第五章 本日の宿

第二一話 ホテル内の確認

 ホームセンターを午後三時過ぎに出発。途中で三回程ゴブリンが出現して倒す。

 うち一回で俺の番で作った槍の威力を確認。


「思ったより使いやすい。敵のレベルが上がって動きが速くなったら拳銃よりも使いやすいかもしれない」


 拳銃は狙いをつけて引き金を引いて、弾を当てなければ効果がない。しかし槍ならある程度の距離まで近づけば簡単に刺す事が出来る。俺のレベルが上がって腕力が上がったからか重さも感じない。


 良い包丁だからかそれほど力を入れなくても簡単に刺さる。最初に作った槍の様に刺さりすぎて危ないという事もない。太くなっている包丁取り付け部で止まるから。


 拳銃と比べて遠くに攻撃出来ないという欠点はある。しかし拳銃でも十メートル離れると当てにくい。なら接近してでも確実に仕留められる槍の方が楽だ。少なくとも俺は、だけれども。


「私は敵が近すぎて怖いです。拳銃を連射する方があっている気がします」


 西島さんはそういう意見のようだ。なら本当はより威力が大きく装弾数が多い拳銃を使いたいところ。

 しかし自衛隊や米軍の装備を使えない現状では今の警察用拳銃が無難なのだろう。弾の入手しやすさもある。


 午後四時過ぎに大新井、本日の宿の前へと到着。もろ眼の前は砂浜という場所に建つなかなかいい感じの宿だ。

 しかし宿に入る前にする事がある。


「この辺を一通り回って付近の魔物を片付けておこう。大新井町の人口を考えると、一日につき五体くらいは魔物が出現する筈だから。勿論町域全体での話でホテル近辺に限った話ではないけれど」


「そうですね。その方が安心です」


 人家が多い町らしい部分だけならそこまで広くない。スクーターでぐるっと回っても二〇分しない程度だ。

 俺が二体を槍で、西島さんが一体を拳銃で倒して、更に途中のコンビニで夕食を調達してホテル前へと戻る。


「戸締まりをしながら中に魔物がいないか確認しましょうか」


「そうだな」


 ゴブリンもその気になれば窓ガラスくらいは壊せる気がする。しかしそういった行動をとればその分こちらも気づきやすいだろう。

 まずはフロントとその裏の事務室でひととおりの鍵を拝借。 弁当等の荷物をロビーに置いて、スマホが反応しないのを確認しながらホテル内を一階から回る。


「戸締まりは一階だけでいいかな」


「そうですね。階段でもない限り外から入ってこれないと思います」


 外に通じる窓や扉を従業員用スペースを含め全て確認。閉じて鍵を閉めておく。


 一階はロビー、ラウンジ、レストラン、そして宿専用プール関係の施設。スマホの反応はない。現時点ではとりあえず魔物はいないようだ。

 ただし残念な発見があった。


「もう少し早く、せめてお昼までに来ていればバイキングを楽しめたかもしれませんね」


 食堂が朝食バイキング状態のままになっていた。ご飯や卵焼き、焼き魚、貝、海藻類、生野菜、パン等が並んでいる。


 異臭がするとかはない。しかし食べ物はいかにも時間を置いてしまったという感じだ。冷房が効いているとは言えやめておいた方がいいだろう。


「確かに気が付かなかった、これは」


「考えてみればコンビニでバイキングしていたようなものですよね、私達も。どちらも傷む時間が同じなら、損はない気がします」


 それでも悔しい。表情を見るに西島さんも同様な模様。今の言葉は自分に言い聞かせているように感じるから。


 一階を見終わったら二階へ。ここは宴会場となる大広間ばかりの模様。


「スマホに反応しないという事は、ここから上の階にも魔物はいないという事でいいよな」


「そう思います。一〇〇メートルの範囲内ならスマホから警告が出ますから」


「ならあとは泊まる部屋を確認でいいか」


「あとは上にあるお風呂を見ておきたいです。泊まる部屋を決めて、着替えてからでいいですけれど」


 西島さん、大浴場を楽しむ気満々だ。まあいきなり魔物がわくなんて可能性はそう高くない。それに魔物は人の一〇メートル以内には発生しない筈。


 だから拳銃とスマホを持ち歩いておけば万が一という際にも何とかなるだろう。そういうときは万が一に供えて近くで俺も待機するつもりだけれど。


「わかった。それじゃ部屋は何処にする? 魔物の発生を防ぐ為に、広すぎない部屋で隣同士がいいと思うけれど」


 このホテルのどの辺にどんな部屋があるのか俺は知らない。だからしらみつぶしに部屋を開けて確認する必要がある。

 ただ廊下に並ぶ扉の間隔で部屋の広さは大体わかるだろう。だから使用中の部屋が多く無い限りそう面倒な事は無いと思う。


「隣同士って、別の部屋ですか?」


 えっ?


「その方が安心だし楽だろ?」


「万が一の事を考えると同じ部屋の方が安心です。ご飯を一緒に食べたり明日以降の事を相談するのも楽だと思います」


 それは確かにその通りだ。しかし本当に同じ部屋でいいのだろうか。一応男子と女子なんだし。


 ただ西島さんは入院で相部屋に慣れているのかもしれない。だからそういった事は気にならないなんて可能性はある。

 それに別部屋にこだわると変に意識しているように思われてしまうような気もする。


 結論が出た。同じ部屋という案に俺は反対できない。


「わかった。それじゃ同じ部屋にしようか」


「部屋の目星はつけてあります。中央館の五階、五一六号室です」


 西島さん、どうやら調査済みのようだ。どんな部屋だろう。そう思いつつエレベーターにのり上を目指す。


「どんな部屋?」


「エグゼクティブスイートルームです。テーブルもあって中でご飯を食べるのにもいいし、海が見えるお風呂があるので夜でも入りたい時に入れます。鍵がフロントに二つあったので、使用中ではないと思います」

 

 名前からして高くて広そうな部屋だ。


「部屋があまり広いと危なくないか? 魔物が出ないのは十メートル以内だから」


「ネットに間取り図が出ていたので一応確認はしました。二人で同じトイレにこもるとかしない限り大丈夫な筈です。勿論中へ入ったら計ってみます」


 その為にホームセンターでレーザー測定器を調達済みだ。

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