第一一章 魔物と人と
第四九話 魔物ではない敵
サービスエリアから氷山東インターまでは割とすぐ。ETCではないレーンを通って出る。案外あっさり出る事が出来て一安心。
この辺はまだ周囲が森だ。だから魔物は少ないだろう。そう思いつつもゆっくり目を意識してスクーターを走らせる。
先程まで高速道路を通って目が速い運転に慣れてしまっている。だから意識して速度を落として。
道はなかなかいい。両側合わせて二車線だが広めに出来ている。止まっている車も少なく中央寄りを走れば全然問題ない。むしろ速度を出さないよう抑える位だ。
広い道を走って森を抜け、田んぼ地帯を越え、橋を渡った後から道は普通の太さになった。工場や倉庫といった建物がそこそこに建っている。魔物の反応はまだ無い。
ただ交差点では何台も止まっている車の脇を抜けるようなシーンも出てきた。そろそろかなという気がする。
道がかくんと右折して、四車線道路になって、新幹線っぽい高架を下にくぐって上がったところで。
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
スマホから魔物警告が鳴った。ようやくだ。スクーターを止めて。今度は槍ではなくライフル銃を取り出す。ドットサイトのスイッチを入れて、構える前に周囲を確認。
今いるのは四車線道路の中央付近。周囲は隙間が多い住宅地といった雰囲気。魔物の反応は……前方、結構遠い。家々の陰でまだ目では見えない場所だ。
出てきそうな場所を確認しつつ銃を構える。肩と頬にしっかりつけるのがポイントだったかな。一応スマホでやりかたを見ながら何度も練習はしたのだ。撃つのは試射以来で実戦は初めてだけれど。
出てきた。ホブゴブリンだ。まっすぐこちらに向かってくる。距離は概ね五〇メートルといったところか。狙いをつけ引き金を絞るように指に力を入れる。構えていたよりは軽い音と反動。
魔法で感じていた反応が消える。当たったようだ。銃を収納しようとして、弾を入れなければと思い出す。
「何というかこの銃、この距離でも当たるな」
「もっと遠くても平気だと思います。これに比べると拳銃は近距離専用という感じです」
確かにそうだなと思う。この距離でもあっさりという感じだった。
弾を弾倉に一発追加して、弾倉をはめて、そして収納。そしてスマホを確認。
『ホブゴブリン(レベル四)を倒しました。経験値一二を獲得』
今のはレベル四だったようだ。特に違いはわからなかったけれど。
「それじゃ行こうか。街をぐるっと回るのと、駅方向へ行ってみるの、どっちにする?」
「とりあえず周回コースで。いきなり強烈な魔物がいっぱい、となると怖いですから」
確かにそれが堅実だ。
「わかった」
スクーターに乗って直進方向。この道はこのまま内環状線となって街を回るようだから、とりあえずまっすぐで。
◇◇◇
「思ったより出ないですね。魔物のレベルが上がっているせいでしょうか」
確かに出てこない。一キロ走って一体出てくるというペースだ。
「多分そうだろう」
魔物が出現するにはレベルに応じたコストが必要になるような気がする。レベル三はレベル一の三倍コストが必要だというように。
そしてスマホ情報によると、魔物は基本的には共存しない。出遭った場合は基本的に殺し合う。高位の魔物が低位の魔物を従える時以外は。
結果、高レベルの魔物が少なめに出現するという事になるのだろう。
今は氷山に来て四体目のホブゴブリンを西島さんが拳銃で倒し、弾を込めているところだ。場所としては氷山駅の西側二キロくらいにある交差点内。そこそこ広いが立ち止まっている車も多い。
「両方がレベル一二になったら何処かで昼食にしようか」
「そうですね」
そう話してヘルメットを被ろうとしたところだった。
!!!!! 何かを感じた。それが危険信号だと感じる前に身体が動く。西島さんを抱えて道路左側、コンビニの方へダッシュ。
コンビニに近づいたところで危険という感覚は止まった。だが念の為コンビニに近づいてから西島さんを下ろす。
「いきなりごめん。大丈夫か」
後ろの西島さんに声をかける。
「今のは私達と同じようなライフルか、それに似た飛び道具ですね。弾は見えませんけれど」
えっ!?
「わかるのか」
「発射音が聞こえました。弾が外れて路面に跳ね返った音も。
まだ狙っていると思います……独り言が聞こえました。間違いなく田谷さんを狙ったようです。場所はこのコンビニの向こう側、結構上の方です……」
人で、そしていきなり狙ってきた訳か。
俺は西島さんの言葉を意識して危険を感じようと試みる。コンビニの向こう側、かなり上方向に何かを感じた。距離もわかる。
「ここから三〇メートルくらい、方向はこっち。高さは一七メートル位上だ。動いていない」
「動いていないのを魔法で確認出来ますか」
「ああ」
しかしいきなりライフルで狙ってきたのか。何というか、人間不信になりそうだ。いや、今更人間不信という事はないか。元々割と人間不信ではあった気がするから。少なくとも俺は。
「……何というか、最低の理由です。これなら排除しても心は痛まないで済みます」
西島さんはそうきっぱり言う。
西島さんの聴覚はかなり遠いところの小さい物音まで聞き取れる。きっと俺達を狙った奴の下らない独り言が聞こえたのだろう。
排除しても心は痛まないか。西島さんにそう言わせるとは、一体奴は何を言ったのだろう。聞きたいが聞いていいかどうかわからない。聞く事で西島さんを傷つける可能性があるから。
「始末をつけましょう。そうしないとこの場所から動く事すら出来ません」
やはり西島さん、相手を倒す気だ。間違いなく西島さんの逆鱗に触れた何かがあったのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます