第一三七話 敵を追って

「車で行きますか、歩きですか」


「歩きの方が安全だろうけれど、車で行こう。現在、ここから離れる方向に移動している。自分で走ると追いつくのに時間がかかりそうだ。ぎりぎりまで車で行きたい」


「わかりました」


 上野台さんが言ったのは、俺が把握しているのと同じ敵だろう。

 ただ念の為、方向を聞いておく。


「駐車場を出てどっちに向かいますか」


「左へ曲がって、あとは真っ直ぐだ。目視出来るか向こうの反応が変わったら停まって降りよう」


 やはり俺の察知+が捉えている敵と同じようだ。


「わかりました」


 新興住宅地の中の幹線道路という雰囲気の、歩道が広くまだ若い街路樹も植えてある二車線道路を西へ。


 緩いカーブを左に曲がり、交差点を過ぎた。地図ではこの先はまっすぐに見えるのだが、下り坂があって敵は見えない。

 敵との距離は八〇〇メートル程。まだ動きに変化はないように感じる。いつでも止まれるように速度を落として、そしてゆっくり坂を下りはじめた時。


 察知+で捉えている敵の動きが変わった。

 俺達とは反対側、遠ざかる方向へと速度を上げたのだ。


 こっちに気づいて逃げようとしているのだろうか。それともまた別の理由なのだろうか。


「追いかけますか」


「追いかけよう。近くには他に敵はいない。目視出来れば、私の魔法は使える」


「わかりました」


 速度を上げる。坂を下り、左右が田や畑になり、そしてその先の線路を高架で渡る。

 跨線橋の上から、道がこの先でやや左に曲がり、そのまま街に入って行くのが見えた。

 そしてその街の手前に見えた、明らかに道路や道路施設ではないものも。


「見えた……倒した。アークゴブリンのレベル十二だ」


 上野台さんの魔法は便利だ。


「あと敵集団の位置もだいたいわかった。やっぱり飽田駅の近くのようだ。西側に向かって進んでいる。西側の工業団地に発生した魔物を支配下に入れようとしているんだろう。先回りして待ち構えよう」


 先回りか。


「発生した魔物の方は大丈夫なんですか」


「ああ。西側にある工業団地から、こっちに向かって移動しているけれど、動きは早くない。だから合流する前に集団の方を叩けるだろう。いつも通り、遠距離射撃で狙う方法で。次の信号を右に行って、国道十三号を左、飽田の市街地方向に向かってくれ。ちょっと面倒な場所なので、適宜ナビする」


「わかりました」


 待ち伏せ出来るなら気が楽だ。

 そう思いつつ、車を走らせる。


 なんというか、郊外、という感じの四車線道路を走っていく。

 郊外というのは、車で行くような大型店が多く、またそこまで背の高い建物が無いという意味だ。


「それにしても魔物って何なんだろうな。さっきの条件を聞いていると、生き物というよりロボットとか、オートマトンとかに近い気がする。規則を決めてその通りに動くなんてさ」


 確かに言われてみれば、そんな感じかもしれない。


「オートマトンって何ですか」


 これは西島さん。


「この場合は自動人形とでも訳せばいいかな。要は有限長のプログラムで記述可能な動作をするもの、という感じで理解してくれれば。本当はもっと厳密な定義があるんだろうけれど」


「生き物じゃないならその方がいいです。その方が、気兼ねなく戦えますから」


「まあ、確かにそうかもしれないな。理解できないなら気にしても無駄、そう考えるよりは人間らしいかもしれない。あ、次の大きな交差点を右」


 言われた通り走りながら思う。俺自身は、上野台さんが言った考え方に近いかもしれないなと。

 理解できないなら、理解しようとするのは無駄。歩み寄ろうと考えても無理だし危険ですらある。

 たとえ対象が魔物では無く人間であっても、きっと。氷山でいきなり銃を撃ってきたあの相手のように。

 

 でも西島さんはそうではないようだ。

 なら西島さんに、かなり無理をさせているのではないだろうか。

 あの男を撃たせた事だけでなく、今までの魔物討伐の全部が。


 あの時は結局、西島さんに撃たせてしまった。

 でも他に何か方法があったかというと、思いつかない。


「次の信号左、一〇〇メートル位で右」


 上野台さんのナビに従って、とにかく車を走らせる。

 普通の二車線道路だった道が急に広くなり、並木が植わっている中央分離帯が現れた。

 片側二車線、広い歩道付きの道路を走って、そして。


「あの信号手前で、ぐるっと右に回って、コンビニに寄せて停めてくれ。敵はあの通りを右側から来る。まだ一キロ以上あるから大丈夫だ」


「わかりました」


 言われた通り、交差点の手前にある中央分離帯の切れ目を通り、反対側にあるコンビニの駐車場へ。

 言われた通り店に寄せて車を停めた。


「少しここで涼んでおこう。もう少し近づいたら出て準備すればいい」


「確かに外、暑いですよね。昨日、攻撃場所まで歩いた時、結構暑かったです」


 西島さんが言う通り、外は暑い。

 上野台さんも頷く。


「今回は涼めるし遠距離攻撃が出来るしいいけれどさ。ただこの後は暑い思いをすることになるかもしれない。集団とさっき言った魔物の他に、この道の先、五キロくらいのところにもそこそこ強い歪みがあるんだ。

 集団ともう一体を倒したら、そっちを回らなきゃならない。それに集団の統率種なり支配種を倒したら、どこかにまた新しい統率種が出る可能性が高いんだ。ざっと計算した感じだと、レベル一四位の敵が一〇体以上は出そうな感じだから。今日だけで」


 レベル十以上の魔物が、一〇体以上か。


「船台にいる時より厳しいですね、それは」


「今の私なら五~六キロ位なら歪みが見える。だから見つける事は出来るけれどさ。街中を走って逃げられたら車で追いかけるのが無理、なんて事もあるかもしれない。暑い中、自分の足で走り回りたくはないんだけれどさ」


 俺の察知+の視界にも反応が入ってきた。

 強さはわからないが、確かに二〇体くらいの……二二体か。


 俺の察知+でも、敵のレベルまではわからない。

 しかしこの場所でこの程度の集団なら、船台の時とそう変わらない筈だ。

 火球魔法にさえ気をつければ、おそらくは大丈夫。


 今は俺にも自動照準魔法があるから、俺もそれなりに狙える筈だ。

 さて、どれくらいの経験値を稼げるだろう。

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