第一三八話 集団と、もう一体

「あと八〇〇メートル。暑いが仕方ない。そろそろ降りて準備しよう」 


 俺達は車を降りる。

 コンビニの敷地端を通って、魔物が来る予定の通りの手前まで。

 魔物が来る予定の道路は二車線で、歩道は無いが路側帯あり。そこそこ程度の幅がある。


「通りに出ても大丈夫だ。五〇〇メートル位先で緩く左にカーブしているから、今の状態では敵からは見えない。ここから敵集団までだいたい八〇〇メートル。あと四分位で撃てる状態になる」 


 俺も敵集団の位置を察知+で把握している。

 敵集団は狙っている交差点に向かって、ゆっくりと近づいてきている。

 そして上野台さんが言っていたもう一体の魔物は、まだ一キロ圏内に入ってきていない。


 まだ少し時間があるから、少し調べ物をしてもいいだろう。


 魔物の出現率が五四・二パーセントなら、まだ出ていないのは四五・八パーセント。飽田市の人口が三〇万とすれば……

 暗算出来ないので、スマホを確認。


『出現率が日本第一ブロック平均と同じで、魔物が人口一〇〇人に一レベル発生すると仮定した場合、レベル一換算で一三七四体の魔物出現分の歪みがある計算となります。これを七日で割ると、一日辺り一九六少々。レベル一四の魔物なら一四体相当分となります。ただしこれは仮定の数値です。実際が正しいかどうかは保証しません』


 飽田でこれくらいの状態になっているなら、他の場所はどうなっているだろう。

 船台のように魔物を倒しきってしまった場所ならいい。しかし全体での歪み消失率は四割くらいだった筈だ。


『歪み消失率 四三・二パーセント』


 ならまだ、魔物の五六・八パーセントは残っている。それが七日間で一斉に出るとなると……

 首都圏あたりは控えめにいって、地獄絵図という気がする。


 飽田くらいの場所に陣取って、近づいてきたり発生したりする魔物を倒していくのが正しいのだろう。

 つまり俺達が意図しなかったけれど今、やっているような。


 それでも夜、寝るときは街からそれなりに離れた場所がいいだろう。

 統率種や支配種以外の魔物は、周辺で一番強いレベルの人または魔物に向かってくるらしいから。

 この辺で一番高いレベルは、おそらくは俺達だろうし。


 そこまで考えたところで、察知+にもう一つ、魔物の反応が入ってきた。

 集団とは反対側、俺達から見て後ろ方向からこちら側に向かって動いている。


 あれがおそらく上野台さんが言っていた、もう一体の魔物だろう。

 集団の魔物に声を聞かれるとまずいから、確認は出来ないけれど。


 前の集団が撃てる範囲に入る方が、後ろの敵がこっちに近づくより早い。だからそっちの魔物は、集団を倒した後に対処するのが正解だ。


 集団の方はあと一〇〇メートル程度で交差点にさしかかる。

 俺はライフルを構えてみる。大丈夫、問題無さそうだ。狙えば当たりそうな感覚がある。


 敵が見えた時点で自動照準の魔法をかけ、あとは撃ちまくればいいだろう。

 撃ちまくると言っても、銃二丁で一〇発までだけれど。


「あと二〇秒くらい。強そうなのは列の真ん中あたりだ」


 上野台さんがささやく位の声でそう告げる。そして。

 出てきた。先頭は黄色、ホブゴブリンだ。でもまだ撃たない。西島さんも、そして上野台さんもまだ魔法を使わない。

 ホブゴブリンの背後にバガブが見えた、そして……


「開始」


 上野台さんの声で、俺は自動照準魔法を起動。

 一瞬早く撃ち始めた西島さんに続いて撃ち始める。

 敵がこっちに向かってこようとするが、こちらの攻撃の方が早くて速い。

 

 どの魔物を誰が狙ってというのは、あえて考えない。

 西島さんと狙った魔物がかぶっても、かまわない。

 結果的に倒せればいい、そのつもりで撃つ。


 五発はあっという間に撃ちつくし、予備の銃に持ち替える。

 バラバラにこっちに向かってこようとするが、五メートルと歩かないうちに銃撃で倒れる。


 俺が予備の銃の弾を撃ち尽くした時には、魔物の反応は残り二体しか残っていなかった。

 それも西島さんの銃撃で、消える。


 俺は次の敵を察知+で確認しながら、弾倉を外して弾を込める。

 大丈夫、集団とは別方向にいる敵の動きは変わっていない。

 むしろこっちに向かう速度を増した気がする。


「次、レベル一二から一四くらいの魔物が、今度は後ろから来る。咲良ちゃん、頼んでいいか」


「大丈夫です」


 西島さんは自動装填の魔法を持っている。だから俺のようにいちいち弾を手動で込めなくていい。


「この後ろ、六〇〇メートル位先を、左から出てくる。あと一分くらい」


「わかりました。少し遠いので、強い方のライフルを使います」


「頼む」


 西島さんに任せておけば大丈夫だろう。

 そう思った俺は、スマホで今回の戦果を確認する。

 ゴブリンリーダー一体、アークゴブリンレベル一体、メイジゴブリン一体、バガブ二体、ホブゴブリン一体の合計六体。


 これだけで一八六も経験値を稼いでいる。

 あと魔物を一~二体倒せば、レベル四二だ。


 ただこの先は、集団ではなく一体ずつを相手にする事になるだろう。

 レベル一四の敵を倒すと、経験値は四二。

 三人で一四体倒したとしても、一人あたりだと四体か五体。つまり経験値は一六八か二一〇。


 レベル四二にはなるけれど、レベル四三には手が届かない。。

 船台にいた頃のようには、レベルは上がらないだろう。


「これが終わったら、すぐ車に乗って移動。北の方に一体いる。こっちに向かっているんだが、遅いから迎え撃ちに行った方がいい」


「わかりました。結構忙しいですね」


「ああ。でも残さないようにしよう。大集団にならないとも限らないからさ。予定が遠くの田舎の宿で正解だった気がするよ。人口が多い町だといつ魔物が出てくるか、わかったものじゃない」


 忙しいといっても、出て一四体程度。一体に一〇分かかるとして、二時間二〇分。

 まあそこまで効率良く回れるとは、俺も思っていないけれど。


「そろそろ出るぞ」


「わかりました」


 黒っぽい魔物が左側から路上に出てきた。

 西島さんはすっとライフルを構えて、二発、連射。

 察知+で感知していた反応が消える。


「レベル一四のメイジバガブでした」

 

「なら次へ行こう」


 俺達は車に向かって歩き出す。

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