第六二話 新たな魔物

 その後予定通り菅郷パーキングエリアにも寄った。

 やっぱりそこでも西島さんが悩みに悩んだ結果、

  〇 ガーリックやブラックペッパー等のありそうな味の他、船台いちごとかバニラとかブルーベリーなんてフレーバーもあるクリームチーズを一通り

  〇 契約農家で育てた山ぶどうを一年間熟成させて作られたジュース

を確保。


 ついでに毎朝のレポートを確認。特に変わったところはないので読み飛ばす。

 無事ガソリンを入れて、そして船台へ。


「サービスエリアとかパーキングエリアって、誘惑が多いですよね。本当はずんだロールやたまごカステラも欲しかったです。荻の月は船台で買えるだろうと思うんですけれど」


 確かにおいしそうだったなとは思う。ただ西島さんが誘惑に弱すぎるというのも事実だ。楽しそうだから言わないけれど。


 そして菅郷パーキングエリアからすぐの船台南で高速を下りて、一般道を永町方向へと向かう。


「車が多いですね」


 西島さんが言うとおり車が多い。交差点等ではどっちに避けようか考えないといけない位だ。

 

「やっぱりそれだけ大きな街なんだろうな、船台は」


「そう感じますよね。まだ南の端の筈なのに」


 牛丼屋やホームセンターなんかもあって、いかにも郊外の幹線道路という感じだ。そう思ったところで。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 スマホからお約束の警告音。俺の頭の中にも魔物の位置情報が入る。

 ブレーキをかけスクーターを停める。これは!


「速い。西島さん狙えたら頼む。近づいたら俺がやるから」


「わかりました」


 西島さんがライフルを構えて撃つ。一発、そしてその後続けて二発。

 三発目で動きが止まった。道路の白線点線四本目、八〇メートル先に黒いのが倒れている。


「今までになく速かったです。一発目は避けられました。二発目で足に当たったおかげで何とか仕留められましたけれど。

 距離があってよかったです」


「ホブゴブリンとは違ったよな。何だろう、今の魔物は」


 ホブゴブリンなら黄色いが今回のは黒く見えた。大きさは同じ位だけれど。

 西島さんのスマホを見てみる。


『バガブを倒しました。経験値一八を獲得』


「バガブって何でしょう?」


 俺も知らない。そう思ったらスマホの表示が変わった。


『バガブはホブゴブリンよりも更にレベルが高い、ゴブリンの上位種です。レベル六から九程度で動きは素早く、ある程度の知能も持っています。ただし身体はそれほど頑丈ではありません。また基本的には他の魔物と共存する事はありません』


 更には外見も表示される。全体に黒い毛が生えたゴブリンといった姿だ。


「今日は最初からレベルが六の魔物も出るんですよね」


「ああ。今までのと比べると動きが全然違った」


「注意した方がいいかもしれません。あと今のバガブって、聞いたことがないんですけれど有名な魔物なんでしょうか。ゴブリンはゲームなんかで出てくるので知っていますけれど」


「俺も聞いたことがないな」


 スマホの画面を見てみる。案の定説明が表示された。


『ゴブリンの一種で、全身毛むくじゃらの人の姿をしているという。ウェールズ地方に伝わる妖精の一種。一般にはバグベアと呼ばれることが多いが、バグ(虫)ともベア(熊)とも関係ないので誤解の無いようバガブという表記を採用した』


「バグベアーは聞いたことがあります。でも熊の魔物じゃなかったんですね」


「俺もそう思っていた」


 バグって魔物化した熊くらいのイメージだった。ゴブリンの一種だったとは。

 ただこの表示にはもっと気になった部分がある。


「あと表記を採用ってあたりにちょっとひっかかりました。まるでゲームについてメーカーに問い合わせた時の回答みたいで」


 確かに。俺もそこがちょっと気になったのだ。気になってもどうしようもないのはわかっているけれど。


「ゴブリンとかバグベアーとかそういった民間伝承的な知識もあって、そのうえバグベアーだと熊と混同するかもしれないなんてことまで気付く。

 その上私達ひとりひとりの思考を読み取って即した返答を考えて、スマホなんて電子機器に表示させることが出来る。どういう存在なんでしょうか」


 そう言われてもな。


「俺には答えようがないな。何せ世界を複製したり一人一人の思考に返答したり出来るような存在だ。一個の存在なのか複数の存在なのかもわからない」


 そこである事を思い出した。


「ただ万能の存在ではないらしい。西島さんが病室に一人取り残された状態の時、スマホからこんなメッセージが出たから。再配置は出来ないから救援要請を出したって」


「時間の流れとか因果関係とか熱力学第二法則に拘束されるタイプなんでしょうか」


 意味は多分全部同じだろう。つまり。


「起こった事は戻せないか。そうかもしれないし、何か規則に縛られているのかもしれないし。

 本人というかそっちサイドが回答してくれないとわからないだろうけれどさ。それに俺達人間レベルで理解できるかもわからないし」


 ちらっとスマホ画面を見てみる。やっぱり返答はない。


「どんなタイプにしろ、私にとっては再配置されなくて良かったです。今が一番楽しいですから」


 そう来たかと思う。

 しかし考えてみれば俺も同じかもしれない。少なくとも西島さんといる今は楽しい。魔物が出てくる危険な世界だけれど。

 なら恥ずかしいけれど、俺も言ってしまおう。


「俺もかな」

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