第一三〇話 宿を変更

 北側までぐるっと回った結果、森岡を出たのは午後一時過ぎになった。

 そして予定ルートも少し変わった。


「ここまで来ると高速を回るより、国道四六号を使って多沢湖回りで大千へ出た方が早いってナビでは出るな。道もそんなに厳しくは無さそうだしさ」


「わかりました。でもこのルートだと、飽田の先に夕日までに着くのは厳しくないですか」


「飽田の魔物相手は明日以降に回せばいいと思うよ。今日は横出盆地までの魔物を相手にすることにしてさ。それにこのルートには道の駅があるしさ。サービスエリアの代わりに」


「いいですね、それ」


 話がそうなれば、もう決まったようなものだ。

 上野台さんのナビで片側二車線の道に出て、『飽田113km、多沢湖39km』と青看が出ている方へと走っていく。


「113kmだと結構遠いですね」


「横出盆地で午後四時になったら、宿への最短ルートを目指すようにしよう。他の車がない今なら二時間あれば、宿に着ける筈だからさ」


 二時間運転しっぱなしというのは、ちょっと勘弁して欲しいのだけれども。 

 大分運転には慣れたつもりだけれど、それでも結構疲れるから。


「もし大変なら、そこまで行かなくても宿はありますから。それにこの奥の方、いわゆる秘湯と呼ばれる温泉がそこここにあって、絶対寄り道になるとはわかっているんですけれど、ちょっと気になって……」


「この後の状況次第じゃいいんじゃないか。それで何処かな、その気になるところは……」


「ここです。街から遠いし、山の中ですけれど」


 上野台さんと西島さんが、スマホをやりとりしながら話し合っている。

 俺は運転しているから確認出来ない。

 他に車がいないし、信号が赤でも注意しながら進行するので、確認出来るような余裕が無いのだ。


 そして魔物も出てこない。

 森岡市街地部分は徹底して魔物を倒したから出てこなくて当然だけれど、その先の田舎道になった部分でも出てこない。


 だから俺はひたすら車を走らせるだけだ。

 聞こえてくる感じでは、宿を変更する方向に話が行っている模様。

 ただし地名がわからないから、俺には何処に変更したかはわからない。


 そんな状態のまま走っていって、『飽田106km 多沢湖32km』の青看を過ぎたところで道が片側一車線になった。


「もう少し行ったら左折するからさ。手前になったらまた言うけれど」


 上野台さんから指示が入る。


「国道を真っ直ぐ行かないんですか」


「左側にちょっとした集落があるんだ。せいぜい魔物一~二体程度だろうけれど、取りこぼさずにとっておきたい。多分次の信号だ。あと二分位はかかるだろうけれど」


「わかりました」


 その先を言われた通り曲がって、両側で二車線のいかにも田舎の主要道路という感じの道に入る。


「いたいた。この街に二体だ。先を急ぎたいからさ、今回は私が魔法で倒しておくよ。速度を三〇キロ位に落として走ってくれないか」


「わかりました」


 両側はそれなりに家が建ち並んでいる。

 ただしあくまでも普通の家がメインで、店だの農協だのがところどころにあるという感じだ。


 俺の魔法にも魔物の反応が出た。この道の左側三〇メートル位の所だ。

 左側に駅という青看が出たところで、上野台さんが呟くように言う。


「まず一体。ホブゴブリンのレベル五」


 左側にあった公園っぽい場所にいたようだ。俺は確認する余裕がなかったけれど。


「次はこの四〇〇メートル位先、強さは同じ位」


 アーケードや歩道は無いけれど、道の両側に店が建ち並ぶ場所を走って、そして俺の魔法でも魔物を感知したそのすぐ後。


「終了。やっぱりレベル五のホブゴブリンだった。これで当分魔物は出ないと思う」


 上野台さんから終了報告が出た。


「あとは一〇分も走れば、右側に道の駅の看板が出てくる筈だ。そこで一度休憩。あと、今日の宿は変更することにしたからさ。横出盆地で少し時間をかけて魔物を狩って、四時半くらいには宿に向かうという方針にするから」


 どうやら先程の上野台さんと西島さんの話し合い、秘湯を目指す方向で決まったようだ。

 

「場所は道の駅についたら教えるよ。多沢湖から北東に入っていく場所だ」


 それなら……


「結構戻る形ですね」


「ああ。車なら大した距離じゃ無い、とは言えない場所だけれどさ。正直一度は行ってみてもいいかなって所だから、まあいいかってさ」


 経験値稼ぎにはマイナスだろう。

 ただ西島さんが喜ぶなら、それはそれで悪くない。


「まもなく道なりで、さっきの国道に戻る。そうしたら道の駅まで、割とすぐだ」


 ◇◇◇


 上野台さんが言った通り、道の駅はすぐだった。

 一緒に降りた後、上野台と西島さんに今日行く予定の宿について説明して貰う。


「日本でも有名な秘湯の一つです。有名な秘湯というのは矛盾していますけれど」


「ホテルや観光旅館のきっちりとした風呂以外も試したいからさ。場所はここ、蔓湯温泉。という事で、それじゃあとは自分で調べてくれ。土産を漁ってくる」


 見ると本当に山の中だ。俺の運転技術で行けるか、地図と写真で確認してみる。

 どうやら対向車さえ来なければ問題無さそうだ。途中からそこそこ細くはなるけれど、マイクロバスでも走れるようだし。


 どうせ変更はしないのだし、取り敢えず今はお土産漁りをしておくか。

 俺はスマホの画面を切って、そして道の駅に向けて歩き始めた。

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