第一四四話 順調な活動の後に

 ちょうど朝食提供中だったらしく、ホテルの食堂はそれなりに散らかっていた。

 なので食堂ではなく、ロビーに置かれたソファーとテーブルに陣取る。


『一五日経過時点における日本国第1ブロックのレポート

 多重化措置後一五/三五経過


 ブロック内魔物出現数累計:一七万九四一一体 

 うち二十四時間以内の出現数:六五三三体  

 魔物消去数累計:三万六九六六体

 うち二十四時間以内の消去数:一三〇七体

 開始時人口:一一九人

 現在の人口:九〇人

 直近二十四時間以内の死者数:四人

  うち魔物によるもの:四人

 累計死者数:二九人

  うち魔物によるもの:二一人


 現時点でのレベル状況

 人間の平均レベル:四〇・七 

 人間の最高レベル:レベル六一

 人間の最低レベル:六

 魔物の平均レベル:八・八 

 魔物の最高レベル:五一 

 魔物の最低レベル:一 

 なお現時点以降、発生時の魔物レベルが最大一五となります。ご注意下さい。


 本ブロックにおける魔物出現率:六〇・七パーセント

 歪み消失率 四六・二パーセント』


 こうやって見ると感じる。


「こうやってみると人間の平均レベル、高いな」

 

 俺がレベル四六だ。西島さんがレベル四二か四三で、上野台さんは四一あたりだと思う。


「そうですね。私達も結構戦っている気がするんですけれど、それでも平均とそう差が無いですから」


「ただ、昨日と比べるとあまり上がっていないな。魔物が一気に出現したから、普通ならもっとレベルが上がってもおかしくない」


 昨日は幾つだったろうか。

 そう思って見ると、スマホに表示される。


『昨日の人間の平均レベル:三九・二』


 確かに、これだけ魔物が多数出てきて、一・五しか上がっていないのはおかしい。

 となると……


「魔物に倒された死者のレベルが、それぞれ高かったんですかね」


「そうだとすれば、魔物を支配してレベルを稼いでいたあたりが、やられたんだろう。勢力範囲内により強い魔物が何体も出現した結果、倒すにも支配下にいれるにも魔力が足りなくなるとか。私の勝手な推測だけれどさ」


 上野台さんが言った事は、確かにありうると感じる。


「つまり支配魔法を使わずに経験値を稼ぐ方が正解だったと」


「ああ。高レベルの魔物を支配するには、それなりの魔力が必要だからさ。昨日からの大量発生は、最悪の番狂わせなんじゃないか」


 なるほど。


「そしてレベル六一が人間の最高だとすると、田谷君が追いつくには、経験値を四二〇〇くらい稼がないとならない。ただレベル一四換算だと魔物一〇〇体分だから、集団を五~六個倒せばと考えればそう難しくない」


 言われてみると、確かにそんな気がする。

 実際には俺以外も経験値を上げようと戦っている筈だから、そう簡単に追いつけはしないだろうけれど。


「これから大楯、弘先、青盛と回る。一箇所に付き二〇体の魔物を倒すなら、合計六〇体の魔物を倒せる訳だ。勿論全部がレベル一四という事は無いだろうけれど、かなりいい線行くだろう。という事で、今日はガンガンに行くから。それでも集団相手が中心だから、昨日程せわしなくはならないと思うし、それなりに安全に戦えるように考えるけれど。

 そして咲良ちゃんは、申し訳ないけれど青盛あたりで良さそうな宿を探しておいてくれないか」


「うーん、朝虫温泉か、黒意志温泉郷かどちらか。青盛からの距離を考えると朝虫温泉ですね。昨日の宿の泉質がいまひとつだったので、今度は源泉掛け流しの宿を探します」


 西島さんは平常運転だ。上野台さんが今言った作戦に、特に異議その他があるような感じはしない。


「それじゃ行こうか」

 

 俺達は立ち上がる。


 ◇◇◇


 夕方五時過ぎ。


「左の大きな宿を通り過ぎた二軒先が今日の宿です。道の反対側に駐車場があるそうです」


 言われた通り走る。左側にそれっぽい建物があった。

 

「前に停められそうだ」


 頭を突っ込んで、ハンドルを思い切り回し、玄関前に横付けという形で停める。


「そう言えば今日の夕食はカレーでいいですか」


 西島さんがそう言って、クーラーボックスの方をごそごそし始めた。


「いいよ。久しぶりだけれど」


「ここの宿、以前はカレーハウスもやっていたみたいなんです。現在は閉店してしまいましたけれど。だから今日はカレーの気分と言う事で、何種類か持っていきますね。あと朝ご飯のパンも」


 積んであるクーラーボックスから必要な食料を取り出して、そして宿へ。


「今日は温泉掛け流しの宿を選びました。他にも何件かありましたし、源泉を持っている宿もあったのですけれど、私の趣味と少し違ったり、道が大変そうだったりしたんです。あと海が見える場所が好きなんです」


 西島さんの好みは、相変わらずという感じだ。

 中へ入って、例によって西島さんがフロントで鍵をキープ。


「まだ夕日の時間じゃないなので、お風呂に行きましょう。大きくはないけれど、いい感じのお風呂らしいですから」


「確かに風呂でのんびりしたいな。今までで一番多くの魔物を倒したしさ」


 確かにその通りだ。能白の後、大楯、弘先、五所河原、そして青盛で二つ、魔物の集団を倒した。

 単独で出てきた魔物も含めると、余裕で一〇〇体を超えている。


 それらの魔物のほとんどのとどめを俺が刺した為、稼いだ経験値は強烈なことになっている。

 レベル低めな魔物も多かったから。レベル六一までは言っていないけれど、五五までは上がった。

 今朝がレベル四六だから、一気に九レベル上昇だ。


 この調子なら、明後日のレポートではトップに追いついているかもしれない。

 昨日のトップは六一だったから、今日のペースで行けば明日には追い越せる筈だ。


 それでも昨日ほど疲れた感じはしないのは、集団相手がほとんどだったから。だから戦闘回数そのものは昨日より少ない。

 それに今日は集団相手でも、難しい戦いはなかった。セオリー通り、火球魔法の範囲外から狙う形だ。

 だから危険を感じることは無かった。


 それにしても最近は宿についたら風呂直行だな。

 そう思いつつ、西島さんの後をついていく。

 普通に温泉っぽい暖簾がかかっている場所があったけれど、西島さんはそっちではなく右側へ。

 

「大浴場も悪くないんですけれど、まずはこっちを試してみようと思います。窓を全回で半露天風呂風に楽しめる上、寝湯としても使えるお風呂です」


 えっ、寝湯!? 

 嫌な予感が……

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