第五二話 俺が気づかなかった情報

 その後、魔物を五体倒したところで二人ともレベル一二になった。あらかじめ調べておいたイートイン付きのコンビニが近い。なので移動して昼食だ。


「イートイン付コンビニって、まさにこういう事態に便利ですよね。食べ物や飲み物があって電子レンジがあってテーブルがあってトイレもある。そして冷房付き」


「確かに便利だよな。レトルトや冷凍食品ならここでそのまま食べられるから」


「でもお湯のポットは使えないみたいです。ランプが消えています」


「空焚き防止機能だろ。カップラーメンじゃなくて電子レンジで作るのを選べば問題ない」


「まあそうですけれど」


 メインは西島さんが冷凍のカニトマトクリームパスタ。俺がパックご飯+レトルトカレー+冷凍チキン。

 店内に電子レンジが二台あったのでそれぞれで作って、ドリンクと高いアイスを持ってイートイン席へ。


「こうやって毎日好きなものを食べていると舌がぜいたくになります。これは味がちょっと濃いなとか、これはもう少し具がほしいなとか思ったりして」


 確かにそうかもしれない。


「弁当や冷凍食品って味が濃い目なのかもな。ほかのおかずやご飯なんかで調整するしかないか」


「そういう意味では田谷さんのから揚げカレーって正しいですよね。ご飯で調整できて具の少なさはから揚げで追加するって。ちょっともらっていいですか。あと私のも一口どうぞ」


「ありがとう」


 うん、いつも通りだ。一人殺した事を気にしている様子はない。

 まあ最初からこっちを殺すつもりで撃ってきた奴だ。しかも奴の姿や死体等を見ていない。カーテンと窓ガラス越しに撃って、死体は消えていたから。


 あと確かにこのパスタ、ちょい味が濃い気がする。これだと……


「邪道だけれどパスタライスなんてのもありかもな」


「あ、確かにそのパスタ、それがいいかもしれません。ソースが濃いなと思っていたので。ちょっとカレーから御飯貰っていいですか」


「勿論。足りなければ追加で温めてくる」


 御飯を三割くらい取られてしまった。でもまあ、唐揚げ分があるし問題はない。


「それで午後はどうしますか?」


「福縞よりここ氷山の方が人口はあるからさ。ある程度は経験値を稼いでおきたい。今日はとりあえずレベル一四を目指そうと思っている。レベル三の魔物を合計二七体倒さないとなれないけれど」


「魔物の数、初日や二日目に比べると減ってますからね。毎日のレポートによれば増えている筈なんですけれど」


「他に魔物がいないような田舎とかにいる分が増えているんだろうと思う。街中は魔物同士の戦いとかで減っていて」


 人間という要素はあまり気にしないでいいだろう。魔物に比べて圧倒的に少ないから。


「銃の店とかは回らないんですか?」


「弾とかは無くなっていると思う。さっき入手した分は、きっとその店から持ってきたのだろうから」


 一応氷山市内の銃砲店についても場所は調べていた。しかしさっきのホテルの部屋でディパック1個にぎっちり位のライフルの弾を回収した。


 場所的に考えれば俺が調べた銃砲店から持ってきたと考えるのが妥当だろう。ならきっと、店にはもう欲しいものは残っていない。


「そう言えばそうですね。なら今日行くのは夕食用の買い出し位でいいですか」


「それでいいと思う。今日は早朝から動いたから、午後三時くらいには買い出しに行って、それから宿へ向かおうか」


「そうですね。外は暑いですし」


 何せ八月の初旬。そして氷山は岩鬼や水都より暑い気がする。内陸だからだろうか。


「それにしても三人目がこんなのだったというのは考えさせられますよね。東京の方で集まっていたグループも分裂したようですし。やっぱり他の人に会わないように行くのが最適解なんでしょうか」


 えっ。


「そんなのあったのか?」


 西島さんは頷いた。


「ええ。東京の六本樹にある高層ビルを拠点にしてSNSでメンバー募集をしているところがあったんです。一日目昼過ぎにはもう男三女二の五人が集まっていたみたいです。

 それが二日目の時点でもう泥沼っぽくもめている様子が掲示板に書かれてて。そして四日目の今日はもう朝から駄目駄目状態です」


「早いな」


 この事態が起きてからまだ四日目なのだ。それなのに早くも分裂するとは……


「経過観察程度に様子をみていたんです。拠点の場所といいSNSに書かれていた内容といい、あまり仲良くなれそうにない人達だったので。Χで#六本樹憂世団というタグで検索すると出てきます」


 どれどれ。早速スマホでΧを開いて検索してみる。だだっとメッセージが出てきた。うーむ、これは……。

 

「まともな二人がすぐに見放して、あとは自然崩壊という奴か」


 本拠を構えたのが六本樹の高層ビルにある高級ホテルの最上階。だがそんな所を拠点にすると当然不便だ。何をするにもエレベーターで下階へ降りる必要がある。


 しかも周囲は魔物頻出地帯。ホテルのあるビルも併設しているショッピングセンターも人口が多いので当然魔物も発生。


 集まったうち二人は拠点移動を提言したが三人が反対。三日目に二人はSNSに書き込みを残して去った。そして残った三人のうち女二人は『男が働くのは当然』主義。


 四日目の今朝、たまらず最初からいた男も消えた。

 現在は最後に出た男と残った女二人による罵詈雑言合戦中。そして『新しいチームメイト募集』という状態になっているという……


「ここまで酷いのはそうは無いだろ。そもそも集まる場所からして駄目駄目な感じだし、ここは」


「此処に限らず全国で幾つかのSNS発信はあるんです。ついでに言うとさっき私が始末した男もメッセージを流していました。#氷山で最新表示で検索すると出てきます」


 どれどれ、検索してみる。なるほど……


「何というか、駄目駄目だな」


 本人は魔物を倒す選ばれた英雄気取り。しかしやっている事は店からいい物を取ってきた事とホテルを贅沢に使っていることの自慢。そしてヤれる都合のいい女募集中か。

 思考が自分の常識を超えた連中の論理を見ると目と頭が疲れる。俺は画面を閉じた。

 

「ええ。SNSで活動がわかるのはこんなのがほとんどです。勿論頭が悪い方が目立つというのも、そういう輩ほどこういった非生産的な事に時間をかけるという事も理解はしています。

 それでも三人目がこんなのだと思うと……魔物と変わらないですよね、本当に」


 その言葉でふと気づく。


「ひょっとして人間も死ぬと消えるって、ネットで既に知ってた?」


「ええ」


 西島さんは頷く。


「二日目にはSNSで出ていました。書き込んだ人は殺人犯とか呼ばれてアカウントを消しましたけれど」


 なるほど、そんな事がネットに書かれていたのか。

 俺はスマホは持っているがSNSはあまり使わない。電車が遅れた時と学校からの連絡がある時くらいだ。


 情報収集ではSNSを避けて検索する。SNSでヒットする記事のほとんどが宣伝で人工知能が作った怪しい文だったりするから。


「全然気づかなかった。ネットでこういった動きが調べられた事を」


「こんな事態でもネットにすがる人って結構いると思うんです。それもまた不安の解消方法なのかもしれませんけれど」

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