第一一九話 冷食確保中

 車を確保した後、交差点を挟んで斜め向かい少し先くらいの場所にあるホームセンターへ。


「クーラーボックスを確保する前に、シートを動かしてどれだけ入るか確認しておこう」


「そうですね。できる限り目一杯積みたいですから」


 そこまでしなくても、田舎だって大きい町ならスーパーくらいあるだろう。

 そうは思うのだけれど、何故か2人は真剣だ。


 まず3列目のシートは、畳んで床下に収納。

 更に2列目シートのうち、使わない左側は思い切り前に寄せて背もたれを立たせる。


「これでそれなりに大きい荷物も入りますね」


「だな。あとこのシートにも小さいのは載るんじゃないか」


 そこまで準備してホームセンターへ。

 六〇リットルちょい入るというクーラーボックスを五つと、少し小さい五〇リットルのクーラーボックスを1個確保。


「うんうん、積み重ねればもう少し入るけれど、そうすると出し入れが面倒になるからこの辺で」


「そうですね。このくらいで妥協します」


 そして今度は昨日初めて行った方の冷凍食品店へと向かう。


 魔物はなかなか出てこない。

 永町の駅前という、それなりに栄えている場所を通っているのに。


「やっぱりもう、魔物は減る一方って感じだね。少なくとも船台では。昨日通った道だからってのもあるだろうけれどさ」


 確かに上野台さんの言うとおりだ。

 この道は昨日通っているし、その時に魔物を数匹倒している。

 それでも以前は、翌朝にはある程度魔物が復活していたと思うのだ。


「まだ35日中13日目ですけれど、最初からこのペースで魔物を出してしまう予定だったのでしょうか」


 俺は疑問に感じていることを、口に出して聞いてみる。


「わからない。ここまで色々考えてみたけれどさ。わかっていない事が多すぎる。他も船台と同じようなペースで魔物が出ているのか、戦闘等で数が減ると増やすというシステムなのか。

 山型とか石薪、多崎では魔物が集団を作って動いていた。だからその辺は船台と同じペースで魔物が出ていたんだろう。この前のお知らせでもそんな感じで示唆している」


 確かにその通りだ。


「でも、毎日のレポートではまだ半分も魔物が出現していないことになっている。ここ二~三日は少し出現率が増えたけれどさ。

 それにルール変更も往々にしてありそうだ。さしあたっては明後日朝、十四日終了後の発表に注目ってところだ。

 つまり、何もわからないと思った方が今は正しい。出来ることとしては取り敢えず安全に注意しつつ、今を楽しむ位しかないんじゃないか」

 

「今を楽しむですか」


 予想外の言葉が出てきたので、聞き返してみる。


「そう。折角こんな非日常に来たんだからさ。楽しめるところは楽しんでおかないと。旅行と温泉、食道楽というのはそういう意味で正しいと思うよ」


 うーむ。少なくとも温泉は俺があまり楽しめないのだけれど。

 いや、温泉自体の良さは何となくわかってきたのだ。

 ただ精神的に落ち着けない邪魔が入るだけで。


 でも確かに、俺も楽しんでいない訳ではないと思う。

 少なくとも元の世界の毎日よりは楽しいと感じるから。

 

 となるとこの世界が元に戻らない方が、俺にとってはいいのだろうか。

 確かにその通りだとは思うけれど、そうはいかないだろう。

 電気やガス、ガソリンだってそう長く持ち続けるとは思わない。

 冷凍食品だって、あまり長い事置いたら食べられなくなる。


 この世界は一ヶ月ちょっとだけしか持続しない。

 だから今の生活が成り立っているのだ。


 つまりあと二十日ちょっとで、元に戻る訳か。

 そう思うと若干ブルーにならないでもない。


 自動車を乗り換えてから魔物が出ないまま、昨日開拓した冷凍食品店に到着。


「ここはクーラーボックス2個に入る分だけにしておけよ。向こうの冷凍食品店もあるし、野菜類はどっちにしろスーパーの冷凍食品コーナーに頼る必要があるしさ」


「ええ。それにサービスエリアなんかのお土産も確保したいですから」


 クーラーボックス2個を魔法収納アイテムボックスに収納して、店内へ。


「とりあえず冷凍パンは取れるだけ取っておきたいですよね。冷凍ピザはスーパーにありますけれど、パンは此処と次に行く冷凍食品店くらいでしか見ていませんから」


「高級惣菜類はどうする? 刺身とか焼き鳥とかプレミアムなビーフシチューとか」


「うーん、難しいですね。ならお互いクーラーボックス1個ずつ、自由に選ぶというのはどうでしょう。こっちは私が選んだもの、そっちは上野台さんが選んだものを入れるという事で」


「それはいいけれど、田谷君の分は?」


「俺はいいです」


 2人とも楽しそうなので割り込む気がしないし、正直面倒だ。


「田谷さんが欲しいものがあるなら、私か上野台さんに行って下さい。最優先で入れますから」


 別にいいのだけれど、断るのも何だろう。


「わかった」


 とりあえずそう返事をしておく。


 ◇◇◇


 冷凍食品店二箇所だけで、二時間近くかかった。

 もちろん移動時間と、途中で倒した三匹の魔物の討伐時間を含めてだけれど。

 なので二軒目の冷凍食品店で、今日のレポートが出る時間となる。


『十二日経過時点における日本国第1ブロックのレポート

 多重化措置後十二/三五経過

 ブロック内魔物出現数累計:一七万一一九体 

 うち二十四時間以内の出現数:一四九一体  

 魔物消去数累計:三万二六三三体

 うち二十四時間以内の消去数:一五〇八体


 開始時人口:一一九人

 現在の人口:九五人

 直近二十四時間以内の死者数:一人

  うち魔物によるもの:〇人

 累計死者数:二六人

  うち魔物によるもの:一八人』


 現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:三六・五 

 人間の最高レベル:レベル四七

 人間の最低レベル:六

 魔物の平均レベル:五・二 

 魔物の最高レベル:三八 

 魔物の最低レベル:一 

 なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大十三となります。ご注意下さい』


 本ブロックにおける魔物出現率:四三・八パーセント

 歪み消失率 三八・六パーセント』


 ここ二~三日、魔物出現率と歪み消失率が上がってきている。

 これは魔物が集団移動しはじめた影響だろうか。

 それとも何か他に要因があるのだろうか。

 シンヤさんが語った特典のように、知られていない規則ルールが。

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