第四四話 停滞の日

 煩悩を抑えつつ拳銃を一通り手入れ。銃身内部や弾倉等に油を塗って、すす等を余分な油といっしょにふき取ってとりあえず完成。


 本格的な整備の場合は分解なんてのもするらしい。しかしそこまでやると元に戻せる自信がないのでパス。

 弾を入れない状態で動作を確認した後、弾を込めて、二丁を西島さんに渡す。


「ありがとうございます。やっぱりこういう手入れ、した方がいいんでしょうね」


「正直よくわからない。でも猟銃なんかはするようだし、動画でやり方が載っていたからやって悪いことは無いと思う」


 さて、次はライフル銃だ。本当は実際に弾を撃って、サイトの照準合わせをしなければならない。しかし室内では無理なので、とりあえず弾を抜いた状態で取り扱いの練習だけをやっておく。


「その銃も一度何処か広いところで試してみないと駄目ですね」


「ああ。明日辺り何処かで試しておこう」


 さて、これで装備関係で出来る事はひととおり終わった。

 あとは明日回る場所を調べておこう。ルートの確認、警察署や銃砲店、ホームセンターの位置把握。

 そういえば聞いておいた方がいいことがあった。


「明日順調に行ったら宿は何処にするんだ?」


「万代阿多見温泉にしようかと思っています。氷山から比較的近いので。

 ただ魔物が来ないだろう二階以上にお風呂があるという条件って結構難しいです。なので結局大きなホテルになってしまいました。本当はあまり大きいと魔物が出た時に面倒なんですけれど仕方ありません」


 もちろん風呂うんぬんは西島さん基準だ。俺は風呂基準なんて作った記憶はない。というか体質的に長湯できないのだ。すぐ暑く感じるから。

 なんて口には出せないけれど。


「わかった。それじゃ明日、俺がレベル一一になるまで岩鬼市中心部で戦って、その後高速道路で氷山へ移動。ホームセンターと銃砲店、スーパーを回りながらレベルを上げて、夕方4時ころには宿へ向かう。

 そんな感じでいいか?」


「わかりました。あといい場所があれば猟銃も撃っておきたいです」


「確かにそうだな。わかった」


「それじゃ明後日は福縞ですよね。その周辺の宿を調べておきます」


「わかった」


 それでは俺は道その他を調べるとしよう。


 ◇◇◇


 午後六時に簡単な夕食。収納していてまだ食べていないレトルト等を出して、電子レンジで温めたりして食べた。


「この業務用スーパーの鶏肉はトマトの奴が一番美味しい気がします」


「確かにカレーよりトマトの方が美味しかったな。今度からこっちだけにしよう」


「ただポテトサラダの大袋は有りですね。御飯代わりに食べるのもいける気がします」


 そんな感じで簡単に食べて。


「本当ならお風呂にのんびり入るんですけれどね。安静だから駄目みたいなので、今日はもう寝ます」


「なら俺も寝るか」


 ここは寝室が別れていないので、一人だけ起きて部屋を明るくしておくなんて事はしない。なので俺もさっさと寝る事にする。


 実はこのさっさと寝るというのが何気に難しい。この環境だと。

 しかしそれはまあ、いつもと同じだ。いつの間にか眠っているのも同じ。


 そして翌朝。何かわからない圧迫感を感じて目が覚めた。


 目を開くとまだ暗い。ただ夜中よりは外が明るい感じだ。この明るさだと午前四時過ぎくらいだろうか。

 しかし何か気配を感じる。


 何だろう。気配の方を見てみる。すぐ横に顔があった。勿論西島さんの顔だ。俺が寝ている真横に横になって、俺の方を見ている状態。目は開いている。つまり起きている。


 何だ何だこの近さは何事だ! 思わず叫びそうになるのを何とか抑える。


「あ、起きました」


 声が無茶苦茶近い。当たり前だ。実質同じ布団にいるくらいの近さにいるから。向こうは多分俺の掛布団の上だろうけれど。


「何かあったか?」


 いつも通りの声を何とか装って尋ねる。


「いえ。治療が終わっただけです。要安静解除と出ましたからもう大丈夫です」


 とりあえずそれは良かった。でも一応確認しておこう。


「それで体調の方はどうだ? 何かおかしいところは無いか?」


「今のところ特に変わりは無いようです。五〇メートル走とか激しい運動をやれば治ったかわかると思いますけれど」


 少なくとも宿の中では無理だ。


「試すとしても昼だな」


「ええ。それで実は、田谷さんがそろそろ起きてくれないかな、と思っていたんですけれど」


 何となく想像つく。何せ毎朝早くに起こされているのだ。いい加減俺も学習する。


 ただし俺としてはそこそこ面倒な事態だ。なのでここは気づかないふりをして避けたいところだが……


「これからしばらく内陸側に行きますし、松島は島があるから海から日が昇るところを見る事が出来ないじゃないですか。それに昨日は急いでいたからお風呂にしっかり入っていなかった気がするんです。

 ただここのお風呂、部屋の外だから一人で行くのはちょっと怖くて……」


 いや、俺より西島さんの方が絶対強い。今は拳銃を収納していていつでも出せる状態なのだから。


 大体昨日覚悟完了しているなんて話をしたのだ。その翌日に一緒に風呂に行くなんてのはどうなのだろう。

 今もほとんど同じ布団状態だし。誘っているのかこれは。


 もちろんそうでないという事も聞いて知っている。今更ここで勘違いしたりはしない。


 なおかつ俺には行かないという返答は残されていない。

 いや、言ったら多分聞いてくれるとは思うのだ。しかし西島さんが広い風呂をこよなく好きだというのは理解している。

 行けなくてがっかりすると思うと……断れない。


「わかった。今からならゆっくり行っても大丈夫だろ」


「そうですね。でもついでですからお風呂に入りながらのんびり朝ご飯なんてどうですか? 


 確かシリアルとかフルーツグラノーラがありましたよね。あれと冷たいヨーグルトって、お風呂で食べると美味しいと思うんです。あとは冷凍のフルーツなんかも入れて」


 確かに風呂で食べるなら冷たい系がいいだろう。ならヨーグルトとシリアルというのは多分正解だ。朝食っぽい気もするし。


「確かに美味しそうだ」


「それに朝食もお風呂で取れればその分早くここを出る事が出来ます。昨日午後分の経験値を稼いで、あと出来れば猟銃の試射もしておければ」


「わかった」


「それじゃ行きましょう。ヨーグルトの大きい容器の中にシリアルを直接入れればお皿はいりませんから」


 うん、とりあえず今日も頑張って我慢しよう。そう思いつつ俺は布団から身を起こす。

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