるのではないかという。
いや、人間同士を戦わせる意図がある可能性が高い。
そもそも『歪みの原因である人間』と、以前書かれていた覚えがあるし。
「シンヤさん、大丈夫でしょうか」
「大丈夫だと思うよ。シンヤは無茶しない奴だ。船台で集団と戦った時だって、余裕があるうちに逃げる選択をしているしさ。このレポートを読んだ直後に都心とは逆方面に逃げているんじゃないか」
シンヤさんからは昨晩もSNSで近況連絡が来た。
千葉の北側外れの方にある、ゴルフ場の併設ホテルに泊まっているそうだ。
これ以上人口密度が多い場所では夜、安心して眠れないという理由で。
それくらい安全には気をつける人だ。
だから多分、大丈夫だろうとは思うけれど。
そして俺達の方は……
確かにレポートの後、察知+でわかる範囲内に、魔物が一体出現した。
しかし本日新たに出現するのはレベル一四までだ。
つまり船台で相手した集団のボスと同等か、むしろ弱いくらい。
だから注意して戦えば、そう怖い事はないだろう。
そう思ったところで、上野台さんの表情に気が付いた。
何か微妙に暗い顔をしている。
「何かありましたか、上野台さん」
「いや、ちょっとばかり計算が狂ったってだけさ。心配するほどの事じゃない。ただ……」
何だろう。
「何か気がかりな事がありますか」
「いや、敵の動きの予測が難しくなったなと思ったんだ。あと出現ペースが上がる分、危険になるかなと感じてさ。
そして早くも今の説明通り、魔物が出現しだしたようだ。今現在いるだろう集団と合流される前に、さっさと叩いておこう」
既に集団を把握済みか。
「どれくらいの集団が、何処にいるんですか」
「ここからだとよく見えないけれど、飽田駅の方向だ。妙なのと合流しなければ、二〇体規模の集団だと思う。でもまずはその前に、近場に出た敵を倒しておこう。ここから一キロくらい先だ」
「わかりました」
俺の察知+が捉えたのと同じ敵だろう。
そう思いつつ俺は飲みかけのペットボトルを収納し、立ち上がる。
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