一四日目 八月一〇日
第二九章 コテコテな秘湯へ
第一二九話 森岡の手前まで
翌朝五時。
今日はスマホのアラームで、普通に起きる事が出来た。
「朝風呂に誘おうかと思ったんですけれど、昨晩は上野台さんと遅くまで話していたみたいでしたから」
なら毎晩遅くまで起きているアピールをすれば、朝風呂の混浴を回避出来るだろうか。
それはそれで面倒だけれど。
なにせこの世界に来てから、早寝早起きが身体に習慣として染みついてしまった。
なので少し遅い時間になると眠くなるのだ。
昨日も実際は遅くまでではなく、二一時半には散会して布団に入ったし。
とりあえず今日は平和に冷凍菓子パン、薄めるタイプの乳酸菌飲料、冷凍野菜のサラダ、ベーコンといった朝食を食べる。
冷凍菓子パンは船台の冷凍食品店から、これでもかという位に持ってきたもので、ベーコンは多崎の道の駅においてあった地元産っぽいもの。
朝食らしい感じで悪くない。
そして今まで同様、朝六時に宿を出る。
「昨日と同様、魔物がまた出ている可能性があるからさ。まずは森岡まで高速で向かいつつ、この辺の状況を確認。ある程度いそうなら森岡で経験値稼ぎをした後、一般道を南下して、適当なところで高速に乗って飽田道方面へ向かう。それでいいか」
「わかりました」
俺のゆっくり目の運転でも、高速までは10分かからない。
そして高速に乗って割とすぐ、サービスエリアがあった。
なので当然止まって、物色だ。
「何かここ、良さそうな洋菓子が多いな。それっぽいバームクーヘンとか、限定チーズケーキとか」
「今までと少し違うものがありますね。あとこの大人のクッキーって、何処が大人なんでしょうか」
例によって時間がかかりそうなので、ガソリンスタンドに寄って給油をしたりして待つ。
ここはセルフではないので給油出来た。
現在、まだ時間は七時前。でもこの調子なら、ここで八時のレポートを確認する事になるかもしれない。
そんな事を思いつつ、駐車場に描かれた矢印を逆走して、売店に一番近い駐車スペースへと戻る。
車を止めて降りようとしたところで、二人が売店から戻ってきた。
思ったより早いけれど、これで終わりだろうか。
「どうですか、今回の収穫は」
「良さそうな洋菓子が結構多かった印象です。チーズケーキだけでも何種類もあったんですけれど、全部持ってくるとクーラーボックスにも入らなくなるので、冷凍のスティックタイプをメインにして選びました。あとバームクーヘンも箱の大きいのと一口サイズのと、ロールケーキもヨーグルト入りで美味しそうなのの小分けの冷凍と」
「街中の店と違って賞味期限が長めのが多くて、こういう時でも楽しめるよな。ただこの辺は牧畜も盛んなのか、どのサービスエリアにもチーズケーキがあるって感じだ。だから今日の十時のおやつで、6種類ほど出して食べ比べてみようと思う。
あとは牡蠣やツブ貝、ホヤの炙りとか、牡蠣味噌なんてのも仕入れた。夜の一杯時間のお楽しみだな、この辺は」
割と容赦なく持ってきたようだ。
以前に比べて遙かに物を持ってくるようになったのは、
それともクーラーボックスで大量収納出来るせいだろうか。
まあ楽しければそれでいいけれど。
そう思いつつ、俺は二人に声を掛ける。
「それじゃ行きますよ」
ここから森岡は、もう遠くない。
三十分程度、つまりレポートの時間までには到着出来る筈だ。
◇◇◇
今日のレポートは、西島さんが魔物を倒すために車外に出ている間に、確認した。
『十三日経過時点における日本国第1ブロックのレポート
多重化措置後十三/三五経過
ブロック内魔物出現数累計:一七万一五七一体
うち二十四時間以内の出現数:一四五二体
魔物消去数累計:三万四一八五体
うち二十四時間以内の消去数:一五五二体
開始時人口:一一九人
現在の人口:九四人
直近二十四時間以内の死者数:一人
うち魔物によるもの:一人
累計死者数:二五人
うち魔物によるもの:一七人
現時点でのレベル状況
人間の平均レベル:三八・二
人間の最高レベル:レベル五二
人間の最低レベル:六
魔物の平均レベル:六・二
魔物の最高レベル:四二
魔物の最低レベル:一
なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大十三となります。ご注意下さい。
本ブロックにおける魔物出現率:四九・二パーセント
歪み消失率 四〇・一パーセント』
「今回のレポート、上野台さんはどう見ますか?」
こういった情報を読み取る能力は俺より上だろう、上野台さんに聞いてみる。
「魔物出現率がほぼ半分って事はさ、残りは今まで出てきたのと同じ程度って事だろう。数的には峠を越えたんだろうな、間違いなく。都会だとレベルが高いのが出てきそうだけれどさ。この辺でも一応注意はした方がいいんだろう。
あと人間のレベルは伸び悩んでいるように感じるな。魔物の最高レベルは確実に上がっているのにさ」
なるほど、残りの魔物出現は今までと同じ程度と考えればいいのか。
「今現在出ている魔物と、今まで出てきた分の魔物を倒せばいいって事ですか」
「大雑把に考えるとそうだな。ただ初期に比べると、レベルがそれなりに上がって出てくるようになっている。だから数は減るだろうな。その分、経験値稼ぎに走り回る必要がある訳だ」
走り回る必要がある、か。
「船台あたりでももう出にくくなっているなら、他の大都市で人がいるところはどうでしょうか」
「わからないな。人間がどう動くかは予測しにくいからさ。ただWebで協力者募集をしていたあの名古屋の奴は失敗したみたいだ。昨日朝以降、更新が途絶えている」
ちょっと考えて、そして思い出す。
「世界を無事に終わらせるから協力者を求む、って奴ですか」
「そうそう。どう失敗したかはわからないけれどさ。魔力の配分に失敗して魔物に反乱されたか、慎重にやりすぎて近辺で魔物を狩れなくなったか。パターンは色々考えられるけれどさ。考えても答合わせは出来ないな」
そんな事を話していると銃声がした。
一発、二発。そしてもう一発。
二発目までは拳銃の音で、最後の一発はライフルだ。
何かあったのだろうか。此処からでは西島さんがいる場所がよく見えない。
とっさに扉を開けて外に出ようとしたところで。
「大丈夫だ。魔物は倒れたし、咲良ちゃんは全然問題無い。魔物がなかなか出てこないから、銃声で向こうに気づかせたんだろう」
上野台さんの言葉にほっと一息つく。
すぐに西島さんが戻ってきた。車に乗り込んで、扉を閉めて。
「今回の魔物、居場所はわかるんですが、なかなか出てきませんでした。なので大声を出してみたんですが、私の声ではうまく響かなかったです。拳銃を撃って音を響かせたら、やっと気づいて出てきました」
上野台さんが言った通りのようだ。
「大声を出すのもそれなりのテクニックがあるからさ。何なら何処かで練習してみるか?」
「何でも知っているんですね、上野台さんは」
確かにそうだなと感じる。
「何でもではないさ。前にも話したかもしれないけれど、演劇かぶれ、それも演じる方の友人がいたんだ。ついでに一緒に練習したから、ある程度は発声練習のやり方を覚えただけでさ」
なるほど。でも何で一緒に練習したのだろう。
そう思いつつ、俺はシートに座り直して、ブレーキを踏んで、パーキングブレーキを解除する。
「それじゃ出ます」
船台ほどではないが、森岡もそれなりに大きな街だ。
西島さんが倒した魔物が今日の一二体目だけれど、まだ森岡の南側で中心部までは行っていない。
これならそこそこ経験値を稼げるかな。
でも日本海側まで行くのに間に合うだろうか。
まあ途中までしか行けなくても、西島さんがそれなりの宿を探してはくれるだろう。
そんな事を思いつつ、車を走らせる。
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