第八九話 夕食の時間

 解凍した肉をパックから出して紙皿に並べ、ホットプレートの適温ランプが点灯したところで。


「失礼します」


 部屋の玄関方向からシンヤさんの声がした。


「お疲れ様。早速だけど夕食開始だからさ、ささ、早く入って座って」


 シンヤさんがのっそりという感じで部屋の入口へ到着。

 テーブルの上を見回す。 


「ありがとう。夕食も豪華だな」


「いい店があったからさ。足りなければここの一階売店にも牛タンの塩と味噌があるから、遠慮無く。という事で座って、あとは勝手に焼いて食べて。野菜その他はこっちにあるから言ってくれれば取るからさ」


「了解だ」


 シンヤさんは空いている上野台さんの横の椅子に座る。


 なお各自の席にはあらかじめ

 〇 ポテトサラダとブロッコリー等の野菜を入れた小皿

 〇 解凍済みのカニおこわ

 〇 カップ味噌汁一つ(お湯入れ済み)

 〇 コーヒー入り湯飲み

が置かれている。


「それじゃ開始だ。私は牛タン厚切り、塩とタレ2つずつ焼こうかな」


「私は塩だけで試してみます」


 焼き肉開始だ。俺やシンヤさんも牛タンを2枚ずつ乗せる。

 結果サイズ大きめのホットプレートの上が牛タンで目一杯状態。


「こんな状態なのに船台名物を楽しめるとは思わなかった」


「名物だからこそあちこちの売店にあったという感じだよね。肉だから冷凍で売っているし。

 ただ冷凍食品専門の店が街中にあってさ。結構美味しそうな惣菜を売っていたから当分は食事にはこまらないと思う」


「昼も感じたんだが、今までの僕の食生活はなんだったんだろうな。レトルトとパック御飯とか、インスタントラーメンとか。

 あとこの御飯、美味しいな。ピラフか?」


「これも同じ冷凍食品専門店。高級カニおこわとかいてあった」


 確かに美味しい。あと牛タンが程よく厚めで食べ応えがある。

 塩と味噌、どちらも美味しい。ただ俺自身の好みは味噌かな、どちらかと言うと。


 ただ牛タンだけというのも何なので牛カルビも焼いてみる。

 牛タンとは違い焼くと一気に出てくる脂。網タイプの鉄板だから下に落ちていくけれど。


 あとで洗うのが大変かもな、そう思って思い出す。

 そう言えば西島さんが洗浄魔法を持っていたなと。


 なら紙皿ではなく普通の皿を準備してもいいかもしれない。

 レベルが上がりまくったから収納の余裕は少しはある。

 最近増えた家電製品類で結構使っているけれど。


「あとシンヤに相談。明日は午前中に一度、魔物の集団がいないか四人で街の中心部を回りたいと思っているんだけれど、どうかな。そうすればその日一日くらいは安心出来ると思うからさ」


「確かにその方が効率的だろう。ただ中心部はそこそこ広い。群れがどこにいるかあても無しに探すと結構時間がかかる」


 確かに船台、それなりに広い。魔物の集団が出た場所も昨日は駅前で、今日は告分町と結構離れている。


「どうせ中心街は車に乗る暇がないくらいに魔物が出るんだ。だから駅の南側、地下鉄の六橋駅あたりに車を停めて、船台駅、二番町、そこから北上して告分町、紅当台公園辺りまで歩こうと思う。これで中心部に魔物の集団がいてもほぼ見つけられるんじゃないかな。距離にして大体三キロ。特に問題がなければ一時間ちょっとだ」


 まだ俺は船台市内の町名を把握していない。だから上野台さんの説明でどう歩くかがよくわからない。

 今日の日中に歩いた場所のような気がするけれど。後で地図を見て確認しておこう。


「紅当台公園から車を停めたところまではレンタカーでいいと思う。東三番町通りを南下するだけだしさ。多少魔物が出てもそうは時間が掛からないだろう。明後日は北五番町あたりに車を停めて、今日乗り捨てたレンタカーを回送に使えばいいかなって。これなら合計二時間あれば出来ると思う」


 なるほど。そうすれば全区間歩くよりは楽が出来るか。そして他の場所を回る時間も充分にとれる。


「なら問題無いだろう。紅当台公園辺りに適当なレンタカー屋はあるか?」


「駅二〇〇メートル以内に三カ所あるから大丈夫だと思う」


「了解だ」


 つまりこれからは毎朝、市街地の中心をぐるっと歩いて回り、車で戻ってくる形になる訳か。

 確かにそれなりに有効な作戦だと思う。魔物の集団が中心部以外でも出現しない限りは。


 なおそんな話をしながらも肉は確実に消費されていく。俺もカルビ以外にロース味付け、ハラミといただいた。


 ただ肉ばかり食べていると飽きてくる。そんな時にポテトサラダやピラフがいい感じに箸休めになる。

 ポテトサラダもこれで在庫が無くなった。明日辺りスーパーかどこかで補充しておこう。そう思った時だ。


「田谷君にお願いがある。あのスクーター、いいと思ったんだが同じ機種が船台近くの店には無かった。だから明日使わないのなら借りたいんだが、いいだろうか?」


 そう言えば街中で魔物と戦うには大きいバイクは不便だと言っていたなと思い出す。


「もちろんです。これがキーです」


 スクーターのキーを魔法収納アイテムボックスから出してシンヤさんへ。


「ありがとう。それじゃ明日、中心街の魔物捜しが終わったら使わせて貰う。場所は昼食を食べたレストランの下のままでいいか?」


「ええ、そのままです」


「わかった。大事に使う」


 確かにあのスクーター、パワーがあるし操作も楽だし便利だと思う。

 俺はそもそもスクーター以外のバイクに乗った事がないから比較できないけれど。


 それ以外の雑談も結構した後。


「あと六枚で牛タン終わりだから焼いてしまおうか」


「そうですね。何なら明日以降に食べてもいいですし」


 一キロ以上あった肉がなくなり、カニピラフも野菜類も全滅。


「それじゃ洗浄魔法をかけますから田谷さん、収納お願いしていいですか」


「わかった」


 魔法一発で綺麗になったホットプレートを収納。紙皿等のゴミをコンビニ袋に入れて片付けると一気にテーブルが広くなった。

 だがしかし。


「デザートでブルーシールのアイスがあります。好きなのを選んで下さい」


 種類はアーモンドピスタチオ、マンゴー、塩ちんすこう、バニラ、紅芋、さとうきび、チョコチップ、バニラ&クッキーか。

 正直どれを選べばいいかわからない。


「後で選ぶよ。お腹いっぱいだし」


「僕もそれがいい」


「なら部屋の冷凍庫に入れておきます」


 これで本当に片付いた。多分。


「それじゃあとは自由時間だけれどさ。女子陣二人は隣の四五二で寝るけれど、シンヤと田谷君はこの部屋でいいかい?」


 今日は流石に女子は別室か。ちょっと安心だ。そう思ったところで。


「悪い。部屋が広いとどうにも落ち着かない。十メートル以内には魔物が出ない事はわかっているんだが。

 自分用には四六九の鍵を持ってきた」


 なるほど、そうやって個室を確保する手段があったか。

 なら次回から俺もその手を使おうかと思う。

 その方が安心して眠れそうだから。

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