四日目 七月三一日
第一〇章 四日目の朝
第四五話 突然の五〇メートル走
割としんどい朝を何とか乗り越えて、荷物整理をした後。
朝六時前にホテルを出発。
御名浜の街を走るが魔物がいない。港へ出て、昨日買い出しをしたモール前の交差点を曲がって、業務用スーパー付近でやっと一体出たという状態。
「昨日もある程度倒していますし、発生レベルも上がっています。だから仕方ないかもしれません」
「早々に氷山に行った方がいいかもしれないな」
スマホで航空写真を確認して、人家が多い方を狙って走る。それでも二キロくらい走らないと魔物が出てこない。
ただ出てくる魔物はほぼ全部がゴブリンのレベル三。だから経験値はそこそこ稼げる。それでも俺がレベル一一になる前に岩鬼市の中心付近まで来てしまった。
「あまり魔物が出ないから先にホームセンターへ行っていいか?
本当なら氷山に行ってから寄るつもりだったんだけれど」
「ええ。槍の材料でしたでしょうか」
「ああ。槍を長くしようと思って。そんなに時間はかからないと思う」
「なら少し広いところがあれば、ライフル銃の試射をしてみていいですか。この辺の道路を使えば一〇〇メートルくらいの距離を取ることが出来そうです」
確かにライフル銃の試射は必要だろう。まだサイトの調整をしていないから。
「わかった。ホームセンターで的になりそうな板を貰っておこう」
「そうですね。的部分はマジックで描けばいいですから」
こういう事態も考えて、この辺のホームセンターの位置も調べてある。駅近くから少し南側へ移動。まもなく到着というところでスマホから警報音がした。
「別の事をしようと思うと出てくるよな」
「レベルを上げたいところですからちょうどいいです」
スクーターを止めて周囲をうかがう。魔物を発見するため風景と周囲の音とに集中する。
「前です。あの信号の交差点右側から出てくると思います」
どう見ても五〇メートル以上ある。こんなの音でわかる筈はないだろう。そう思うが多分実際そこにいるのだろう。
ただまだ俺は動かない。見えてからだ。
三秒後、動くものが目に入った。黄色、あの形、ホブゴブリンだ。
さっさと終わらせよう。俺は思い切りダッシュ、距離を詰めて槍を繰り出す。走りながらでも問題ない。あっさり槍が胴体を貫いた。
貫きすぎて刺さり過ぎそうになる。慌てて槍を収納。飛びのいてホブゴブリンから離れる。
ホブゴブリンがこっちを見て、倒れた。状況クリアだ。
では戻ろうか。そう思ったところで西島さんがこっちに走ってきた。何だ、何かあったのだろうか。
「どうした?」
彼女は俺のすぐ近くまで走ってきて止まった後、こっちを見る。
「せっかく完全治療したので、思い切り走ってみたんです。ただこれくらいだと全然疲れないし息も切れないです。もう別の身体という感じですね、これは」
西島さんが前に言っていたなと思い出した。
『完全治療を使って完全に治ったら、一度全力でへとへとになるまで走ってみたいです』
そういう事か。
「なら今度はどれくらいのタイムか距離を測ってやってみるか。五〇メートル走とか」
「それ、いいですね。なら今やりませんか。スクーターの横までここから何メートルあります?」
収納していたレーダー測定器を出して測る。
「五四・六三メートルか」
「ならこの辺でしょうか、ちょうど五〇メートルは」
測定器で測りながらほぼ正確な位置を確認。
「ここ、この場所からスクーターの右側のミラーまでが五〇メートルちょうどだ」
「なら全力で走ってみましょう。スマホでストップウォッチを……何か自動で測ってくれるみたいです」
勿論そのスマホにそんな機能はない。
スマホに謎メッセージを送ってくる神様とかその眷属あたりといった存在の好意だろう。ここはありがたく受け取っておくとしよう。
「それじゃ田谷さんも参加です。良いですか」
「ああ」
これくらいは付き合ってやろう。勿論全力で。こういった運動関係は得意では無い。しかしレベルアップのおかげで相応の速さはあるはずだ。
「それでは合図は私がいいます。位置について、用意、どん!」
最初のスタートで西島さんに遅れた。一時的に五メートル近い差となる。しかしスグに遅れを取り戻して中間点近くで西島さんに並ぶ。そのまま手を抜かず全力で走りきってスクーター横を通過。
少しだけ送れて西島さんもゴール。
「はあっ。レベルが一つ上だから勝てると思ったんですけれど」
「体格差と元の体力分だろ。それでタイムはどれくらいだ?」
「そうでした」
西島さんのスマホを覗き込む。
『西島咲良:五秒七五
田谷誠司:五秒四三
なお元の世界の最高記録はジャマイカのウサイン・ボルトが二〇〇九年に出した五秒四七。女子の世界最高記録はアメリカのマリオン・ジョーンズが一九九九年に出した五秒九三です』
相変わらずこのスマホの向こう側の担当者、親切だ。
「うーん。まあ世界記録を破れたからいいとしますか。呼吸も苦しくなりませんから。
それじゃホームセンター、行きましょうか」
「ああ」
スクーターに乗って、そして走り出す。
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