第一二章 西島さんは楽しい宿?

第五三話 縁が無いと思っていた質問

 近くを通ったので一応銃砲店は確認した。ただ何というか、想像通りというか、それ以上というか……


「私達もお店から勝手に物を持っていきましたし、鍵を壊したところもあります。だから大きな事は言えないですけれど……」


 シャッター、中のガラスごと大穴が開いている。おそらく閉まっていたシャッターの上から鉄パイプとか金属バット等で殴って穴を開けたのだろう。そのまま更に先にあるショーウィンドウのガラスを破って侵入したようだ。


 帰りは何処か別の場所から出たのだろう。これだけ壊せばシャッターは開けられないだろうから無理も無い。

 そして僕と趣味的に合わないと思うのはシャッターのまだ壊れていない部分にスプレーで書いた文字だ。


『麗雄参上 〇七〇-XXXX-XXXX』


 犯行声明としか思えないのだけれど、本人は何を意図していたのだろうか。


「店に入るのも大変そうだし諦めるか」


「そうですね」


 そんな感じだ。だから店内は見ていない。


 まあそれはそれとして、市街地をぐるりと回って魔物を倒してを繰り返し、午後三時過ぎ。


「やっとレベル一四だ」


 レベル四のホブゴブリンを倒した結果、やっと俺も今日の目標までレベルアップした。


「結構かかりましたね」


 西島さんは一足先にレベル一四になっている。遠くの敵を倒せる分、どうしてもレベルが上がりやすいのだ。


 魔物はほとんどがレベル三か四のゴブリンかホブゴブリンだった。他はレベル三か二のゴブリン。

 レベル五以上は今のところ出遭っていない。


 まあそれはそうとして目標のレベルに達した。しかも今日は朝六時前に動き出している。

 さっさと買い出しをして宿に行こう。


「電器屋とスーパーでいいか、行くのは」


 総合的なモールやショッピングセンターだと店内で魔物が出たら面倒だ。店が小さい方が中に魔物がいるなんて可能性を考えずに済む。


「ええ。いよいよコーヒーメーカーです。あとスーパーでいい豆を選びます。いいクリームとスティックシュガーも」


 ブラックはもうこりごりのようだ。


「なら全部買えそうな店に行こう。24時間営業だから簡単に入れる筈だ」


「わかりました」


 簡単に店に入れるかどうかは結構重要だ。鍵を壊すという強硬手段は出来れば避けたい。

 そして昨日調べたところ氷山には24時間営業で、食品も家電も服までも扱っている店があった。普通に入口から入れるならありがたいし楽でいい。


 スクーターで五分しないで無事到着。一階建ての平たい店だ。

 入ってみる。スマホからは魔物警告はない。だから大丈夫だとは思うが店が広い。

 

「これって、日太刀中のあのホームセンターより広くないですか?」


「確かにそうかもしれない。形が違うから比べにくいけれど」


 あっちは途中でガクッと曲がっていたし、二階や場所によっては三階まであった。

 こっちは真四角、それも正方形に近い感じで、かつ全部が一階にある。


「ならコーヒーメーカーの他、ちょっと下着も見てみます。もう少し在庫を持って洗い替えが出来れば楽ですから」


 確かに必要性はわかる。それに他人がいないから俺が女性下着売り場近くに行っても問題はない。ないのだが……

 これは深く考えたら負けだ。何が負けなのかはわからないが、とりあえず考えないことにしよう。


「まずはコーヒーメーカーです」


 そしてコーヒーメーカー、安いものからお高いものまで結構種類があった。

 そして西島さん、スマホと品札を見比べながら歩いている。どうやら目当てのものがあるようだ。

 そして縦長でそこそこお高いのの前で立ち止まり、頷いた。そこに貼ってある番号を見て、そして箱を探す。


「探していたのがありました。昨日、暇だから調べておいたんです」


 確かに昼から横になっていたから暇だっただろう。ただ俺には他のと機能的な違いはわからない。まあコーヒーメーカーの分類なんて元々よく知らないのだけれど。


「これだとフィルターをセットして水と豆を入れれば、自動で挽いてコーヒーを入れてくれるんです」


 なるほど、店で挽かなくていい訳か。そして豆そのものを買って選べると。

 

「それじゃ次は下着、いいですか」


 悪いという訳にはいかないのはお約束。あまり宜しくはないけれど。


 それでもまだ良かったのは、下着売り場がスーパーの一コーナーという感じだった事。


 隣は靴下のコーナーだから普通にそっちを物色しているふりをする事が出来る。これがランジェリーショップという感じの独立した空間だったら正直あまり精神衛生上良くは無かった。 


 いや、俺は別に下着そのものに興味とか色気とかを感じる趣味はない。

 ああいうのは着用者がいてそれを連想できるからこそエロく感じる人もいるのだと思っている。だから売り場の下着なんてのに性的興味を感じる事はない。


 ただ知っている女の子がそれを物色していると、それはまた……

 うん、考えてはいけない。考えると色々言い訳じみてくる。誰に対する何の言い訳なのか、自分でもわからないけれど。


 ここは無視して自分の靴下を探そう。そう思ったところだった。


「田谷さん。ちょっとこれとこれとで悩んでいるんですけれど、どっちの方が可愛いと思いますか?」


 そんな台詞、アニメやラノベではある種お約束だけれど、俺には全く縁が無いと思っていた。

 ただパンツ、ズボンという意味ではない方の物に対して、俺はどう答えればいいのだろう。


「何なら両方持っていけば?」


「あ、そうですね。それくらいは確かに問題無かったです」


 ……何とか逃げ切ったようだ。何から逃げたのか、俺自身全くわからないけれど。


 ◇◇◇


 そして無事西島さんの下着上下と、俺の靴下やトランクスその他を入手した後。

 食品コーナーでコーヒー豆のコーナーで西島さんが豆を三種類厳選して、そしてレトルト、冷凍食品と回る。

 

 今回、西島さんは冷凍食品コーナーで『極上とんかつ』と『ベーコンほうれん草』をキープした。


「今日行くホテルにはホテル独自のレトルトカレーがあるんです。カレーといったらやっぱりカツカレーですよね。だからこれは絶対です。

 あとカレーの付け合わせの野菜ってほうれん草って気がしませんか? なのでほうれん草です。福神漬けはいりません。漬物は嫌いですから」


 更に『地元で生産され厳選された一等米だけを使用しました』というパック御飯とか、賞味期限長めの種類のパンとか高そうなハムとか、牧場名がブランドになっているチーズとか、例によって多めに確保。


 そしてこの広いショッピングセンターを出て、今日の宿がある北西へと向かうのだった。

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