一六日目 八月一二日

第三一章 順調な一日

第一四三話 順調な朝

 今日は西島さんに起こされたのだが、時間は五時半。

 つまりは朝食寸前という時間。

 西島さんに早朝起こされて、風呂直行という事はなかった。


 起きた時点で既にコーヒーのいい香りがしていた。

 朝食はいつもと同じ、菓子パンとピザ、コーヒーという内容。


 なお朝食の時に、上野台さんが今日の予定について話した。


「やっぱり少しは経験値を稼いでおこうと思うからさ。今日は飽田は無視して、街々で魔物を倒しながら青盛方向へ向かおうと思っている」


「つまり、ある程度の集団になってしまうのは許容して、経験値稼ぎを優先する訳ですね」


「そういう事。昨日みたいに飽田のあちこちに出る魔物を一体ずつ倒すのは疲れるからさ。どうせなら同じところを行ったり来たりするより、普通に移動した方がいい。魔物の集団でも今のレベルで二十体くらいまでなら、そう危ないことなく倒せるしさ」


 そして今日も朝六時に出発して、青盛方面に向かっている。

 

 朝から魔物は結構出てきた。

 宿から出て一キロもしないうちに、レベル六のホブゴブリンが出てきたし、三種ではレベル八のバガブも出た。


 そして今は能白の中心部で、魔物の集団を迎え撃とうというところだ。


「いい感じで駅前から南へゆっくり動いているからさ。ささっと先回りして、待ち伏せして倒してしまおう」


 上野台さんのそんな意見で、国道と駅前へ向かう通りの交差点手前に車を停め、待ち伏せている。


「田谷君以外は、敵を倒すのではなく動きを止めるの優先。足元狙いでいいと思う。私も基本的に足を狙うから。田谷君は最初は普通に撃って、動ける敵がいなくなったらとどめ。街中なんでちょい敵が近いから、火球魔法や弓矢なんてのには注意すること」


「わかりました」


 そこそこ広い交差点で、角にドラッグストアがある。四角く垂直で影に隠れやすいその建物の影で待つ。

 敵が来る予定なのは、両側に歩道があるそこそこ広めの二車線道路。


 途中で斜めにまがっているので、ここから狙える距離は概ね五〇〇メートル。なので敵の火球魔法の射程外だ。


 それに交差点が広いから、火球魔法が飛来しても逃げるのは難しくない。

 だから問題はないだろう。


「前からゆっくりと、でも着実に近づいてきますね。この後ろ側に何か目標になるものがあるのでしょうか」


「合理的な経路を通るとか以前に説明があったからさ。その合理的経路として、この国道を目指しているんだと思う」


 なるほど。なら同じ方法を他でもとれるかもしれない。必ずしも国道が合理的経路とは限らないだろうけれど。


「基本的に足元狙いで、火球を撃ってきたら左に逃げるでいいですね」


「ああ。直撃でなければ、田谷君の魔法で防御出来るようだ」


「ならある程度、手前側に寄せた方がいいですね」


「まあそうだけれどさ。敵全体が見えたら攻撃開始してもいいんじゃないか。その方が安全だしさ」


「確かにその方が安全ですよね」


 俺も一応、確認できたことを伝えておこう。


「数は二三体。俺の魔法じゃ強さはわからないけれど」


「数は多いけれど、ボスのレベルは一四くらいだと思う。高くても一六程度。歪みがそんなに強くないから」


 そんな事を話しながら待って、そして。


 魔物が姿を現した。先頭は緑色、ゴブリンだ。

 そしてその背後にホブゴブリン、バガブといつもの魔物が見える。


「そろそろ行くか」


「そうですね」


 攻撃開始だ。

 俺がまず道の中央に出て、メインで敵を撃つ。

 上野台さんと西島さんは建物影から並木までの間で、障害物に隠れつつ敵の足元狙い。

 

 自動照準があるので、狙い撃つ手間はほとんどない。

 あっという間に五発の弾を撃ち尽くし、次のライフルへと持ち替える。


 向こうは矢を射ってきているが、察知+魔法は危険と反応しない。

 どうやら矢の射程は三〇〇メートル以下のようだ。

 そんな事を考えつつ、更に弾を五発撃った。


 敵は動きを止めている。

 矢も飛ばなくなったし、ほとんどの魔物が倒れている。

 しかし反応はまだあるから、倒してはいないようだ。


 ならそろそろ接近して、槍で一気に片付けよう。

 そう思った時、察知+が反応した。


「火球が来る」


「わかりました」


「了解」


 西島さんと上野台さんの後を追うようにして建物影へ。後ろにいるのは、火球の爆発から2人をかばう為だ。


 背後で爆発音と、熱の感触。

 ただしそれだけで、被害は勿論ない。


 今回は最初から対処を考えていたから、それほど脅威だとも感じなかった。

 予定通りに避けた、それだけだ。


 西島さんがライフルを俺に渡した。


「そのライフルなら、私の自動装填が使えます。連射しても大丈夫です」


「ありがとう」


 爆風が去ったのを確認し、再び道路の中央へと出る。

 あとはもう、ライフルを連射して敵を倒すだけだ。


 弾の補充を二回、更に二発で計一二発撃ったところで敵の反応が完全になくなった。

 スマホを確認する。


『ゴブリンリーダー1体、アークゴブリン2体……』


 敵は全滅したようだ。察知+でも周囲一キロ圏内に魔物は確認出来ない。


「どうでした? どれくらい経験値が稼げました?」


 スマホでさっと確認。


「四三五。レベル四六になった。自動装填魔法も手に入った」


「ならその辺の確認を含めて、何処かで休憩しようか。来る途中にあったホテルでいいだろう。もうすぐ八時のレポートだしさ」


 すでに結構戦った感じがしている。

 しかし実際は、朝起きて、道なりに魔物を倒して、能白まで来て集団と戦っただけだ。


 スマホに表示された時刻は、午前七時四八分。

 確かに今日のレポートは、落ち着ける場所で読みたい。

 他の人や魔物の最高レベルがどのくらいかを、しっかり確認しておきたいから。

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