第二二話 問題事案勃発?

 部屋を一見した印象はマンションの広告写真。つまりは綺麗で開放的で生活感が無い快適空間という雰囲気だ。


 正面の窓の外には海が広がる。部屋は左側手前がダイニング、奥が和室。右側手前がダブルサイズのベッドが2つ並ぶ寝室で、その向こうがガラス張りの半露天風呂。


「掃除もしてあるしカバーも替えてあるから問題ないです。それでは端と端を測ってみます」


 レーザー測定器で縦、横、対角線と測定。トイレから反対側のテラスまでが十一メートルちょっと。これが最長で、あとはどこを測っても十メートル以内。


「大丈夫そうです」


 更に西島さんは入口近くの収納庫を開ける。タオルや浴衣、バスローブなんてアイテムがセットされていた。

 彼女は浴衣とバスローブを手にする。


「さすがにバスローブで館内を歩くのは何ですから浴衣と羽織ですね、ここは。

 あとお風呂へは着替えて行こうかと思いましたけれど、よく考えたらこのまま浴衣と羽織、タオルを持っていけばいいですね。帰るときに着替えればいいですから」


 西島さん、何か大浴場をものすごく楽しみにしているようだ。僕としては単に風呂が大きい以外の意味は感じないのだけれど。


「服やタオルを持っていくのにこの袋を使います。後で今着ている服を持って帰りますから。あとスマホと拳銃は持って行かないと危ないですよね。スマホは防水ですけれど、拳銃はお風呂、大丈夫でしょうか……大丈夫みたいです」


 検索して自己解決したようだ。

 俺もとりあえず浴衣と羽織、タオルを別の袋に入れる。スマホはポケット、拳銃はサックにつけて持っているからこれでいいだろう。あ、でも警棒くらいは袋に入れておくか。


「お風呂は東館の九階です」


 スマホに魔物の反応はない。元々大新井町は人口が一万六千人程度。だから魔物の発生数は多くないだろう。ピンポイントで魔物が発生するなんて可能性はかなり低い筈だ。

 一応は用心する方がいいとは思うけれど。


 エレベーターに乗って九階へ。そして男女別ののれんがかかった入口へ。


「それじゃ出る時はSNSで連絡するから」


「ちょっと待って下さい。一人だと怖いです。魔物が出るかもしれないですから」


 えっ!? でもここはお風呂だぞ!


「だから一緒に入りましょう。でもその前に、男女どっちのお風呂がいいか、中を見てからです」


 えっ!! 本気だろうか。


「それじゃ一緒に中を確認しましょう」


 そのまま二人で手前の男湯へ。まずは普通の脱衣所とロッカー。しかしそんなの目に入らない。

 一緒に入るなんていいのだろうか。確かに西島さんは年齢が下だろうけれどそれでも中学生くらいではある気がするのだけれど。


「こちらにあるのはドライヤー、かみそり、櫛ですか。ではお風呂の方を見てみます」


 西島さんに引っ張られるような感じで服を着て荷物を持ったままお風呂へ。

 巨大なガラス窓とそこから見える海景色が絶景だ。そして内装は茶色い石造り。ただし広さ以外は普通の風呂だ。特に変わった浴槽がある訳ではない。


「景色がいいですね。あとシャンプーとかリンス、ボディソープは完備。中もそこそこ綺麗です。

 それじゃ女子側を見てきましょう」


 他に誰もいないのはわかっている。しかし女湯へ入るのはいけない事をしている気がして仕方ない。まあこの後西島さんと一緒に風呂に入るという問題事案がありそうな……本気だろうか?


「やっぱり女性側の方がアイテムは揃っていますね。髪ゴムもシャワーキャップもありますから。それじゃお風呂の方を見ます」


 中はほぼ同じ造りだ。違いは窓から見える景色だけ。こちらも外が海だけれど、横に大新井の港や町が見える。


「こっちがいいですね。お湯の温度も問題ない感じです。それじゃ入りましょうか」


 更衣室へ戻る途中、勇気を出して聞いてみた。


「風呂、本当に一緒で大丈夫か?」


「他に人がいなければ問題ないですよね。それに一緒の方が安心です。あ、もしカミソリとか必要なら隣から持ってきて下さい」


 あっさり。それどころかロッカーを開け荷物を入れると服を脱ぎ始めた。西島さんの方を観察しているわけじゃない。鏡があるから見えるだけで。


「わかった。それじゃカミソリや櫛を取ってくる」


 このまま同じ空間にいると悪いような気がした。西島さんがそう思っているというより俺の意識しすぎなのだろうけれど。


 カミソリと櫛を取って、そして三十秒くらい数えてから戻る。もっと待った方が安心なのだがあまり遅いと西島さんが不安になるかもしれない。


 戻ったら既に脱衣所に彼女はいなかった。ほっと一安心。西島さんが服を脱いでいた場所と少し離れたロッカーを選んで荷物を入れ、服を脱ぐ。


 タオル小、拳銃、警棒、スマホ、カミソリを持って、そして風呂へ。とりあえず身体を洗うかと見た結果、思い切り西島さんが見えてしまった。すぐに目をそらしたけれど、白い背中とお尻が思い切り焼き付いてしまう。


 見ていないふり、気づかないふりをしつつ洗い場へ。隣というのは問題だけれどあまり離れているのもおかしい気がする。そう思ったので間に二人分おいたところに陣取る。


 うん、真横だから西島さんは見えない。見たくないかというと嘘だけれど、この場合見えないのが正解。

 拳銃と警棒、スマホを水がかからないよう隣の洗面器に入れて少し離して置く。

 それでは余分な事を考えないよう身体を洗うとしよう。シャワーを取って、水栓を押した。

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