第一〇七話 当座の方針

「日本のこのブロックにはまだ一〇〇人程いる筈だけれどね、今日死んでいなければ。

 そのうちの何人がこの挑発に乗って、何人が騙されるんだろうね。案外騙すつもりはないのかもしれないけれどさ」


 挑発に乗る、か。

 同じように異種支配魔法等を使って、軍団の長になろうとする事だろう。


「上野台さんはどうして、このWebページを信用できないと判断したんですか。私も信用する気が起きないですけれど、参考までに聞いておきたいです」


 西島さんの言葉になるほどと思う。

 俺はこのWebページを読んで、直感的に信用できないと判断してしまった。

 それが何故か、深く考えていない事に気が付いた感じだ。


「自分の数少ない経験則からの類推さ。はっきりとわからない事象をこうだと言い切れる奴に、本物はいないってね。

 いい加減なWebメディアとかTVとかのコメントなんかと同じさ。専門家ははっきりした事を言えないのに、専門でも何でもないコメンテーターとかははっきり“こうです”と断言したりするんだ。

 そういう事例をこれでもかという位見ているとさ。自分の意見こそ正しいという奴の言葉を信じられなくなる。経験に基づいた偏見とでもいうべきかな」


 自分自身の考えさえ“偏見”と言える辺りが、上野台さんらしさなんだろうなと感じる。


「そうやって私の偏見でまず、『こいつは怪しい』と決めつけた後、ついでにその論拠を探してみたりもするわけだ。あらさがしという奴だな。

 そうするとこのWebページのあちこちに、あらというか、考察が行き届いていない点が出てくるわけだ。イメージ的な事ばかり書いてあって具体的な方法論とか作戦は何一つ書いていないとかさ」


 そういえば……

 気になった事を俺はスマホ画面で確認する。

 俺の疑問を先回りした答が出ていた。


『レベル三五の魔力は一三〇前後です。ただし魔法収納アイテムボックスや探知等の魔法が使用可能な場合、これらの魔法分、魔力が差し引かれます。

 レベル三五で魔力は一三〇と仮定した場合、レベル七の魔物の支配に使用した場合、三〇三名の支配が可能となります』


 思ったより多かった。

 勿論これは全力で魔法を使った場合の数値だ。

 実際はある程度の魔力を残すだろうから、二五〇程度くらいだろう。


 しかし、例えば三〇体位の集団を作って、魔物倒しの旅に出したなら……

 まだ魔物は単体でいる場合の方が多い。

 だから集団で向かえば、それなりの数を倒す事が出来るだろう。


「こういう作戦はどうですか。支配した魔物三〇体程度を一チームにして、合同で魔物を倒す事を命令して、旅に出したら」


「……方法論としては悪くないな。配下の魔物が死んでもレベルが下がる事はない。しかし配下の魔物が他の魔物や人間を倒せば経験値が得られる。

 ただ試すのはやめた方がいいと思う。この手の魔法を使いはじめると、周辺に配下に出来る魔物が出現しやすくなる可能性がある。魔物の統率種の場合と同じでさ。

 そういう規則ルールは開示されていない。しかしスマホを見る限り否定もされていない。

 そしてレベル57まで行ったが死んだ奴の事が書かれていただろ、今朝の情報でさ。それはそういう規則ルールが存在するという事を暗に示したんじゃないかな」


 今朝の情報がそう繋がる訳か。


「確かにありそうな話ですね」


「そゆこと。この世界の規則ルールはまだ解明されきっていないし、何なら向こうさんの都合で変更だって可能。その事を忘れちゃいけない。となると堅実な方法論以外を取れなくなる訳だ。まあ私の知識と思考の範囲で得られる解の範囲では、だけれども」


 なるほど。

 

「別の解がある事を否定しないんですね」


「私は自分が全知だなんて思ってはいないし、解法が正しいなんて自信もないからね。そう盲信したとたんさっき話した駄目駄目な連中と同じレベルになっちまう。

 それに統率種や支配種の魔物が動き回る事だって、悪い事じゃない。魔物が分散しすぎて倒しきれないなんて事態を防げるから、むしろありがたい位なんだ。

 だから私達は軽挙妄動しない事。淡々とレベルを上げて、船台に来る魔物を倒してレベルを上げる事。

 それこそ倒しきれない位のレベルと数の魔物が押してこない限り、今はそれでいい筈だと、少なくとも今の私はそう思うけれどどうかな」


 上野台さん、やはり西島さんが他種支配魔法を使えるようになった事に気づいているのかもしれない。

 あるいは俺や西島さんがそういった魔法を使えるようになるかもしれない、そう考えた上の注意か。


「確かにそうですね」

 

 西島さんも頷いている。


「そういう事。あとは船台に近づいてくる魔物の接近がわかるような手段が欲しいところかな。そういう魔法が手に入ればいいけれど、そうもいかないかもしれないしさ。主要な道路にWebカメラを仕掛けるとか、明日以降少しは考えようかなと思っている」


 なるほど。


「Webカメラですか」


「そういう事。動きがあったらメールをするなんて機能のものもあるから、そう難しくはないと思うんだ。あとでシンヤが来たら相談するけれどさ」


 確かに魔法が使えなくても、そういった物を仕掛ける事は出来る。

 近くの家や店等から電源を取れば、そう難しい事はないだろう。

 ネットワークへの接続も、スマホとかを使えば難しくはない。

 この世界独自の魔法やスキルにばかり頭が行っていて、そういう方向への考えは思い浮かばなかった。


「なら、何処に仕掛けるか考えた後、明日は電器屋かホームセンター巡りですね」


「出来ればね。全ての道に仕掛ける事は出来ないけれど、主要国道だけでも監視出来ればそこそこ安心出来るんじゃないかな。

 以上、取り敢えず話は終わり」


「それじゃ上がりますか」


 話が終わったのなら上がりたいところだ。

 この場は煩悩が多すぎる。


「まだ入ったばかりだろ。あと三〇分位はのんびりしようじゃないか」


「そうですよ。折角の温泉なんですから、ゆっくり入りましょう」


「何なら露天風呂行こうか。風呂に入っていれば雨でも風でも問題無いだろ。咲良ちゃんの魔法もあるし」


「そうですね」


 いきなり立ち上がるな、なんてのは理由が言えないから言わない。


「田谷さんも行きましょう」


「はいはい」


 抵抗しても無駄だから、仕方なくついていく。 

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