第九〇話 明日の予定

「あとこれは提案なんだが、何処の辺りを回ったか、地図で記録しておかないか。そうすれば回り残して魔物が成長するなんて事も少なくなる」


 テーブルが片付いた後、シンヤさんがそんな事を言った。

 なるほど。確かにそれならくまなく回る事が出来そうだ。


「いいね。一応私の回った場所はタイムラインで残しているけれど、出力しようか」


「僕もタイムラインで記録を取っているからさ。別地図で反映させておこう。ただスマホで作業するのは面倒だな」


「パソコンは今日、電気屋からいただいてきた。初期設定をしていないけれどさ」


 上野台さんが立ち上がり、和室側の隅に置いてあった箱を持ってくる。


「個人じゃまず買わないような高級機種だ」


 シンヤさんが言う意味はよくわかる。今回持ってきたものは某一流メーカーの最上位機種だ。

 自分で買うならここまでお高いものは買わない。


 高性能が必要でもBTOメーカーとか直販メーカーでもっと安いのが出ている。

 そして実際はもっとずっとお安い普及品クラスのを使うのが普通だ。今時はパソコンでは無くスマホで充分という人も多いけれど。

 

「こういう時でないと私も使わないさ、こんなの。この前まで使っていた自分用は某通販メーカーの普及品だし。

 それじゃちょっと初期設定済ませてしまうから待ってくれ。うーん、流石シリーズ最新最強CPUと32GRAM、速い速い」


 かなり慣れた感じで操作する上野台さんの手で、俺達とシンヤさんがそれぞれ移動したルートがひとつの地図に表示される。


「街全体を回ったつもりだけれどさ。改めてこうやって見ると結構隙間がある感じだね」


「ああ。二〇〇メートルメッシュとまではいかないが、明日はもう少し通る道を変えてみる必要があるかもしれない。

 僕はバイクだから狭い道でも問題無い。だから対応しやすいと思う」


 確かに自動車移動の場合、狭い道は避けたいところだ。一台でも車が停止していれば大回りしなければならなくなる。


 さて、それならどの道を回るか。

 基本的に土地勘のある上野台さんが考えてくれている。けれど、俺も下調べをしておきたい。

 だからまず、回る場所を決める為の前提条件として聞いておこう。


「明日はシンヤさん、どの辺りを回るつもりですか」


「田谷君のスクーターを借りるつもりだ。だから別れた後は中心街の南西側を山羊山方面に抜けて、バイクを乗り換えた後に永町、名鳥辺りまでを回ろうと思う」


 今はパソコン画面に地図が出ているし、俺が持ってきた地図帳もテーブル上に出してある。

 だから出てきた町名がわかるし、回り方として妥当だなという事もわかる。


「ならこっちは北側かな。和泉辺りまで含めて。北側は結構回った気だったんだけれどさ、こうやって見るとかなり隙間が多いから。あと車だと北側の新しい町の方が回りやすいしさ。中心部より東南側とかは細い道が多いし」


 確かに市場に向かう道は面倒だった。狭いしまっすぐ抜ける道が無いしで。

 それに比べると今日走った道は割と太いし整備されていたように感じる。


「明日の夜はまたこの宿でいいか?」


 さて、西島さんはどう返答するだろう。


「此処だと温泉が楽しいです。ただもし船台で何日か拠点を置くならもう少し小さくて建物全体を魔法で把握出来る場所がいいと思います」


 西島さんからまっとうな意見が出てきた。好みとはまた別に色々考えてはいるようだ。


「ですのでシンヤさんが昨日泊まっていた宿はどうでしょうか。あそこなら施設はそこまで大きくないですし、周囲に人家が少なくて魔物は発生しにくいです。その上高速で近くまで行けますから」

 

 そういえばあの宿も候補だったと西島さんが言っていた。つまり温泉は外せなかったという事か。

 でもその条件なら確かに良さそうだ。


「そういう意味では悪くない施設だ。ただここより施設はずっと簡素でビジネスホテル的だけれどいいか」


「ええ。本当はその方が落ち着きます。観光気分で毎日場所を変えるならこういった宿がいいんですけれど。

 皆で集まる部屋と寝室は別にすれば問題無いと思います。向こうの施設なら建物内に魔物がいれば魔法なりスマホの通知なりでわかりますから。

 部屋はわからないので、入ってからSNSで連絡します」


 これで明日の予定は大体決まったようだ。


「ところで明日は何時にこの宿を出る? 僕は大体朝7時くらいから動いているけれど、朝食とか時間が決まっていたらあわせる」


 そういえばその辺の問題もあった気がする。


「こっちは昨日、朝6時に出ているけれどそれでいいかい? 朝食は朝風呂に入りながらヨーグルトとシリアルなんだけど、明日はハンバーガーとピザとパンだったけか」


「その予定です。朝風呂に入ってから朝食にしたいので、五時半にこの部屋で朝食、という事でどうでしょうか」


「了解だ。朝早いんだな、皆」


 好きで早いわけでは無い、なんて事は勿論俺はいわない。

 代わりに上野台さんが答えてくれる。


「朝日を見ながら朝風呂なんて習慣があるようでさ。それに朝早い方が涼しいからさ」


 その習慣を作ったのは西島さんで俺は巻き込まれているだけだ。そんな事も取り敢えずは言わない。


「なるほど。目が覚めるかもしれないな。明日やってみよう」


 取り敢えず明日は平和な朝を迎えられそうだ。部屋が違うし朝風呂も無しで朝食集合なら。


「それじゃ話し合うことは以上かな。なら田谷君の刀や槍をもう少し見ていいかい? 本物の日本刀なんて手に取る機会がなかったからさ」


「いいですよ」


 そう言った後、そういえばそろそろやった方がいい事があるのを思い出す。


「あと西島さん、使った拳銃やライフルを出して貰っていい? 俺も拳銃を使ったから、一緒に整備しておきたい」


「わかりました。いつもお任せして申し訳ないですから一緒に整備します」


「僕も刀を見せて貰っていいか。場合によっては手に入れる事も考慮したい」


 刀や槍を出したり銃を整備したりするのは和室部分の方がやりやすい。

 だから皆でテーブルから和室部分へと移動する。 

 

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