第五〇話 狙撃

「とりあえずコンビニに入ろう。中なら安全だろう。それに冷房も効いている。

 奴の居場所は俺の魔法でわかるから」


「わかりました」


 コンビニの中に入りイートインスペースに陣取って、スマホで現在地の地図を出す。勿論敵の居場所を確認する為だ。

 俺の魔法と付き合わせて居場所が判明。このコンビニの後ろ側にあるホテルの、おそらくは五階の一番西北側の窓。


「敵の位置は動いていないですね」


「ああ」


 魔法で継続的に確認が取れている。そして察知の魔法で確認出来ているという事は、危険な存在のままだという事だ。


「なら敵の予想外の位置から狙えば倒せる可能性が高いです。このビルの上の階がいいでしょう。確かこのコンビニの横に入口がありましたよね」


 西島さんはそう言って立ち上がる。


「倒すのか」


「ええ。このままでは身動きが取れませんし危険ですから」


 そのままコンビニを出て右、壁ぎりぎりを歩いて。


「ありました。鍵が開いていればいいんですけれど」


 小声で言って扉を引っ張る。ガチャ。小さく音が聞こえた。鍵が閉まっているようだ。


「田谷さんすみません。岩鬼の拳銃店で使った方法でガラスのこの辺に手が通る穴を開けて下さい。多分内側に手を回せれば鍵を開けられます」


 扉は枠が金属で他はガラス製だ。


「ガラスで手を切らないか」


「熱で穴を開ければ大丈夫だと思います」


 西島さん、いつになくやる気だ。何かいつもと違う。


「何なら止まっている車か何かで此処を離れれば大丈夫じゃないか。バイクはまた別の場所で手に入れれば」


「いえ、あんなのを生かしておいたら危険です。ここで絶対始末するべきです。

 ここは事務所のようなので、個人宅の入口を壊すよりは心が痛まないで済みます」


 理由はプライバシーの問題という奴だろうか。いずれにせよ殺る気満々だ。

 一体奴は何を言ったのだろう。まあいきなり銃で撃ってくる辺り危険なのは間違いないけれど。


 アイテムボックスから包丁を出す。銃砲店で鍵を壊すのに使った刺身包丁だ。鍵を壊す際に炎纏をかけて使ったため、刃物としては使えなくなっている。だからこういう場合用だ。


 炎纏を起動。鍵の横の位置のガラスを熱で溶かしつつ丸く切る。音も無く切れて、解けた部分が下方向に垂れ下がった。


「これで大丈夫だと思います。温度が下がったら手を入れてみます」


 そう言って西島さんは腕に装着したスマホを見る。


「ひょっとして温度が表示されたりする?」


「期待したんですけれど、流石にそこまでのサービスは無いみたいです」


 切り口に手を近づけてみる。触れない状態では熱さは特に感じない。

 さっきとは別のナイフを取り出して背の部分を溶けたガラス部分に一秒くらいくっつけてみる。ガラスは既に固化している。押しつけても動かない。


 ガラスに触れさせたナイフの背を手でナイフを触ってみる。特に熱いとは感じない。


 今度はいつでも手を引っ込められるよう意識しつつ、ガラスの溶けた面そのものに触れてみる。熱くない。ある程度触れても問題ない程度。


 念の為穴になっている部分全体を確認してみた。大丈夫、火傷の心配は無さそうだ。手を突っ込んで鍵のノブを探す。発見。動かすことが出来た。


 手を抜いて扉を静かに引く。ゆっくりと開いた。


「まだ敵は動いていませんよね」


「ああ、動いていない」


「もし動いたら言って下さい。さて、それではまず三階を目指します」


 入ってすぐの所の階段から三階へ。さらに廊下を通って事務所のような場所に入る。窓ガラスはほぼ全部カーテンが閉まっていて外は見えない。


 西島さんは部屋に入った場所でスマホを操作する。出したのは地図だ。先程俺が敵の居場所を確認したのと同じようにこの場所付近を拡大する。


「田谷さんすみません。敵の位置はこの地図でどの辺かわかりますか?」


 魔法で見えている位置と方向、角度を確認。


「この辺。高さ的にはこっち方向」


 地図の他、実際の方向を指で示して教える。


「わかりました」


「カーテンを開けるとバレると思うぞ」


「大丈夫です。カーテンは開けません」


 西島さんはそう言うと事務室の中へ。


 西島さんは敵がいるのと反対側の窓際へ。俺も後をついていく。

 西島さんは部屋の右前方向、先程撃たれた交差点に近い方へ行って立ち止まって銃を出した。ライフル銃、自動の方だ。


「思った通りです。直接見えなくても、撃って当たるかどうかはわかります」


 えっ!

 俺が何か言う間も無く引き金を引いた。銃声、ガラスが割れる音、そして更に銃声。

 銃声は二回とも西島さんのライフルからだ。


 西島さんは左腕のスマホを確認して、僕の方を見た。


「倒したようです。経験値二七だからレベル九ですね。大した敵ではなかったみたいです」


 確かに敵の反応が無い。先程まで確かにあったのだけれど。


 西島さんに人を撃たせてしまった。まさか窓もカーテンも閉まったまま撃つとは思わなかった。


 ただもし西島さんが撃つとわかっても止められただろうか。無理だっただろうと思う。

 それでもやっぱり考えてしまう。西島さんに人を撃たせてしまったこと、そしておそらく相手は死んでいるだろうことに。


「念のため現場を確認しでおきましょう。被害者とかがいると嫌ですから」


 死体確認をするのか。正直気がすすまない。

 しかし西島さんがそこまで言うのだ。何らかの理由があるのだろう。


 何かそこまでの事を言っていたのだろうか、奴は。俺には当然奴の独り言なんて聞こえなかった。


 今のところ奴について俺がわかっている事は、隣のホテルから俺達を銃撃した事、レベルが九だった事。

 あとは奴が発した何らかの言葉が西島さんの逆鱗に触れた事くらいだ。


「危険の反応はありませんね」


「ああ。今は感じない」


「なら大丈夫でしょう。もし危険を感じたらすぐ教えて下さい」


「わかった。でも念の為俺が先に行く」


 拳銃を取り出して右手に持つ。そのまま部屋を出た元来たルートを通り、コンビニ前を通り、更に先へ行って歩道経由で隣に立つホテルへ。

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