第四八話 サービスエリア

 岩鬼から氷山まで、高速を経由して約一〇〇キロ。所々に車が止まっているし二人乗りだから時速六〇キロ以上は出したくない。そうなると計算では一時間四〇分以上かかってしまう。


 それだけの時間ぶっ続けで乗るのは、運転する方は良くても後ろが大変だろう。トイレ休憩も必要だ。


 そういう事で元々途中で休憩を入れるつもりだった。だから西島さんに言われなくてもサービスエリアには立ち寄るつもりだったのだ。


 高速道路上はやはり下道より走りやすい。田舎の高速だからか止まっている車も少ない。二車線あるしそこそこ遠くから前方が見えるから止まっている車を避けるのも簡単だ。


「高速を使うとやっぱり速いですね。こんなに魔物が出ないで走れるというのは、確かに便利です」


「他の場所から入りにくいからだろう。道路そのものも街中から外れた場所を通っているし」


 サービスエリアまであと五〇〇メートルの表示が出た。岩鬼で高速に乗ってから、一度も魔物に出遭わないままサービスエリアに到着しそうだ。


 そう思ってその先、本線から左側に出ているサービスエリアへの側道へ入る。

 そして側道が本道から外れてすぐ。


 ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 スマホから音と振動。お馴染み魔物警告だ。


 スクーターをその場に停めて降りる。前方は二〇メートル先でサービスエリアの駐車場となって開けている。


 右側は高速の本道だがガードレールと緑地帯が間にある。左は雑然とした感じの森だ。やはりガードレールで分離されていて、ガードレールの外側は森に向かって下がっている地形。


 前だ。見えていないけれどわかった。前方、左側。おそらく駐車場内をこっちに向かって走ってきている。

 そこそこ速い。ホブゴブリンだろう。


「前方向左側、こちらに向かって走ってくる状態でいいか?」


 西島さんに確認。


「そうだと思います。察知の魔法ですか」


「多分。見えなくても何故かわかる」


「便利ですね。今回はライフルを試してみたいのですけれど、いいでしょうか」


「わかった。任せた」


 確かにライフルの威力を確認しておいた方がいいだろう。

 西島さんの手にライフル、自動の方が出現する。彼女はすっと銃口を上げ、銃の後ろ部分を肩に当てて構えた。


 魔物が近寄ってくるのが魔法でわかる。もうそろそろ見える範囲に入る。念の為一応槍を出して構える。多分必要は無いだろうと思うけれど。


 銃声が響いたのは魔物の姿が見えるか見えないかのところだった。黄色、ホブゴブリンだと思った瞬間、姿が消えた。いや吹っ飛んだのだ。ライフルの威力で。


 もう魔物の位置を感じない。倒したという事だろう。少し移動して目で確認。ホブゴブリンの胸部がごっそり無くなっている。拳銃とは段違いで強力なようだ。


「銃が大きくて重いですけれど狙いやすくて当たりやすい感じです。これくらいの距離だと拳銃ではわりとしっかり狙わないと当たらないのですけれど、こっちの銃は正しく構えればまず大丈夫という安心感があります」


 いや、拳銃で三〇メートル先の動く獲物を狙うのは無理だろう。俺が拳銃で狙う場合は一〇メートル以内、出来れば八メートル位に近寄ってから。そうしないと当たらないから。


「今度、ライフルで敵を倒す練習をしようかな」


「そうですね。拳銃より絶対当たりそうな感じです」


 よし、次の魔物で試してみよう。でもその前に。


「それじゃサービスエリア、行くか」


「そうですね」


 スクーターに乗って、消えかけているホブゴブリンの横を通ってサービスエリアへ。

 ガソリンスタンド、トイレ、売店と食堂の建物という構成でそれほど大きくない感じだ。

 何台か車が止まっていて走りにくいので、途中から歩道を走って店の入り口前へ。


「それじゃ先にトイレに行ってきます」


「俺もそうしよう」


 流石にトイレは男女別、書いてあるとおりに行って、それから売店へ。

 売店は事案開始時には既に営業開始していたようだ。すんなり入れたし商品もしっかり並んでいる。


「ちょっとお土産見てみていいですか」


「ああ。飲み物やおやつも食べて少し休憩しよう」


 弁当とかサンドイッチ等は流石に日数的にアウトだろう。しかしドリンク類は大丈夫だろうし、お土産類は基本的に日持ちする物が多い筈。

 だからそれなりに食べられるものはある筈だ。


 ◇◇◇


「こういうところのお土産って、何か美味しそうに感じますよね。それに日持ちするものが多くて便利です」 


 西島さんがそんな事を言っているのは勿論誘惑に負けたからだ。

 小さい瓶入りのプリン、常温で四〇日持つというものとか。見かけはどら焼きを小さくしたようで、食感はクッキーで餡子を挟んだようなお菓子とか、ゆべしというよくわからない和菓子とか。


 瓶入りプリンは休憩時におやつとしても食べた。普通のプリンと比べてやや白っぽく、カラメルが入っていない。しかし何というかミルクっぽい味が濃くて滑らかで確かに美味しかった。


 だからと言って二〇個もってきたのはやり過ぎという気がしないでもないけれど。


「氷山でレベルアップしておかないと収納容量が足りなくなりそうだ」


「ガンガン倒さないと駄目ですよね。ただ今日でもう四日目なのでそれなりに増えているか、レベルが高いのになっていると思います」


 スクーターにのって、そして出発。あ、でも高速の本線に出る前に。


「ガソリンを入れておこう。ここまで結構走ったし」


「そうですね」


 駐車場出口にあるガソリンスタンドに寄って給油。ここはセルフではないからか普通にガソリンを入れる事が出来た。給油量は目一杯入れて四リットル弱。


「これって何リットル入るんですか?」


「カタログには一三リットルって書いてあった」


「なら相当走れますね」


「だな」


 確かにこれくらい余裕があれば気分が楽だ。この前に乗っていたスクーターは確かタンク容量が八リットルに満たなかったから。


「それじゃ氷山へ向かうぞ」


「あとどれくらいですか」


 確かここからだと……


『氷山東インターまで一七キロ。そこから氷山駅まで八キロ』


 相変わらず便利なスマホだなと思う。厳密にはスマホがではなく、スマホにこういった表示をさせている存在が親切なのだけれど。


「高速を降りるまで二〇分位。そこから駅まで八キロだけれど、降りてからどれくらいかかるかは魔物次第だな」


 スクーターは高速の本線に合流し、更に西へ。 

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