第八八話 夕食の準備
ほぼ片づけ終わったところで、スマホが鳴った。SNSメッセージの着信だ。
風呂から上がる連絡か、シンヤさんがこっちに向かう連絡か、どちらかだろう。
見るとシンヤさんの方だった。永町付近にいて、これからこちらへ向かうそうだ。
すぐに上野台さんからもメッセージが入る。大浴場を三箇所回って、そろそろ出ようかというところだそうだ。
ならコーヒーメーカーのスイッチを入れて待つとするか。
スイッチを入れ、そしてスマホで槍の使い方なんてのを調べる。
基本は右手で柄尻に近い側を握り、左手を前に出して支える構え。ここから左手の中で滑らせながら右手で突き出して刺す。
ただし突くのは難しいから遠方にいる場合は叩くなんてのもいい。長いから横殴りにするだけでもそれなりの威力があるそうだ。鉄板で出来た鎧をへこませる程度には。
なるほど、今までは突く事ばかり考えていたけれど、割と何をやっても大丈夫なようだ。
ただし接近戦の時は使いにくいからサブの武器をもつようにと。
サブというと、俺が持ってきた中では太刀だろうか。刀としては長めだけれど。
俺は持ってきた中では短い方の太刀を出してみる。黒色の糸で巻いた柄のついた全長一メートルくらいのものだ。
今の俺の腕力ならこの太刀でも片手で握って振り回せる。ただこれも狭い場所で振り回すには向かなそうだ。間違いなく天井にぶつかる。
でもまあ、そういう時はむしろ拳銃あたりでいい気がする。そもそもそんな接近戦、いままでした事はないし。
廊下の方で足音が近づいてきた。西島さん達だろう。鍵は開けたままにしてあるから問題ない。
「ただいまっと。おっと、日本刀か。組み立て終わったのか?」
「はい、一応」
「もし良かったら見せて貰っていいか? 単なる興味だけだけどさ」
「どうぞ」
特に隠す事もないので全部、槍二本、薙刀二本、太刀二振を出して畳部分に置く。
「どれも鞘から出した状態なんだな」
「魔法で収納しておけば鞘をつける必要がないですから。むしろ出してすぐ使えるよう、鞘は無い方が便利です」
「確かにそうだな。持ってみていいか」
「どうぞ」
上野台さんは大きい方の太刀から手に取る。黒色の糸が巻かれた柄のそこそこ反りが大きい刀だ。
「重いけれど使えなくはない重さか。むしろこれくらいの重さがあった方が攻撃力があっていいのかもしれないな。E=mv²/2だし」
「使うなら刀より槍の方が初心者向きとありましたけれど、どうですか?」
「そうかもな。ただ自分の運動神経や反射神経には自信ないからさ。基本的に魔法で戦うしかないんだろうな、きっと。
ただそれはそれとしてさ。こういった物は工芸品的な感覚で愛でても楽しいじゃないか。無論当時は実用品として使われたものもあるんだろうし、今回も実用品として持ってきたのだけれどさ」
確かにそういう見方もあるのかもしれない。今の俺にとっては実用品で、魔物相手にどれくらい使えるかという観点が中心になってしまうけれど。
「ありがとう。それじゃ夕食の準備をしようか。シンヤが着くまでに準備完了する位のペースで。
刀はまた仕舞っておいてくれ。シンヤが見たいかもしれないけれどさ、その時はまた出す形で」
「わかりました」
巨大な刃物が刃むき出しておいてあるのはどうにも危険な気がする。だから仕舞って置いた方が気が楽だ。
「それじゃ今日食べる冷凍食品を出してくれ、一気に解凍するから」
「わかりました」
牛タン入りのパックが各社各種取りそろえて八パック。焼き肉用のカルビとロースとサガリがそれぞれ二〇〇グラムのパックで。
あとは今日の主食として高級カニおこわがあって、野菜がエビのアヒージョとブロッコリーと冷凍ほうれん草。
「結構あるな。でも今日は暑い中、随分と歩いている。カロリー的な消費は充分だろ。それに食べきれなかったら収納して貰えばいい。冷凍庫モードと冷蔵庫モードなんだろう、確か」
「ええ。だから足りないより余る位の姿勢で行きましょう」
いいのだろうか、本当に。
すぐ食べられる冷凍食品が結構あるから、足りないときに追加でもいい気がするけれど。
なんて思いながら紙皿にポテトサラダとか常温の惣菜とかを入れていく。
「野菜は前に行った業務用スーパーの方がある感じですね。高級感はないですけれど」
確かに西島さんの言うとおりだ。でも、そういえばと思い出す。
「探せば船台にもあるんじゃないかな。あとは全国チェーンの大型スーパーなんかにもあった気がするし」
「そう言えばそうですね。明日はそういった場所も回りましょうか」
「ああ。何処がいいかは後で考えよう。別のチェーンの冷凍食品専門店もあるしさ」
とりあえず明日もこの体制で動くつもりのようだ。西島さんも上野台さんも。
確かに今日は経験値をそれなりに稼いだ。集団はいたけれど特に危険な事はなかった。
俺達が今やるべき事は経験値稼ぎによるレベルアップだ。このまま船台にいるにせよ、田舎や何処かの島に逃げるにせよ。
そういう意味で此処船台に居座って戦い続けるというのは、現在の最適解のひとつだろう。
もちろん何か見落としが無ければ、だけれども。支配種や統率種なんて存在の他に。
「シンヤさんが来たようです。バイクの音がしました」
窓を閉め切って冷房をかけているせいか、俺には聞こえなかった。しかし西島さんの耳は捉えたようだ。
「準備は間に合ったな。なら迎えに行くか」
「ルートが階段含めて4つあります。あ、でも美佳さんの能力なら見えるんでしたっけ」
「ああ。今入口に入ってきた。まっすぐこっちに来ないで何かやっている」
上野台さんがそう言ってすぐにSNSの通知音が鳴る。スマホを確認。
『到着した。部屋はわかるから自分で行く』
なるほど、こちらへの連絡を打っていた訳か。
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