一三日目 八月九日

第二六章 再びの旅立ち

第一一八話 出発準備

 朝。朝食を食べた後、まずはシンヤさんを見送る。


「毎日、何時でもいいから連絡は忘れずに頼むね」


「わかった。必ず連絡をいれる。それじゃ、また」


 走り去ったシンヤさんを見送りつつ、ふと思った。

 三輪スクーターは便利で楽だけれど、シンヤさんには大型バイクの方が絵的には似合うなと。


「さて、それじゃこっちも出よう。まずは予定通り、自動車ディーラに行って、試乗車をいただくのからでいいかい」


「はい」


「ええ」


 昨日あの後、今後の計画を考え直した結果。


「やっぱり東京方面ではなくて、東北を回る形でいいと思います。これでもそれなりに経験値は稼げると思いますし、東京方面へ行くよりは安全だと思いますから」


「あとは旅行、楽しみだよな。あちこち行くだけでもさ。店とか買い物とか食事とかは無理だけれど、名所見学なら今でも全然問題無い。それに食べ物系の名物だって、冷凍や長期保存が利く物が結構あるだろ」


「そうなんですよ。移動するとサービスエリアのお土産とか、欲しい物が増えていくんです。ああいったお土産は日持ちがするものが多いので、今でも充分食べられます。魔法収納アイテムボックスでは絶対足りなくなるので、それを積むためにもクーラーボックスを幾つか確保しておきたいです」


 物欲というか食欲まみれだ。ただそれも悪くはないと思う。それはそれで楽しさである事は間違いないから。


「なら車は広い方がいいな。雨が降った時とかを考えると、やっぱり室内が高さも横も広いミニバンだよな」


「それに少し大きさがあった方が快適ですよね」


「なら明日は適当な車を確保して、ホームセンターで大きいクーラーボックスを幾つか入手して、冷凍食品を積んでおこう」


 条件に当てはまりそうな車を試乗車としておいているディーラーをネットで検索。

 ミニバンのハイブリッド車、前席から後席へも車内で移動可能という便利な車が比較的近くにあったので、まずはそこへ。


 その後近くのホームセンターへ行って、クーラーボックスを購入。

 そして冷凍食品店二軒を回って、スーパー等にはない、あるいはここで手に入れておきたいものを確保。


 これで準備完了という事で北へ向けて出発、というのが今日午前中の予定だ。


 そして北方向の、取り敢えずの目的地はこんな感じ。


「とりあえず宙尊寺は観光しておきたいです」


「お約束だよな、それは。なら宿は壱ノ関か、さらにその先まで行くか」


「幾つか候補は考えてあります。あと道を考えると成子温泉は残念ながらパスで、北上して森岡の魔物を倒した後、高速で北神まで戻って、飽田道を使って日本海側に出ようと思っています。そうすればサービスエリアも幾つかありますから」


「いいなあ、サービスエリア。私自身は車を運転できないからさ。結構憧れているんだ」


 今日は宙尊寺を観光出来るか程度だろうと僕は思っている。

 宿については全く考えていない。

 どうせ西島さん、もう適当な宿を考えているだろうし。


 という事で、まずはいつもと同様、最寄りの高速に乗る。そしてJCTを左に行って、永町へ。


「魔物が減ったなあ。気配が薄い。300m先、左方向かな。めんどうだから車はそのままゆっくり走ってくれ。今回は私の番だから止まる必要はない」

 

「見える範囲なんですか」


「多分この道路に向かう道路上だ。一瞬でも見えれば大丈夫からさ」


 言われた通りまっすぐ、でも心持ちゆっくりの時速三〇キロくらいで走る。

 そろそろだろうか、そう思ったところで上野台さんの声がした。


「倒した。ホブゴブリンのレベル五。やっぱりレベルが下がっているな、此処でも」


 俺が気づかないうちに倒してしまったようだ。


「次のインターチェンジ状の交差点も、その先続いている信号も無視してまっすぐ、わかりやすい大きい道を右に曲がるけれど、一〇〇メートル位手前で教えるから気にしなくていい。魔物もいまのところ進路上近くにはいないと思う」


 なるほど。


「上野台さん、大分遠くの魔物の位置がわかるようになったんですね」


「まあね。歪みの見方に慣れた、という方が正しいかな。見えた歪みを解釈して、どのくらいの位置でどのくらいの強さというのが判断出来るようになった感じだ。もう少し前に使えるようになっていたら、街中でも無双出来た気がするけれどさ。まあ便利だから文句はいわないけれど。

 次、信号の間隔がちょっと開くから、その先の大きい交差点を左」


 上野台さんのナビは正確だしわかりやすい。なので言われるがままに運転して、永町駅の東側近くに出る。

 そしてそのまま、魔物に出会わずにディーラー到着。お客様用駐車場に頭から突っ込んで停めた後、店の中へ。


 鍵は自動ドアで閉まっているけれど、作動魔法でロックを外せば手で開けられる。


「やっぱりその魔法、便利だよな。普通の店はだいたい開いていないものなあ」


 確かに便利だ。


「こうやって入れるようになる前は、屋上から入ったり、二階の窓を開けて入ったりしましたよね」


「そんな事もあったな」


 そして目的の車の鍵探し。こういうのは上野台さんが得意だ。


「多分このわざとらしいキーボックスだと思う」


 事務所に入ってすぐに見つける。


「よくわかりますね」


 俺が事務室内をさっと見回した程度の時間だ。


「パターンがあるんだ。偉いのの目が届く場所で、かつそこそこ利便性がある場所って感じでさ」


 キーボックスを開けると上野台さんの予想通り、自動車の鍵が大量に並んでいた。

 ラベルプリンタでナンバーとか種類とかを書いてあるので、見れば目的の車がわかる。


「これで素直に出せる場所にあればいいけれどな」


 上野台さんは目的の鍵をキープ。そして3人で車を探しに事務所の外へ。


「あの車ですか」


「ナンバーもあっているな」


 裏の整備場へ向かう通路に並んでいた先頭が目的の車だった。

 鍵のボタンを押すと扉のロックが開く音がする。

 間違いない。

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