第二〇話 武器入手とスクーター改造
わかってはいた。しかしこのホームセンター、異常なまでに広い。
全部を見て必要なものを選ぶなんてのは早々に断念した。だから案内を見て農具や工具など、武器になりそうなものがありそうな場所を重点的に確認。
そして俺達は理解した。日本の場合、何でも揃っているような巨大ホームセンターでも本格的な武器として転用できるものはそう売っていない事を。
「結局は肉厚な包丁が一番でしょうか。この出刃包丁のような」
「確かにそうだよな。この鉈だと突き刺して攻撃とかやりにくそうだし」
買い物用カートを転がしながら武器になりそうなものをピックアップして入れている。現在カートに入っているのは、
○ 金テコという、いわゆるバールのようなものの長い奴(全長一・八メートル)
○ 包丁
(出刃刃渡り二一〇ミリ、柳刃刃渡り三三〇ミリ)
○ 柄(農具等を先につける為用の長い木の棒)
○ ステンレスパイプ
といった感じだ。
フグ引き包丁や鮭切り包丁は横から見るとなかなか凶悪だ。しかし持ってみると刃が薄すぎて不安。
ハモ切り包丁は分厚いのだけれど、刺突には向かなそう。
牛刀は出刃より細くて薄くて今ひとつ頼りない。
なので武器としては出刃包丁の大きめのものがバランスがいいと感じる。
ただハモ切り包丁の分厚さは捨て難かったので一応入れている。
ネットではスコップ最強説とかもあった。しかし実際に見るとあまり戦闘で便利そうには見えない。接近戦で攻防両用に使えるとあったけれど、実際はそれより遠い位置から槍でぶっ刺した方が楽で安全だろう。
「あとでどれかの棒の先にこの包丁をつけるとしよう。針金でガンガンに巻いてハンダやホットボンドで固めれば大丈夫だろう」
「そうですね。ある程度長い方が安心出来ます。あまり長いと使いにくそうですからこの位の長さがいいです。
ただ私の場合は、当分は腕力があまり必要ではない拳銃を使うと思います」
またスマホも手に入れた。これは西島さん用だ。
「タブレットは画面が広くて便利なんですけれど、持ち運んで見るには不便です。だから小さ目のスマホが使えれば便利だと思って」
スマホは長椅子を四つつなげて作った仮説ブースみたいな場所で売っていた。きっと何かの販促キャンペーンなのだろう。
見本のモックアップだけではなく本体があった。箱から出して確認、そこそこ充電されているようだ。
「これってSIMを移せば使えますよね」
「だと思う。何ならデザリングかけてもいいけれど」
「こっちをメインにします。タブレットは宿についた後や食事をしたりする時しか使えませんから」
スマホの箱に同梱されていたピンを利用してSIMを移植。電源を入れるとしばらくの起動シークエンスの後、普通に動いた。
「あとはこれであの表示が出るかですけれど……問題ないそうです」
西島さんは僕に新しいスマホの画面を見せる。画面にはこんな文字列が表示されていた。
『こちらの端末でも今までと同様に使用可能です』
このメッセージを出している担当者はおそらく超常的な存在なのだろう。神とか天使とか悪魔とか、そういった感じの。
こちらが考えている事を読み取って、各自のスマホに直接メッセージを飛ばすなんて事、普通の人間や機械類には不可能だ。
それでも時々何というか親切さを感じる。あとどことなく人間っぽさも。
西島さんはスマホを設定した後、販促グッズらしい腕につけるタイプのスマホホルダーにスマホを装着し、左腕に巻いた。
「これでスクーターの後ろに乗っている時でも見る事が出来ます」
確かに便利そうだ。今、俺はスマホをスクーターにつけたりポケットに入れたりしているけれど、この方がいいかもしれない。
ただナビ代わりに使うには少々見にくそうだ。魔物が出た時やこうやってスクーターを降りている時には便利だろうけれど。
後で欲しくなった時の為に、このホルダーだけ貰っておこう。このくらいなら荷物にならないし。
なお長物武器を入れて運ぶのに良さそうなケースもあった。大型の釣り竿入れだ。これをスクーターの何処かに引っかける等すれば長物武器も持ち運べそうだ。長すぎるものやショベル面部分は上に出す事になるけれど。
あとは一応、鉈とかサバイバルナイフとか包丁を追加。耐切創性保護手袋なんてのも追加。
更にはスクーター用の荷物ボックスやボックス取り付け用のステー、荷台やボックスに武器を入れた竿ケースを固定する金具、包丁を槍として固定する為の針金やハンダ、ハンダこて、ホットボンドなどを入れた。
部屋の大きさを測って魔物が出ない範囲か確認する為のレーザー測定器も。
まだまだ見回っていないコーナーも多い。しかし必要なものはひととおり網羅したように思う。
「こんなところか。ただスクーターでこの荷物が運べるようにしないと。だから此処の工具を借りてスクーターや槍の作業をしようと思う」
西島さんは左腕のスマホで時間を確認。今回手に入れたスマホかスマホホルダー、結構気に入っているようだ。そう言ってはいないのだけれど、表情や雰囲気でそう感じる。
「工具を向こうへ持って行くより、ここまでスクーターを持ってきた方が早い気がします。通路は広いですし階段もありませんし、外で作業をすると暑いです」
確かに外は夏のまっ昼間。作業をすると暑いだろう。スクーターで走っている時は風があるからましだけれど。
今の状況ならスクーターに乗ったまま店内へ入ってきても問題ない。西島さんが言ったとおり障害もなかった。強いて言えば床が道路より滑りやすそうな位。
「ならスクーターを取ってくる。ここで待っていて」
「一緒に行きます。突然魔物が出ると怖いですから」
確かに二人で行動した方が安全だろう。今のところ魔物の反応は無いけれど、注意した方がいい。
◇◇◇
槍は俺の身長くらいのステンレスパイプに包丁の柄を金属製結束バンドで固定。更に外側を太めの銅針金でぐるぐる巻き。
更にそれらが緩まないようにハンダをこれでもかと盛って固定。とどめに隙間や針金の外側をホットボンドで固めまくった。
結果、見かけは悪いけれどそれなりに頑丈そうな代物が完成。相当な力を入れても包丁部分が取れたりという事はなさそうに感じる。
振り回したり突いたりなんて動作を確認。そこそこ重さがあるのが心強い。突き刺す他、殴るとか叩くなんて使い方をしても効果的だろう。
安全のため鞘タイプの包丁ケースをかぶせて作業完了だ。
そしてスクーターの改良。『POLICE』と書かれたボックスを取り外し、二人乗り用の座席を邪魔しないタイプの純正荷物ボックスに変更した。これで西島さんも少しゆったり座ることが出来る。
更に適当な金具とボルト等で武器が入った釣り竿入れをボックスの後ろにかけられるようにした。ナンバーや尾灯が見えなくなるけれど、今更気にする必要はないだろう。
重量バランスは多少悪くなったと思う。しかしシート部分は広くなったし、この方が便利だ。
どうせそう速度は出さない。注意して走れば大丈夫だろう。
「それじゃ大新井へ行こうか」
「そうですね」
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