第一三一話 次も銃撃戦
「ここの道の駅、それなりに品揃えがいいし広くて綺麗だし、温泉もあるしハーブ園なんてものもあるので、気を抜くと一日ここで終わっちゃいそうでした。なので心を鬼にして、最小限の物販だけ見て戻ってきました」
確かに滞在時間二〇分程度というのは、今までと比べるとかなり短い方だ。
ただ今回の戦利品には、少し今までと違うものがある。
「そのぬいぐるみみたいなものって、何なんだろう」
西島さんが抱えてきたのは、青い絣柄の布製で全長四〇センチくらいの、枕に顔がついたような物体だ。
「炭ふくろうといって、中に炭が入っているそうです。抗菌消臭効果があるようなので、車に入れておくといいと思って」
「肉味噌とかハンバーグとか、いい菜種油で作ったサバ缶とかを持ってきた。個人的には日本酒を少々。あと、いい蕎麦とそばつゆもあったから、明日の朝は蕎麦にしよう」
「煮豆のパックとか、タケノコ水煮とか、常温保存出来るサラダっぽいのも結構ありました。これで冷凍野菜とポテトサラダ以外のバリエーションが出来ます」
なかなか充実していたようだ。
なお俺も熊肉の缶詰なんてのを、つい6缶持ってきてしまった。
半ば怖い物見たさという奴で。
その後、多沢湖の駅近くでホブゴブリン一匹、
「本当は格館だと武家屋敷観光とかしたいところだけれどさ。何せ今日はあまり時間が無い。もう三時だからさ。あと一時間ちょいで宿に向かう必要がある。それでも横出盆地にいるだろう、魔物の集団は叩いておきたい」
魔物の集団か。
「もう東京とか飽田方向とかに移動しているって事はないですか」
「この横手出地は広いし、そこそこに人口密集地域が点在しているし、他の大きな街からそれなりに離れているからさ。盆地の外に出ないで、中をうろうろしている可能性が高い。それなりの大集団に発達している可能性もさ」
おそらくはあのシミュレーションでそんな結果が出ているのだろう。
ある程度は居場所がわかっているのかもしれない。
確定と言うより予想という感じでだろうけれど。
「取り敢えず大間借の方へ向かえばいいですか」
「ああ。次の交差点を左、線路を渡ったところで右に曲がって、あとは国道真っ直ぐだ」
上野台さんに言われた通り進む。
そして。
「まだ遠いけれどいるな、それなりに大規模な集団が」
上野台さんが敵を発見したようだ。
「どの辺ですか」
「まだ遠い。だいたい五キロくらい先だ。ちょうど地平線に隠れるから良くは見えないけれどさ。魔物がいると周辺も歪むから、方向はほぼ道なり正面だ」
なるほど。
「地球の丸さのせいで、地平線に隠れてしまう訳ですか」
「そーゆーこと。もっと背が高い車なら、もう少し遠くまで見えるだろうけれどさ。これでも普通の車よりはずっと視点が高い筈だけれど。
とりあえず三分間は真っ直ぐ行ってくれ。適当な場所を大急ぎで探す」
上野台さんはパソコンを取り出して操作をはじめた。
俺は魔法で半径一〇〇メートル以内の魔物を確認しつつ、そのまま走る。
周囲は田んぼ、そして道沿いに家や倉庫、店が点在するという風景だ。
田舎だが、そこそこ建物が多い。
それなりに栄えているのだろうか、単に主要道路沿いだからこんなものなのだろうか。
まもなく右側、線路を挟んで向こう側に建物が増え、街っぽい雰囲気になってきた。
カーナビをちらりと確認。駅もあるそこそこの集落のようだ。
あっちにはいかにも魔物がいそうだけれど、この道でいいのだろうか。
「右に見える集落には魔物が一体いるけれど、無視してくれ。集団の狙いは、おそらくその魔物だ。倒すと集団の動きが読めなくなる」
俺が聞くより早く上野台さんから説明があった。
なるほど、そっちの集落にいる魔物は餌か。
「そして戦闘場所も決まった。この先に道の駅があるけれど、その少し先の人家の影だ。あともう五分も走らないうちに到着すると思う。道の駅を過ぎて橋を渡ったら、あとは指示する」
なるほど。
「あと今回はゆるく曲がった道路の先にいる魔物を狙う形だ。最大射程はだいたい六〇〇メートルくらい。こっちは途中にある樹木等で隠れて見えにくい筈だ。道路の周辺は基本的に水田で、ちょっとだけ家や庭の樹木という状態」
遠距離攻撃という訳か。
なら俺も今度はライフル銃を使ってみよう。
どうせ俺のスキルではそれだけの距離届く攻撃はない。
それにライフルの弾は結構在庫がある。
だから練習を兼ねて、撃ちまくっておこう。
橋が見えたので減速する。
ゆっくり橋をわたり、すぐの農道っぽい道を右へ。
言われた通りすぐ交差点があったので左折し、右側にある家の影になるように停める。
「さて、暑いけれど外へ出て移動だ」
「仕方ないですね」
外へ出る。
今は身体が冷房で冷やされているから、そこまで暑く感じない。
でもすぐに大汗をかきそうな感じがする。
「敵は大丈夫ですか」
「まだ二キロ先だ。もうはっきりわかる。やっぱり四〇体規模だ。ただそこまで強そうでは無いな。一〇体以外はホブゴブリンかゴブリンだ」
国道に出て右折し、歩いて行く。
一〇〇メートル位先の左側に人家が見えた。
「あそこの家ですか」
「ああ。家の右側から狙い撃つ。左側は途中に障害物があるから無理だ」
家は一軒かと思ったけれど、近づくと二軒だとわかった。
ごくごく低い塀で敷地を仕切ってあり、どちらにもそこそこ大きめの家が建っている。
どちらの家も玄関のところが俺の見慣れた形と異なっていた。
扉では無くガラスの引き戸で、玄関部分の土間がかなり広く取られている。
「あの入口は雪対策ですかね」
「私もよくわからないけれどさ。多分そうだと思う」
俺達は二軒の家のうち、先の方にある家の庭に陣取った。
下が砂利敷きで草が生えていないので、入りやすくていい。
上野台さんがスマホを出して操作する。
「あと十五分ってところか。目では見えないけれど、スキルの方だとはっきりわかる。今のところこっちに気づいた様子はない」
はっきりわかるなら、念のために聞いておこう。
「火球を飛ばしそうなのはわかりますか?」
「生憎、このスキルじゃ強さが同じ程度の魔物の種類を判別するのは無理なんだ。あくまで歪みの強さで見ているからさ。ゴブリンメイジとバガブは同じように見える。ホブゴブやゴブリンは弱いからすぐわかるんだが」
なるほど、遠くを確認出来る代わりに、そういう欠点があるのか。
なら仕方ない。
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