六日目 八月二日

第一四章 六日目午前中

第六一話 サービスエリアで熟考中

 いつものように朝、露天風呂でヨーグルトとシリアルという朝食を食べて、朝六時ちょうどに宿を出る。

 雨は降っていない。ただしまだ路面が濡れているし空も曇っている。それでも西の空が明るいのでそのうち晴れるだろう。

 

 山道を滑らないように慎重に走って二〇分。福縞の市街地手前で高速に乗り一気に北上する。


「昨日のバイク、何処まで行ったんでしょうね」


「わからないな。この先のサービスエリアには寄ったかもしれないけれど」


 三〇キロ行かないくらいの場所にサービスエリアがある。

 他にもパーキングエリアが幾つかある。けれどサービスエリアの方が規模が大きい。


 あと俺達は二人乗りだ。トイレその他を考えても三〇分に一回は停まった方が良いだろう。


 道はやっぱり走りやすい。広いしカーブもゆるめだから、車が停まっていても大分前から気づいて避けられる。


 なのであっさりとサービスエリアに到着。サービスエリアそのものはよくある感じの建物だ。結構大きいけれど。


 とりあえず手前の入口前にバイクを停める。なお魔物の警告はないし魔法にも反応はない。


「結構飛ばしましたね」


 西島さんに言われてしまった。確かに九〇キロくらいは出していた気がする。


「出し過ぎたか」


「いえ、気持ちよかったです」


 問題はなかった模様。

 トイレに行く途中、ガソリンスタンドの方を見てみる。セルフと書いてあった。ならここで給油は出来なそうだ。


 タンク内のガソリンでも船台までなら充分持つとは思う。でも途中のパーキングエリアで入れた方が安心だろう。

 菅央パーキングエリアには確かガソリンスタンドがあったよな。セルフでは無いか確認しておこう。


 スマホをポチポチやってガソリンスタンドを確認。菅央の方はセルフでは無さそうだ。


 安心したところで西島さんが女子トイレから出てきた。なので二人でサービスエリアの店内へ。


「これが営業していたら良かったんですけれどね」


 入ってすぐの場所は広いフードコートだ。店もフードコート内だけで4つ、他にテイクアウトの店舗が外や中の売店先に見える。


「確かに。こういう場所で好き放題に注文しておいて皆で食べるのも楽しそうだよな」


「そうですね。でもまあ、売店の食べ放題で我慢することにします」


 もちろん売店に食べ放題なんてメニューはない。俺達が勝手に取るだけだ。


 売店はフードコートの隣で結構広い。しかも看板やレイアウトが凝っていたりする。

 更に普通の売店の先に農産物を専門に売っている売店があったりする。つまりはよりどりみどり。西島さんホイホイ状態。

 

「桃が一押しみたいですけれど、生でも五日目なら大丈夫ですよね、多分」


「傷んでなければ大丈夫だろ。桃なら傷んでるのはすぐわかるし」


「そうですよね。ならまず、生の桃から探してきます」


 西島さんが先にある農産品の方へと姿を消した。どうせ欲しいものが一杯出てしまうだろう。


 なら俺はただ見ているだけ、もしくはここで食べられる程度にしよう。そう思いつつ売店を見ていく。


 西島さんが行ったようにここの一押しは桃のようだ。八月だとちょうどシーズンなのだろうか。生の桃だけではない。加工品というか桃系商品が豊富だ。


 目につくのは三〇センチの物差しよりは絶対長い桃のロールケーキ。ほかには桃の形をして中にも桃が入っている大福とか。


 ももポテトチップスとかももポップコーンとかはどんな味がするのだろう。試してみたい気がする。

 怖い物見たさという奴だろうけれど。どう考えても桃とポテチはあわなそうだし。


 桃以外だと喜他方ラーメンなんてのもある。麺を茹でるくらいなら出来そうだから持っていってもいいかもしれない。他には……


 歩いていると桃ジュースが並んだ棚があった。

 どれどれ、折角だから試してみようか。そう思って棚を見て気づいた。なんと桃の品種別になっている。


 書いてあるPOPを見るとそれなりに味が違うらしい。見ただけでも色が明らかに違う。勿論どれも薄い黄色系統なのだけれど、黄色が濃かったり逆に白っぽかったり。


 どれが美味しいのだろう。わからないまま手前にあった『川中縞白桃』を試してみる。

 うん、甘くて美味しい。いかにも桃という香りも強い。では次、この黄色っぽいのも……


「すみません田谷さん。収納、あとどれくらい余裕がありますか」


 確かにこの売店、充実している。見せ方もけっこう凝っているし。西島さんがはまるのも仕方ない。


「あと五キロくらいか。何なら水ペットボトルを二リットル二本持っているから、それを減らせばもう少し」


「うーん、でも水はいざという時あった方がいいですよね。なら……」


 どれどれ。西島さんが持っていたカゴの中を見てみる。


「生の桃はやめたんだ」


「いえ、優先して収納しました。品種毎に厳選して六個ほど。あと桃ロールは一本で我慢しました」


 それだけで当分は食べられそうな気がする。

 

「あと冷凍の桃どらを解凍してお風呂で食べると美味しそうですし、このももふくという大福も賞味期限は大丈夫です。

 ももジュースも品種別に二本ずつは欲しいですよね。あといかにもというお土産ですけれど、このバターサンドも捨てがたかったんです。

 あと県別のコーヒードリップパックなんてのもあって……」


 うん、いくら収納があっても足りなそうだ。

 ならここで申し訳無いけれど悲しいお知らせをひとつ。


「ここのガソリンスタンドはセルフだったからさ。次の次のパーキングエリアでガソリンを入れるつもりだ。

 サービスエリアではないけれど、そこもそこそこ売店が充実しているらしい。だからここで目一杯にすると……」


「わかりました。厳選します。それで持って行けない分はここで食べていきます」


 西島さんが熟考に入った。結構かかりそうだ。

 ならとりあえずもう一本、桃ジュースを貰ってこよう。次はどの品種がいいかな。

 

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